季節を知るしくみ

多くの動物は季節の変化にあわせて生活しています。季節の変化を無視して、適していない季節に成長や繁殖を行うことは死を 意味するからです。では彼らはどうやって季節を知るのでしょうか?この謎を解く鍵は「昼と夜の長さ」です。ここでは、私たちの研究の一部である「動物が季 節を知るしくみ」について紹介します。

季節を知ることは重要?

 温帯に生息する動物にとって、やはり冬は厳しい季節です。冬の寒さそのものがダメージを与えますし、冬には利用できるエ サも少なくなります。一方、温帯の夏の暑さも動物に大きなダメージを与えます。また、ある特定の植物を利用するような動物にとっては、その植物が得られな いような季節に活動することを避けるべきです。

どうやって季節を知るの?

 季節を知るためには何を見ればよいでしょうか?一番考えやすいのは温度かもしれません。しかし、温度は一日の中でも変動が激しく、さらに、年によっては 暖冬や冷夏もあります(図1)。このように、温度だけで季節を知ろうとすることは危険です。ではどうやって?この答えは「昼と夜の長さ」です。
 不規則な変化をする温度に対して、日長(明るい時間の長さ)あるいは夜長(暗い時間の長さ)は常になめらかに変化します。また、日長には年による違いがありません。よって、季節の到来を知るには大変都合のよい情報なのです。

図1

光周性ってなに?

 生物が日長に反応する性質を光周性といいます。多くの昆虫では、日長に反応して、体の色や形が変わることが知られています。また、日長によって休眠に入 る昆虫も多く知られています。休眠とは、発育や生殖を停止し、冬などの不適切な季節をやり過ごす特別な生理状態を言います。
 たとえば、ホソヘリカメムシの成虫は日長が14時間以上という条件ではすみやかに卵巣を発達させて産卵します。一方、日長が13時間以下では休眠に入り、卵巣の発達を停止し産卵も行いません(図2)。

図2


光周性は重要?

 冬を越した成虫は5月頃に産卵を開始します(図3)。この卵からかえった幼虫は7月中頃に成虫になりますが、この第1世代の虫が育つ期間は日長が15時 間くらいあるので、休眠しない成虫となり、すぐに第2世代の卵を産みます。この第2世代の虫も、まだ臨界日長よりも長い日長の下で育ち、8月半ば以降に成 虫となって産卵を行います。
 ところが、次の第3世代の虫が育つ頃になると、日長は臨界日長より短くなってきます。したがって、第3世代の成虫は、その年は産卵することな く休眠に入ります。もしこの成虫が休眠に入ることなく産卵しても、その卵からかえった幼虫は、冬になる前に成虫になることができません。ホソヘリカメムシ の場合、休眠している成虫だけが冬の寒さと絶食に耐えられるので、寒くなってからではなく、それよりかなり前に休眠に入ることが重要です。そのために、光 周性が重要な役割を果たしています。
図3

光周性のしくみ

 光周性はからだの中のどのようなしくみで行われているのでしょうか?光周性を行うためには少なくとも
(1) 光を受け取るしくみ
(2) 日長を測定するしくみ
(3) 日長の効果を発育に反映するしくみ
が必要です.

図4


おわりに

  光周性という現象は古くから知られていますが,そのしくみについてはほとんどわかっていません.私たちはさまざまなアプローチでこのしくみを解明しようとしています.
 光周性について,そして私たちの研究内容については,岩波ジュニア新書「生きものは昼夜をよむ―光周性のふしぎ―」に詳しく書いてあります.興味のある方はぜひ読んでみて下さい.

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