大阪市立大学 宇宙物理・重力 研究室 Research Group for Theoretical Astrophysics, Osaka City University



過去のコロキウム情報[2019年度]


日時:4月12日(金)
講師:石原秀樹 氏(大阪市立大学)
題目:密度波ソリトンによる粒子加速機構
概要:プラズマ中の密度波ソリトンを用いて粒子を加速する機構を提案する. 円筒対称性や球対称性をもつ非線形密度波は拡張されたKdV方程式に従い,波が中心に向かうにしたがってその波高が半径の逆冪に従って大きくなる. この密度波では,電子とイオンの密度分布にずれが生じるので,電場を伴っている. 円筒,あるいは球殻状の電場ポテンシャル壁によって閉じ込められた荷電粒子は運動するポテンシャル壁との衝突によって加速される. この加速機構による粒子のエネルギースペクトルは冪則に従うことがわかる. また,ソリトンによる加速における磁場の効果についても述べる.

日時:4月19日(金) 16:00〜
講師:南部 保貞氏(名古屋大学)
題目:Wave optics in spacetimes with compact gravitating object
概要:Photon sphereは強重力源の時空構造を特徴づける概念であり,ブラックホールシャドウを理解する上で重要な役割を果たす. 光源がphoton sphereの外部にありその内部に完全吸収体の星がある状況を考えると,光を用いてその内部の様子を探ることはできない. しかしながら波動光学を考えることで,光では得られないphoton sphere内部の情報を獲得できることが期待できる. 本講演では球対称時空でのスカラー波の数値解を用いて,時空構造の差異が散乱データにどのような形で現れるかを議論する.
講演内容は以下の予定である:

(1)イントロダクション
(2)波動光学とphoton sphere
(2)数値計算の方法
(3)ブラックホール,完全吸収の星,Ellis wormhole (massless case, massive case)に対する結果
(4)まとめ

日時:5月10日(金)
講師: 尾田 欣也氏(大阪大学)
題目:ヒッグス・ポテンシャルの臨界性とインフレーション
概要:標準模型の臨界性と呼ばれる、ヒッグス・ポテンシャルがプランク・スケールで平坦になる(なりそうだ)という性質と、ヒッグス・インフレーションとの関係、ならびに、重力の接続を独立な力学変数として扱うパラティニ形式の重力理論の意義と、そのヒッグス・インフレーションにおける予言について議論する。
日時:5月14日(金)
講師:槌谷 将隆氏(名古屋大学)
題目:音速点とphoton surface 概要:理想光子気体による遷音速な定常球対称降着流を考えると、その音速点はphoton sphereに乗る。 この「sonic point/photon sphere対応」は2016年に見出され、その後、より広い状況設定に拡張されてきた。 その中で、photon sphereの一般化であるphoton surfaceが考えられるようになった。 本講演では、既に知られている結果と照らし合わせながら、一般の定常時空について音速点近傍における 局所的な議論を展開しphoton surfaceが臍点の集まりであるという事実が重要であることを明らかにする。
日時:5月24日(金)
講師:松原 隆彦氏(KEK)
題目:大規模構造における統合摂動論とバイアス効果
概要:現在、大規模な銀河サーベイ観測などが精力的に行われていて、宇宙の3次元構造である大規模構造によって宇宙論を制限する研究が大きく進みつつある。 宇宙構造の解析においては、非線形構造形成や赤方偏移空間変形、バイアスなどの微妙な問題が存在し、理論的に明らかにすべき重要な課題も多く残されている。 これらの問題にアプローチする一般的な手法として、以前から「統合摂動論」という基礎的枠組みを発展させており、2014年にも本コロキウムにおいてその概要をお話した。 今回は準非線形領域におけるバイアス効果の取扱いに関する比較的最近の進展を含めてお話したい。
日時:5月31日(金)
講師: 小出 眞路氏(熊本大学)
題目:ブラックホールの回転エネルギーの引抜き機構の謎
概要: 最近巨大楕円銀河M87の中心核にあると考えられてきた巨大ブラックホールの影の撮像画像が公開されました。 このブラックホールの自転軸の両極からは電磁エネルギーがブラックホールの地平面から放射されていて、そのエネルギーがこの中心核に付随する光速度に近い速さのジェット(相対論的ジェット)を駆動していると考えられています。 他にもクエーサーなどの活動銀河核,マイクロ クエーサー,ガンマ線バーストなどの天体でも相対論的ジェットが見られます。 それらの相対論的ジェットも天体の中心にある自転するブラックホールの周りの激しい現象により形成されていると考えられています。 しかし、その具体的な形成機構は分かっていません。 相対論的ジェット形成を説明するモデルのひとつにブラックホールまわりの磁気的な現象に注目するものがあります。 その磁気的な現象の中でも磁場によるブラックホールの回転エネルギー引き抜き機構は相対論的ジェットへのエネルギー供給過程のひとつとして注目されています。 フォースフリー条件のもとで示されたブランドフォード・ナエク機構はその代表的な機構です。 ブラックホールの地平面においては物質および情報はすべてブラックホールの外側から内側にしか移動伝播できません。 この地平面での因果律に逆行するように見える磁場によるブラックホールのエネルギー引抜きとはどのようなものでしょうか。 セミナーではこの不思議な現象について観測的な話から基本的な理論の概要と最近の私たちの研究結果について話したいと思います。
6月7日(金)
講演者:諏訪雄大 氏(京都産業大学)
題目:超新星爆発メカニズムとマルチメッセンジャー観測に向けて 概要:可視光から始まった天文学が多波長に拡張されてマルチバンド天文学へ発展し、さらに新しい信号であるニュートリノや重力波を含めたマルチメッセンジャー天文学の時代がいよいよ到来した。 こうした複合的な信号を多角的に用いることで、天体現象の新しい姿が明らかになることが期待されている。 本コロキウムでは、こうしたマルチメッセンジャー観測を用いていまだ解明されていない重力崩壊型超新星爆のメカニズムに迫る方法を議論する。 さらに、今後の観測で期待できる方向性を概観する。

