研究内容


  生命の最も基本的な営みは,「DNA→mRNA→タンパク質」という遺伝情報の伝達です。この過程は,様々なレベルで厳密に調節されています。私たちの研 究室では,DNA修復やヌクレオチド代謝,さらにタンパク質の修飾 (翻訳後修飾) など,ヌクレオチドが関わる調節機構を研究しています。個々のタンパク質の構造と機能を多様な方法を組み合わせて解析することによって,それらを含むシス テムがどのように働くかを明らかにすることを目指しています。

DNA 修復システム

 DNA に変異が生じると,たちまち生命が脅かされることになりかねません。例えば,ヒト DNA の変異は細胞の癌化を引き起こす大きな要因の一つです。そのため,どの生物においても多くの DNA 修復系タンパク質群が DNA 傷害の修復に関与しています。私たちの研究室では,構造機能解析に適した高度好熱菌 Thermus thermophilus HB8 を主な材料として,生化学的な解析や立体構造情報に基いて DNA 修復系タンパク質の基質認識機構や触媒機構の解明を行なっています。さらに,まだ働きがよく分かっていない DNA 修復システム関連のタンパク質についても研究を進めています。

ヌクレオチド代謝システム

 DNA 修復システムとのつながりから,核酸やヌクレオチドの代謝に関わるタンパク質の研究も行ってきました。どの生物のゲノムにも,ヌクレオチドやその誘導体を 分解すると推定される酵素遺伝子が多く存在しますが,それらの基質は不明です。一方,既知のヌクレオチドの代謝経路で働く重要な酵素がゲノム内に見つから ない場合もあります。そこで,遺伝子欠損株やタンパク質の構造・機能を詳しく解析することによって,細胞内シグナル分子や短い RNA を分解する新たな酵素を同定してきました。さらに,ヌクレオチド合成経路に属する酵素の多くがリン酸化されていることも見出しており,それらの制御機構の 解明にも取り組んでいます。

翻訳後修飾

 2003年にヒトゲノムの解読が完了し,ポストゲノム時代が到来,研究の中心は DNA からタンパク質へと広がりました。また,質量分析法とバイオインフォマティクスの進歩により,タンパク質の種類や修飾を迅速に同定することができるように なりました。遺伝情報を超えた新たな機能をタンパク質に付加する翻訳後修飾には,まだ数多くの未知なる代謝調節機構が存在すると考えられています。高度好 熱菌においても多数のリン酸化やアシル化を同定しています。特に,立体構造からみると,活性部位やリガンド結合部位近傍の残基が修飾されているケースが多 いことを見出しています。そこで,翻訳後修飾を担う酵素群の数が少ないという高度好熱菌の利点も生かして,翻訳後修飾による新たな制御機構ならびに制御 ネットワークの解明に取り組んでいます。

高度好熱菌 Thermus thermophilus

 1960年代に伊豆の温泉で,生物の重要な構成成分であるタンパク質の研究に大きく貢献することになる生物が発見されました。バクテリアの一種である Thermus thermophilus (サーマス・サーモフィラス菌) です。この菌は,75度付近の高温を好む高度好熱菌の一種です。高い温度にも耐える安定性の高いタンパク質で構成されており,その構造や働きを調べやすい ことや,遺伝子 (タンパク質) の数が少ないことなど,分子レベルでの研究に適した特徴を持っています。また,好熱菌は進化系統樹の根元近くに属するため,全生物の共通の祖先となった細 胞に近い特徴をもつとも考えられています。この高度好熱菌で見られる生命現象を分子や原子のレべルで解明できれば,すべての生物に必須の生きているしくみ の理解につながると期待しています。

機能未知タンパク質

 全ゲノム配列決定が容易になった結果,多くの新しいタンパク質(遺伝子)の存在や機能を配列情報から予測することはかなり容易になりました。しかし,ど の生物種でも,全遺伝子の1/3〜1/2はその配列からだけでは機能を予測できない「機能未知タンパク質」をコードしています。生命現象の全体像を分子レ ベルから理解するためには,それら機能未知タンパク質の機能の解明も必要です。一口に機能未知タンパク質といっても,配列から分子機能を予想できるものも あれば,遺伝子欠損株の表現型から重要性だけが示唆されているものまで,その「分からなさ」の程度はさまざまです。しかし,それらの中には重要な生理的機 能を担っているものがまだあるに違いない,分からないもの・ことを探求することこそが研究の醍醐味でもあると思っているので,「機能未知タンパク質」の解 析も行っています。


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