ニュース

数学科

日本数学会(2020年秋)で本学ゆかりの3氏が受賞

 2020年度日本数学会秋季総合分科会において、本学数学教室にゆかりのある3名の方々が、幾何学賞、解析学賞、建部賢弘賞をそれぞれ受賞されました。

 幾何学賞を受賞されたのは、枡田幹也名誉教授・特任教授(本学)で、業績題目「変換群論、特にトーリックトポロジーの研究(Studies on transformation groups focused on toric topology)」 によるものです。枡田名誉教授は2020年3月まで長年本学において研究・教育に携わって来られ、近年も、ロシアとの二国間交流事業の活動の一環として、ロシアからはもちろん韓国や中国からも本学に研究者を招き、研究集会「Hessenberg varieties 2018,2019 in Osaka」 を2年続けて開催されるなど、精力的な活動を続けられています。

 解析学賞を受賞されたのは、宮地秀樹教授(金沢大学)で、業績題目「タイヒミュラー空間上の複素解析的構造の研究(Study on complex analysis on Teichmuller space)」によるものです。 宮地教授は2000年3月本学大学院後期博士課程を修了され、さらに日本学術振興会PDを合わせて、その研究者人生の最初の10年間を本学で過ごされました。

 建部賢弘奨励賞を受賞されたのは、橋詰雅斗さん(広島大学、本学数学研究所特別研究員)で、業績題目「非コンパクト変分問題のコンパクト性喪失現象の研究(Study on the loss of compactness phenomena of non-compact variational problems)」 によるものです。橋詰さんは2018年3月本学大学院後期博士課程を修了をされ、現在も本学数学研究所の特別研究員を兼任されている新進気鋭の研究者で、今回、若手対象の賞である建部賢弘奨励賞をご受賞の運びとなりました。

 3名の方々には、それぞれ、「幾何学賞受賞に寄せて」「先輩の声」「数学研究所と私」の記事を、 数学研究所パンフレット2020年度版 または 数学科パンフレット2020年度版 にお寄せいただいていますので、併せてお読みいただけましたら幸いです。

 コロナ禍が続き、何かと気の滅入ることの多い日々の中で、3氏受賞のニュースは、数学教室の空気も明るいものにして下さいました。今後のご研究のご発展を、教室一同心よりお祈りしております。

国際研究集会「Grauert理論と最近の複素幾何」をオンライン開催

 2021年2月6日から9日までの4日間、大阪市立大学数学研究所文部科学省 共同利用・共同研究 (一般) (C) の制度の下、国際研究集会「Grauert理論と最近の複素幾何」をzoomにてオンライン開催しました。
 この集会は、ドイツの数学者・Hans Grauertによる複素幾何分野の一連の研究に基礎づけられた最近の研究結果を持ち寄ることにより、複素幾何の最先端の一層の展開を図ったものであります。日本とドイツの両国からの講演者16名による講演発表には、 日本から41名もの参加登録があった他、ドイツからは3名、中国からは10名、韓国からは9名の参加登録があり、大変国際色豊かな集会となりました。この研究集会は、計画の段階では対面での開催を予定していたものの、コロナウイルス感染拡大の影響によりオンラインでの開催となったものではありましたが、 zoomのチャット等の機能を活用することにより、非常に活発な議論が実現されました。

物理学科

坪田 誠教授 2019年度流体科学研究賞を受賞

 数物系専攻の坪田誠教授は、2019年度の流体科学研究賞を受賞した。流体科学研究賞は、東北大学流体科学研究所が主催する学術賞で、「流体科学並ひ゛に関連技術の発展のために、独創性と発展性に富む業績を挙け゛た優秀な研究者の表彰」を行うと規定されている。受賞対象業績は、「量子流体力学と量子乱流に関する研究」である。受賞理由の概要は以下の通りである:坪田誠氏は、低温物理学の理論研究における世界的リーダーの一人である。氏は超流動ヘリウムや原子気体ボース・アインシュタイン凝縮体などの「量子流体」を流体力学的視点で研究する「量子流体力学」の分野を開拓し飛躍的に発展させ、日本の研究を世界トップレベルに押し上げた。特に、量子流体の乱流状態である「量子乱流」の基本概念を確立させた。氏の研究は、流体力学・低温物理学・原子物理学等などの分野に広く波及し、国内外から高く評価されている。これらの業績は、Nature、Science、Physical Review Lettersなどの学術誌に掲載された論文や、新聞報道等により発信されている。


化学科

手木教授らの総説が 2018-2019 年の年間 Top 10% most downloaded papers に、論文 2 報が国際誌のCover にそれぞれ選出

 物質分子系専攻の手木芳男教授(写真)の有機ラジカルの励起状態ダイナミクスに関する Review Article が Weley-VCH 社の Chemistry - A European Journal 誌の 2018-2019 年の年間 Top 10% most downloaded papers に選出されました(図1, 左)。また草本哲郎准教授(分子科学研究所)、西原寛教授(東京大学・東京理科大学)らとの発光性ラジカルの磁場効果に関する共著論文が Chemical Science 誌の Hot Article Collection に選出され、Inside Front Cover にも採用されました(図1, 中)。さらに手木教授らのTIPS-ペンタセンの励起状態ダイナミクスと光電流生成機構に関する論文が Phys Chem Chem Phys 誌のBack Cover に採用されました(図1, 右)。

