5.人工光合成をめざして

  光合成のシステムを模倣した分子をつくり出すことによって,光合成と同じように光によって電子の流れをつくり出すことができるようになってきました.もちろんこれは光合成の中のごく一部を再現しているにすぎませんが,人工光合成を実現するための大きなステップです.最後に最近の応用例をいくつか紹介します.

(1)電極修飾した光合成モデルによる光電流の発生
  電子を取り出した後,どのようにしてその電子を利用するかが人工光合成を目指す上では重要です.その一つの方法が電極を使う方法で,電子移動によって発生した起電力をそのまま取り出すことができます.一方の電極の上に光電荷分離をする光合成モデル分子を結合させて光を当てると電子は電極を通してもう一方の電極まで運ばれる,すなわち電流が発生します.いわば一種の太陽電池ですが,光合成の仕組みを取り込むことによって,エネルギー変換効率を高める事が可能になります.


図5 金電極に集積させた光合成モデル分子による光電流の発生

(2)光合成モデルとATP合成酵素のカップリング
  アメリカのDeven Gust らのグループは自分達が合成した光合成モデル分子と天然から取り出したATP合成酵素を人工膜の中に一緒に埋め込むことによって,光電子移動による水素イオンの汲み上げを利用してATPを生産させることに成功したとNature 誌に発表しています.半分は生物(酵素)の力を利用しているとはいえ,光合成細菌のような光合成を人工的に達成していることは大きな意義をもちます.

図6 ATP合成酵素と人工光合成モデルの共役

 

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