日時:6月14日(金)
講師:富沢 真也氏(東京工科大学)
題目:漸近平坦なブラックレンズとその性質
概要:Hawkingのトポロジー定理より、4次元時空の漸近平坦なブラックホールの表面のトポロジーは球面だけに限られる。 また、ブラックホールのー意性定理により、そのようなブラックホールを記述する解として、(高々、電磁場が存在する場合には)Kerr-Newman解が唯一の解であることが知られている。 一方で、5次元に一般化されたトポロジー定理は、ブラックホールトポロジーとして、球面だけではなく、リング形状やレンズ空間をも許容する。 これまでに、5次元時空の漸近平坦なブラックホール解として、トポロジーが球面のブラックホール解やリング形状のブッラクリング解が発見されてきたが、レンズ空間の「ブラックレンズ解」については、多くの研究者がその構成を試みたにもかかわらず、(特殊な場合を除いては)未発見であった。 本講演では、5次元の最小超重力理論における漸近平坦なブラックレンズの超対解と5次元アインシュタイン理論のブラックレンズの真空解の構成法とその性質について紹介する。
6月21日(金)
講演者:鈴木良拓氏(大阪市立大学)
題目:高次元極限における位相転移解とリッチフロー
概要: 次元がD>4となる高次元時空において、ブラックホール解は球とは異なる様々なトポロジーのホライズンを持つことが知られている。その解空間においては、いくつかの異なるトポロジーの解の系列同士が錘状(cone)の特異な”くびれ”を持つ臨界解を通じて合流することが予想され、いくつかの場合には数値解析による検証が行われている。 一方、時空次元を大きいものとみなして近似を行う高次元極限はこれまで高次元ブラックホールの解析に役立ってきたが、従来の解析ではホライズンの変形がそれほど大きくない場合に限られ、上記のようにトポロジーの変化を伴って大きく変形する場合には適用することができなかった。  本講演では、従来とは異なる種類の高次元極限を用いることで、これらトポロジー転移を伴う合流解が、一般的にはRicci flow方程式の解として得られることを示す。もっとも単純なKaluza-Klein時空中のブラックストリング(BS)/ブラックホール(BH)転移については、Ricci flow方程式は非線形拡散方程式に帰着し、BS/BH転移を大域的に記述する解析解がこの方程式の解として得られた。このBS/BH転移解の性質についても紹介する。
日時:7月5日
講演者:吉野裕高氏(大阪市立大学)
題目:強重力場を特徴付ける新しい面の定義とその性質
概要:シュバルツシルト時空中の面 r=2M はブラックホール領域の境界であり、その拡張概念に事象の地平面や見かけの地平面がある。 一方で r=3M は光子の円軌道が存在し、光子球面と呼ばれる。 この面はブラックホールの外側の強重力場領域を特徴付ける面と言ってよいだろう。 地平面の場合と同様に r=3M の拡張概念を考えることは面白い問題であり「光子面」などいくつかの定義が提案されている。 我々も「Transversely Trapping Surface(TTS)」を提案したが、これは静的/定常な時空にのみ定義できるものであった [1]。
 今回は TTS を動的時空にも定義できるように拡張した(動的 TTS)。 動的 TTS は見かけの地平面との類似性が成立する。 定義と根拠を紹介し、Brill-Lindquist の2体ブラックホール初期空間や Majumdar-Papapetrou の2体ブラックホール系で動的 TTS を実際に構成する。 また、時間対称初期空間でその面積がペンローズ的不等式
 A≦4π(3M)^2
を満たすことを証明する。その他、今後の展望も議論したい。

