研究内容
私たちのまわりにある多様な植物はどのように進化してきたのだろうか?
木本植物を中心に多様性の評価や変異出現のメカニズムの解明をめざし、研究を進めている。
また植物園の森をフィールドとして、自然に対する理解を深めるための環境教育プログラムの開発を行っている。

1.枝変わり突然変異機構の解明
 ハナモモやウメ、ツバキやツツジでは1個体内に完全に着色した花と斑入りの花をつける品種が知られている。ピンクの花と白い花が入り交じって咲く様子を源平の合戦になぞらえて「源平咲き」と称したり、思いのままに花色を操っているように見えることから「思いのまま」と命名された品種もある。また「五色椿」は1個体内に赤や白、斑入りやピンクなど様々な色と柄の花をつける。これらの現象はキンギョソウやアサガオなどで研究されてきたトランスポゾンの挿入・離脱による花色変異とよく似ている。
 ところで果樹や林木などの木本植物の品種改良では有用系統作出の手段として枝変わり突然変異が古くから利用されている。例えばモモの白鳳や白桃には枝変わりで生じた多くの品種が知られている。しかし一般に枝変わり突然変異の仕組みには未解明の点が多い。
 私たちは花色の斑入り変異をモデルシステムとして、枝変わり突然変異の分子機構を明らかにすることをめざしている。これまでにハナモモやツバキを用いて、アントシアニン合成系の構造遺伝子や、構造遺伝子の発現を調節する転写因子の遺伝子に変異が生じている例を明らかにしてきた。現在はこれらの原因遺伝子の変異を詳細に調べるとともに、その変異にトランスポゾンが関与しているのか否かを明らかにすべく、研究を進めている。

2.緑のサクラ出現のメカニズムを探る
 大阪市立大学理学部附属植物園には黄〜緑の花をつけるサクラが3品種植栽されている。これらのうち‘ウコン’(鬱金)は黄桜として、また‘ギョイコウ’(御衣黄)は緑の桜として一般にも普及している。この2品種に加え、当園には他所では植栽記録の見あたらない緑の品種‘新錦’が植栽されている。これは1957年に笹部新太郎氏が導入したことが当園の記録に残っている。
 私たちはこれら緑の桜3品種が互いにどのような関係にあるのか、どのようにして緑の花をつける品種が生じたのかを明らかにすることをめざしている。
 花や花弁の形態ならびに花弁のクロロフィル含有量から ‘シンニシキ’、‘ウコン’、‘ギョイコウ’は相互に識別できた。しかし核DNAのSSR解析の結果、これら3品種は16種類のマーカーについて完全に同一の遺伝子型を示した。これらの結果から緑の桜3品種は互いに枝変わり突然変異の関係にあると考えられた。これら3品種を生じた原品種を探索するとともに、近年‘フゲンゾウ’の枝変わりで生じた事が明らかになっている黄〜緑の品種‘スマウラフゲンゾウ’や‘ソノサトキザクラ’、‘ソノサトリョクリュウ’についても相互の遺伝的な関係を調査している。

3.バラ科の系統進化学的解析 とくにモモの起源を求めて
 バラ科に属する植物は約100属、約3000種といわれ、バラ亜科、サクラ亜科、ナシ亜科、シモツケ亜科の4つの亜科に分類される。バラやサクラを初めとする鑑賞用植物や、リンゴ、モモ、ナシ、サクランボなど多くの果樹を含み私たちには身近な科と言える。私たちは葉緑体DNAの構造変異を指標としてこれら亜科間の関係を再構築することをめざしている。これまでにバラ亜科のイチゴ、サクラ亜科のモモ、ナシ亜科のアオナシ、シモツケ亜科のトサシモツケについて葉緑体DNAの全領域をカバーするファージクローンライブラリーを得た。これらを用いて各亜科の葉緑体DNAの構造を詳細に解析し、亜科間での比較を行っているところである。
 これらのうちサクラ亜科のモモについて葉緑体DNAの物理地図を作成し、それにもとづきサクラ属のモモ、スモモ、アンズなど14種の葉緑体DNAの構造を比較すると、栽培モモだけに特徴的な構造変異、277bpの欠失が検出された。私たちは現在この栽培モモの欠失変異を指標に、モモの起源を探る試みを続けている。
(本研究テーマは神戸大学農学部食資源教育研究センターの片山研究室と共同で実施)