品田教授らのグループが認知機能を改善する新規物質「ナトリード」を発見

 物質分子系専攻の品田哲郎教授(写真)らは、岩手大学発ベンチャーの(株)バイオコクーン研究所と岩手大学・九州大学・岩手医科大学との共同研究によりアルツハイマー病を含む認知症および老化を改善するための世界初の新規物質ナトリード(図2:構造解析(西村博士 現 三洋化学研究所)と全合成(保野助教 現 九州大学理学部化学科)に貢献)をカイコ冬虫夏草(ハナサナギタケ)から発見しました。この成果は全国のテレビ・新聞およびネットニュース等にて報道されました。

生物学科

藤田憲一准教授らがポリグルタミン酸をより高分子化し,納豆をネバネバにさせる納豆菌の遺伝子を特定

 納豆は日本の伝統的な発酵食品であり、そのネバネバの原因となっているのはポリグルタミン酸(PGA)です(図1)。PGAは、非常にたくさんのグルタミン酸が鎖のように結合してできた天然高分子です。枯草菌の一種である納豆菌はダイズのタンパク質を材料としてPGAを合成し、合成されたPGAは納豆菌の体外に分泌されます。これまで、PGAの合成に必須なタンパク質は、pgsオペロンから翻訳される3つのタンパク質(PgsB、PgsC、およびPgsA)と報告されていましたが、これら3つのタンパク質によって合成されたPGAには粘りけがありませんでした。藤田憲一准教授らのグループは、pgsオペロンの下流に位置するpgsE遺伝子に着目し、54アミノ酸からなるペプチドPgsEを含む場合と含まない場合でPGAの粘りけと粘りけの原因である分子量を調べました(図2)。3つのタンパク質によって合成されたPGAには粘りけがなく、その分子量は4万7千でした。一方、PgsEを含む4つのタンパク質によって合成されたPGAはネバネバとなり、その分子量は290万と非常に大きくなっていました。PgsEタンパク質を改変することによってPGAの分子量を変化させると、粘りけが自在に調節できるのではないかと期待されています。

 

名波哲准教授らが森林生植物の巨大なクローンを発見

 落葉樹ヤマコウバシは、日本では雌株しか見つかっていない不思議な植物です。雌花が花粉を受け取ることなく、単為生殖で種子を生産します(図)。種子には母樹の遺伝子がそのまま伝わるため、遺伝的変異は生じにくいと考えられます。生物地球系専攻の名波哲准教授らのグループは、日本中からヤマコウバシの親木や種子のサンプルを集め、DNA型鑑定によって多数の一塩基多型(SNP)を検出しました。その結果、サンプル間でDNAの塩基配列の違いがほとんど見られず、日本のヤマコウバシの個体群が、たった1本の雌株から生じた巨大なクローンであることが分かりました。これほど大規模なクローンは世界的にも珍しく、驚くべき結果です。雌と雄が交配して遺伝的に多様な個体ができれば、環境の変化や病気の蔓延に対応して生存できる個体がいる可能性が高いと考えられています。その一方で、ヤマコウバシのように個体群の遺伝的多様性が低くても、雌株が単独で種子を作ることができるという利点があれば、個体群を維持できるのかもしれません。さらに研究を進めることで、生物の世界に性というシステムが広く存在する理由の解明につながる可能性があります。

 

地球学科

西脇勇望さんが地震発生領域にいたる上町断層の傾斜角を推定

 活断層によって生じる地震動を適切に評価することは、地震被害の軽減にとって重要です。この地震動の評価には、活断層で発生する地震の大きさ(地震モーメント)を適切に推定する必要があり、地表から地震発生領域(深さ約10-15 km)にいたる活断層の傾斜角は最も重要なパラメータの一つです。なぜなら、地震モーメントは、断層面の面積×平均変位量×断層面の剛性率で求められ、断層面の幅は断層の傾斜角から推定されるからです。しかし、地下深部における活断層の傾斜角は、ほとんど分かっていません。

西脇勇望さん(生物地球系専攻 前期博士課程 令和3年3月修了)は奥平敬元教授らの指導のもと、大阪周辺地域の震源断層モデルの精密化に寄与することを目的とし、大阪平野における活断層の地下深部における傾斜角を推定する数値シミュレーションを用いた検討を行いました。西脇さんは、大阪平野中央部の東西断面を代表とする地下地質構造について、上町断層及び生駒断層の傾斜角をモデルパラメータとして変化させながら、堆積作用を考慮した2次元粘弾塑性体の数値シミュレーションを行い、地表から地震発生領域にいたる、上町断層及び生駒断層の傾斜角を推定しました。推定された傾斜角は上町断層及び生駒断層とも30°-?40°であり、上町断層はより深部でより低角度となりながらも生駒断層には収斂しない数値モデルが地下地質構造を最も合理的に説明できることが明らかとなりました。また、推定された上町断層は2018年大阪府北部地震の震源域を通過します。これら上町断層と生駒断層の傾斜角は、これまで考えられていたもの(~50°-60°)より低角であり、地震モーメントはこれまでの推定よりも大きくなることが示唆されました。

文献:Nishiwaki H, Okudaira T, Ishii K, Mitamura M (2021) Dip angles of active faults from the surface to the seismogenic zone inferred from a 2D numerical analysis of visco-elasto-plastic models: a case study for the Osaka Plain. Earth, Planets and Space 73, 86, https://doi.org/10.1186/s40623-021-01390-8.

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