南大東島のモズの歴史



南大東島ではこれまでに2種のモズ類が確認されている。
1種はアカモズLanius cristatusの一亜種シマアカモズL. c. lucionensis (黒田 1935, SCOSJ 1942, 1958, 日本鳥学会 1974)、 もう1種はモズL. bucephalusの一亜種モズL. bucephalus bucephalusである(森岡 1974, 日本鳥学会 1974)。 南大東島における1972年10月の調査では、それまでの記録と同様にシマアカモズだけが最も普通な鳥として記録され(池原 1973)、 その後繁殖することが記述されている(沖縄野鳥研究会 1986)。
一方、日本鳥学会(1974)には南北大東島におけるモズの生息が記載されており、森岡 (1974)では大東群島 における繁殖が明示された。これらは大東諸島のモズに関する初めての記述である。 その後の1974年5月にはシマアカモズとモズの両種がほぼ同じ割合で記録されている(日本野鳥の会 1975)。 さらに期間は開くが1988-89年には、ほぼ1年を通じてモズだけが多数記録された(大沢・大沢 1990)。 また、15km離れて隣接する北大東島では、1975年5月に南大東島と同様にモズとシマアカモズの両方が記録されていたが(日本野鳥の会 1975)、 1984年1月の調査ではモズだけが普通に見られるとして記録された(池田 1986)。
 これらのことから、南大東島では1972年まではシマアカモズが優占していたと考えられる。 1972年の時点でモズが南大東島に生息していた可能性は否定できないが、モズは1973年から74年にかけた時期に増加し 始めたことは間違いないだろう。つまり、南大東島におけるモズの繁殖個体群は1970年代中頃から80年代後半にかけた時期 にシマアカモズの繁殖個体群からほぼ完全に置き換わったものと考えられる。

これまでに南大東島以外で記録されている九州から台湾に至る島々でのモズの繁殖南限は種子島である(清棲 1952)。南西諸島においては、旅鳥、または冬鳥とされ近年でも観察例は多くない(沖縄野鳥研究会 1986、奄美野鳥の会 1997)。 したがって、海洋島である南大東島はモズの繁殖分布域の南限から約500km海洋によって隔離されていることになる。 このような地理的な障壁を持っている海洋島におけるモズ個体群の確立は、隔離鳥類個体群の形成過程を探る上で有用である。