4.ナシ属植物の探索・評価と利用に関する研究
 植物園には1950年代に京都大学から導入されたナシ属コレクションがある。これらの中には現在では現地からの導入が困難な中国のナシや、地中海沿岸地方のナシ、あるいは日本の野生ナシであるイワテヤマナシ(=ミチノクナシ)やアオナシ、マメナシなどが含まれる貴重なコレクションである。
 ところで現在食用とされている日本の栽培ナシ(以下、日本梨)(Pyrus pyrifolia)はその起源が明らかでない。私たちは日本に自生する野生ナシのうち、イワテヤマナシ(Pyrus ussuriensis)に注目し、北東北のナシ属植物の分布調査、収集、評価を行って来た。その結果、岩手県の北上山系に最も分布が多いこと、果実の色、形態、熟期、香り、酸度、糖度などの形質について非常に多様性に富む事が明らかになってきた。葉緑体DNAの解析結果からこれら収集個体の8割以上が日本梨との雑種であることが判明した。核DNAのSSR解析の結果は真のイワテヤマナシが北上山系のごく一部に残されているに過ぎない事を示した。
 現在これらの個体は神戸大学農学部食資源教育研究センターの片山研究室で接ぎ木により保存され、香りや熟期、糖や酸の組成等についての基礎研究が行われている。現在の日本梨にはない有用な形質(香りや極早生性、無核性など)を持つことから、育種母本としての利用だけでなく、ジャムやジュース、菓子や料理の素材として利用価値が高いと考えられる。雑種であるがゆえの幅広い遺伝的多様性を豊かな遺伝資源と考え、岩手にお返しして地域興しに活用していただけるよう、利用方法の開発を進めている。
(本研究テーマは神戸大学農学部食資源教育研究センターの片山研究室と共同で実施)

5.都市と森の共生をめざして—大学附属の森の植物園からの提言—
 2009年10月から2011年9月までの2年間にわたり、日本生命財団より環境問題研究助成を受けて行われた学際的総合研究プロジェクト。学内外12名の専門家からなる「都市と森の共生をめざす研究会」(代表・植松)が実施した。詳細はこちらを参照。

6.市民参加による大学附属植物園を利用した環境教育プログラムの開発
 
森の植物園をフィールドとして実施した、森のCO2吸収機能や、動植物相についての基礎研究の成果にもとづいて、市民向け、親子向けのプログラムを開発している。フィールドワークを中心とし、植物の様々な器官におけるCO2の吸収と放出の測定、葉の中に蓄えられたデンプンの簡易検出、園内の植物観察、セミの羽化や、クモ、鳥の観察など多岐にわたる。
 参加者が自然に触れ、環境問題に関心を持つきっかけとなることをめざしている。プログラムは交野市と共同で開催している「交野環境講座」や、都市と森の共生をめざす研究会主催の「森の教室」として実施している。
(本研究テーマは「都市と森の共生をめざす研究会」の協力を得て実施している。)

7.2013年8月9日〜10日に「植物園の森で環境教育プログラム体験」を実施
 2013年度「ひらめき☆ときめきサイエンス〜ようこそ大学の研究室へ〜KAKENHI」に採択され、当植物園でKAKENHI(科学研究費補助金)により実施した「市民参加による大学附属植物園を利用した環境教育プログラムの開発」の成果を社会に還元するために、高校生向けに1泊2日で実施した。
 参加者は森の植物園の役割ならびに森の働きについて講義を受けた後、25.5haの植物園に再現された多様な森を観察し、毎木調査や光合成測定、絶滅危惧種の観察、夜行性昆虫の観察などを体験した。初日の夕食には植物園の森の間伐材を薪として利用したエコクッキングで、参加者自らカレーライスを作り、薪で焚いたご飯のおいしさを堪能した。
 猛暑の中、運営に参加した学生・大学院生による水分補給や環境整備のおかげで熱中症の心配もなく、全員元気に2日間のプログラムを修了し「未来博士号」を授与された。

TEL 072-891-2681(植松) FAX 072-891-7199 e-mail uematsu@sci.osaka-cu.ac.jp
研究室所在地 〒576-0004 大阪府交野市私市2000
 
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