市大数学教室

大阪市立大学数学研究所
(Osaka City University Advanced Mathematical Institute)
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2016年度ニュース
   
結び目・絡み目と物理・化学について

大阪市立大学数学研究所(OCAMI)は、21世紀COEプログラム「結び目を焦点とする広角度の数学拠点の形成」の採択(平成15年度)を受けて、 結び目・トポロジー(位相幾何学)を焦点として、数学の研究活動を広角度に展開するという主旨で、平成15年度9月に発足しました。

今年度(2016年度)のノーベル物理学賞では、「トポロジカル相転移と物質のトポロジカル相の理論的発見」により、米大学の3人の理論物理の専門家、 D.Thouless, D. Haldane、M. Kosterlitz の3氏に授与されました。 1次元や2次元のいろいろな物理系の「位相的相転移」に、トポロジーの位相不変量を応用する研究のようです。

今年度(2016年度)のノーベル化学賞では、「分子マシンの設計と合成」により、超分子化学・有機化学の専門家、フランスの J. -P. Sauvage、英国の J. F. Stoddart、オランダの B. Feringa の3氏に授与されました。 分子をひもとみて、結び目や絡み目のトポロジーに着目して、分子を合成するというものです。J. -P. Sauvage教授は三葉結び目(trefoil knot)を分子で初めて合成することに成功した人で、 J. F. Stoddart教授はボロミアン環(Borromean ring)を分子で初めて合成することに成功した人です。このことは、2009年9月の日本数学会市民講演会で紹介しました。

なお、数学研究所は化学科・物質科学科との共催で、2006年4月27日に、J. -P. Sauvage教授による談話会を持ちました。

このように、数学研究所(OCAMI)の目指している数学研究は、現代のサイエンスの最前線において、確実に前進しているといえるでしょう。(文責:河内明夫)

1904年(明治37年)発行の文部省編纂の教科書「小学校教師用手工 教科書 甲」における結び目教育の記述について(2016.07.01改訂)

2016年6月、文部省編纂の教科書「小学校教師用手工教科書 甲」が、柳本朋子(大阪教育大教授兼付属天王寺小学校校長、数学研究所客員教授)により、 偶然大阪教育大付属天王寺小学校において見出されましたが、その際にこの教科書の内容には、結び目の教育が含まれていることがわかりました。
ここに、この教科書のコピーを掲示しておきます。

6月29日には、大阪教育大学数学教育講座のホームページのニュース欄にもこの教科書の記事が、掲載されました。http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~sugaku/sugaku/TOP.html
そこには、当時の教育制度、算数、幾何の教育の状況などの情報も含まれています。

教科書の結び目の教育内容は、小中高校での実践の教材、例えばA. Kawauchi and T. Yanagimoto (ed.), Teaching and Learning ofKnot Theory in School Mathematics, Springer Verlag (2012) と比較しても、かなり高度なものになっています。

この掲示の後、新國 亮(東京女子大学准教授)からは、この教科書の結び目についての論文、津田昇, 消えた教材『紐結』の考察, 美術教育学 :美術科教育学会誌(9)(19871220), 323-333を見出しましたとの連絡を受けました。この論文はhttp://ci.nii.ac.jp/naid/110001852617から閲覧できます。

関連話題として明治時代の科学的結び目の1つの例について述べます。

地震動による観測点の時間パラメータによる軌跡(地震空間曲線)については、「レクチャー結び目理論」(河内明夫著、共立出版2007)や「結び目理論とゲーム」(河内明夫・岸本健吾・清水理佳共著、朝倉書店2013)において、結び目の例の1つとして、説明があります。

そのような地震空間曲線のモデルが、1887年(明治20年)に、同年に起こった地震をもとに、関谷清景(1855-1896)により作製され、国立科学博物館に展示されています (この情報および写真は、2月に新國氏から提供されたものです)。

これらの事実により、日本では、明治時代には既に、結び目を学問する重要性に気付いていたことがわかります。(文責河内明夫)


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最終更新日: 2016年11月8日
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