MT法の基礎理論

1.MT法の基礎方程式

MT法とは、自然磁場の変化とそれによって地中に誘導される電流の変化から地下の電気伝導度分布を測定する物理探査法である。磁場と電場の関係は、Maxwellの方程式であらわされる。Maxwellの方程式は、以下のように示される。

 

(1-1)

(1-2)

(1-3)

(1-4)

 

ただし、

 

J

=σE (1-5)(オームの法則)

D

=εE (1-6)

B

=μH (1-7)

 

である。

 

ただし、

E:電場(V/m)、H:磁場(A/m)、D:電束密度(C/m)、B:磁束密度(T)、t:時間(sec)、q:電荷密度(C/m)、j:電流密度(A/m)、σ:電気伝導度(S/m)(:ここでρは比抵抗(Ω・m))ε:誘電率(真空中では、F/M)、μ:透磁率(真空中では、μ=H/M)である。

 

地球内部での磁場、電場、比抵抗の関係は、(1-1)〜(1-7)式を解くことで求められる。(1-1)〜(1-4)式は、一般的な電場と磁場の関係を示しているため、地球内部の電場と磁場の関係を表す式にするために、いくつかの仮定を行う。

 

(@)誘電率(ε)、透磁率(μ)は、真空中での値を用いる。

(A)地球内部に電荷は、蓄えられないものとする。(q=0)

(B)磁場は1方向のみ(y軸方向)に変化する。この磁場によって誘導される電場は、磁場と直交方向(x軸方向)に変化するものとする。(

E=(Ex,0,0)、H=(0,Hy,0))

(C)磁場は、水平面内のどの場所でも同じ値であるとする。(

(D)電場、磁場は、角周波数(ω)で変化するものとする。(

 

(@)〜(D)の仮定をもとに、(1-1)〜(1-4)式を解いていく。まず、(1-1)〜(1-4)式に(1-5)〜(1-7)式を代入する。

 

(1-8)

(1-9)

(1-10)

(1-11)

 

(1-8)、(1-9)式の右辺に仮定(D)を導入する。

 

(1-12)

(1-13)

 

ところで、MT法ではσ=0.001〜1S/m、観測される電場と磁場の周波数の範囲は、T()=0.001〜100secである。したがって、εωとσの比は、

 

(1-14)

 

σとTのそれぞれの最小値を代入しても、εωはσに比べて十分小さい。(1-13)式のiεω

Eの項は無視できるものとする。(1-10)〜(1-13)式は、

 

(1-15)

(1-16)

(1-17)

(1-18)

 

となる。

(1-15)〜(1-18)式を展開し、仮定(B)、(C)を用いると、

 

(1-19)

(1-20)

 

となり、両辺を

zで偏微分すると、

 

(1-21)

(1-22)

 

ただし、である。kを波数と呼ぶ。(1-21)、(1-22)を変形して、

 

(1-23)

(1-24)

 

 

2.水平成層構造(ρが鉛直方向のみ変化する構造)の場合

 

水平成層構造の場合、第n層と第(n+1)層の間には、次の境界条件が成立する。

 

のとき

(2-1)

(2-2)

 

ここで、Ex(n)、Hy(n)は、第n層のx方向の電場、y方向の磁場の値をあらわす。このとき、(1-23)の一般解は、

 

(2-3)

 

である。ここで、A、Bは、電離層を流れる電流に相関する係数、kは第n層における波数である。また、(1-19)式より、

 

(2-4)

 

であるから、

 

(2-5)

 

となる。zの増加すると、の項は減少し、の項は増加する。つまり、の項は下降する波、の項は上昇する波をあらわしている。

 

 

2−1.媒質の比抵抗が一様の場合(n=1のみのとき)

媒質の境界が無いので、そこで反射して上昇する波は存在せず、の項は考えなくてもよい。したがって、(2-3)、(2-5)式は、次のように書ける。

 

(2-6)

(2-7)

 

(2-6)、(2-7)よりAを消去するため、ExとHyの比をとると、

 

(2-8)

 

となる。このを、インピーダンス(Zxy)と定義する。(2-9)よりZxyの大きさ(|Zxy|)と位相差(φ)は、

 

(2-10)

(2-11)

 

となる。今、地表での電場と磁場の値をそれぞれEx(0)、Hy(0)とすると、

 

(2-12)

 

となり、地表である特定の周波数での電場と磁場の値から、媒質の比抵抗が一様な場合の比抵抗を知ることができる。

 

2−2.二層構造(n=1、2のとき)

二層構造の場合は、(2-3)、(2-5)式のの項を考えなくてはいけない。

1層における電場と磁場は(2-3)、(2-5)式より、以下のように書ける。

 

(2-13)

(2-14)

 

第2層における電場と磁場については、の項があらわす上昇する波は存在せず、考えなくてもよい。したがって、

 

(2-15)

(2-16)

 

と書ける。また、(2-1)、(2-2)式より、次の境界条件が成立する。

 

のとき

(2-17)

 

(2-18)

 

ここで、(2-17)、(2-18)式のA2を消去する。

 

(2-19)

ただし、 (2-20)

 

(2-13)、(2-14)式に(2-19)式を代入すると、

 

(2-21)

 

(2-22)

 

となる。地表で観測される電場(Ex(1)(0))と磁場(Hy(1)(0))の値は、

 

(2-23)

(2-24)

 

したがって、二層構造におけるインピーダンス(Z2)は、

 

(2-25)

 

となる。は、媒質の比抵抗が一様な場合のインピーダンスである。また、K12を展開してみると、

 

(2-26)

 

であるから、K12は媒質の比抵抗にのみ依存する関数である。つまり、二層構造におけるインピーダンス(Z2)は、第1層のみの場合のインピーダンス(Z1)、第1層、第2層の比抵抗(ρ1、ρ2)、第1層の厚さに依存する関数であらわすことができる。

 

3.探査深度

地中に入射した電磁場は、深くなるほど減衰する。したがって、探査深度には限界がある。探査深度の目安として、電磁場の振幅が地表の(≒0.37)に減衰する深さをskin depth(δ)と呼ぶ。skin depthは、kから求められる。

 

(3-1)

ただし、 (3-2)

 

(3-1)式を(2-3)、(2-5)式に代入すると、

 

(3-3)

(3-4)

 

ここで、Bnの項は媒質の境界で反射する2次的な波をあらわしている。今、下降する1次的な波だけを考えるので、Bnの項は考えない。Anの項の指数部を整理すると、

 

(3-4)

 

(3-3)より、zが増加すると指数部は減少し、z=δnのときEx、Hyの大きさは、z=0のときのとなる。また、(3-2)より、

 

(3-5)

 

であるから、周期(

T)が長くなればskin depthは大きくなる。つまり、見掛け比抵抗や位相差は、電磁場変動の周期が長いほど地下深部の情報を含んでいる。