たんぱく質の立体構造:たんぱく質の構造決定


U-2. データ収集と位相決定

何故そのような困難が起こるのか、またどのようにして実際に解決するのか詳しくは専門書を参照していただくことにして、回折強度から実像を得ようとする場合常に起こりうる本質的な問題が位相問題です。現在、決めるべき原子数が数百個程度であればランダムな位相から正解にたどりつけるのですが(かならずしもたどりつけるとは限らないのですが)、たんぱく質のような巨大な分子のX線結晶構造解析の場合はそうはいきません。これも、独立な原子が1000を超えても正しい電子密度が得られたという報告もありますので、これから先どうなるかわかりませんが・・。さて、ではたんぱく質の場合には何を使うかというと、重原子同型置換法を利用します。結晶を重い金属などが入った溶液に漬けます。するとたんぱく質の表面に金属原子がくっつき、回折強度はそのくっついた重原子だけのために変わるので、金属原子をつけてない結晶との回折強度差から重原子の位置が判るというものです。

重原子同型置換法はかたっぱしから様々な金属化合物を試し、酷い場合にはいくらやっても金属原子がくっつかない、あるいは、くっついたためにたんぱく質の形が変わってしまい結晶構造がかわったり、結晶が壊れたりと時に非常に骨の折れる大変な方法です。しかしながら、1990年にHendricksonらによるセレン原子の異常分散を用いたMAD法による解析が発表されてから事態は大きく変わりました。たんぱく質を構成するアミノ酸の1つであるメチオニンの変わりにセレノメチオニンに置き換えたたんぱく質を合成します。これで、最初から重たい原子が入ったたんぱく質の結晶を得ることができます。さらに、セレン原子の回折能が異なる波長を複数選んででデータを取ることにより、たった1つの結晶の回折データで位相を決定することが可能となったのです。この方法は多波長異常分散法(Multiwavelength Anomalous Diffraction (MAD)法)と呼ばれ、現在多くのたんぱく質がこの方法で解析されています。さまざまな波長のX線を得るためには、放射光施設が不可欠ですが、日本には高エネルギー加速器研究機構(KEK)Photon Factory(つくば)と、SPring-8(播磨)の2つの大きな放射光設備があり、それぞれたんぱく質構造解析用のビームラインがあります。

また、決定しようと思う構造と非常に似た構造(アミノ酸配列を比較して相同性が高いもの)が既に構造解析されている場合、既知の構造を出発モデルとして結晶構造を決定することができます。これは分子置換法というものですが、結晶格子中の何処にその分子があるかを既知モデルを替わりに置いてさがすようなもので(実際にはちょっと違うのですが) 実際に新規な構造と既知分子のモデル構造が似ていることが重要です。


 




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