参考文献:
[1] H. Yoshino, K. Izumi, T. Shiromizu and Y. Tomikawa, Prog. Theor. Exp. Phys. (2017) 063E01 [arXiv:1704.04673[gr-qc]].
日時:7月26日(金)
講師:安田 晴皇氏(京都大学)
題目:超新星残骸における宇宙線加速
概要: 超新星残骸(Supernova remnant; SNR)は、大質量星が超新星を起こした後に残す高温ガスを主体とした天体である。 SNRは超新星を起こした星の性質や、その星周環境により多種多様な構造を持ち、電波からガンマ線まで多波長で光る。特にガンマ線は、高エネルギー宇宙線と星周物質との相互作用により生成されるため、その観測から宇宙線の情報を抜き出せるため非常に重要な放射である。来年稼働予定のガンマ線望遠鏡Cherenkov Telescope Array (CTA)によって、SNRからのガンマ線観測が飛躍的にに増加し、宇宙線加速機構に迫れることが期待されている。本コロキウムでは、SNRと宇宙線、ガンマ線研究の現状を観測と理論の両面から紹介する。
日時:10月4日(金)
講師:中尾憲一氏(大阪市立大学)
題目:ブラックホール形成の兆候
概要:一般相対論は我々の宇宙にブラックホールが形成されることを予言する。 ブラックホールはその外側に一切の物理的影響を及ぼすことの無い領域なので、その存在を観測的に確認することは不可能である。 我々が観測しうる一般相対論の予言は、重力崩壊を続ける物体とその近傍の時空の幾何学が Kerr時空 のそれに漸近する過程であり、我々の視界でブラックホールが形成されることは無い。 そこでこの講演では、もっともらしいエネルギー条件(weak, strong, dominant energy conditions) を満たす球対称系について、重力崩壊している物体が bounce できる最小半径 Rc = 2M+epsilon (epsilon>0) が存在するかどうかを考察する。 ここで M は Misner-Sharp mass であり、2M は見かけの地平面の半径である。 もし Rc が存在するならば、エネルギー条件を満たしている物体がブラックホールを形成することを原理的に観測によって確認できる。
日時:10月18日(金)
講師: 神原氏(大阪市立大学)
題目:時空の熱力学的側面
概要:19世紀に発展した熱力学は巨視的な立場から熱現象を扱う理論である。 一方、一般相対論は時空の幾何学として重力の法則を与える理論である。 両者はまったく異なる分野の物理学である。 しかし1970年代からBekensteinやHawkingなどによってブラックホールと熱力学の関係が徐々に明らかにされてきた。 さらに1995年には、Jacobsonによって熱力学的議論からEinstein方程式が導かれることが示された。 このように熱力学と一般相対論は無関係でないことが明らかになっている。 今回は一般相対論と熱力学の関係として、一般相対論から熱力学の第一法則を導く試み、および熱力学的議論からアインシュタイン方程式を導く試みを紹介する。
講師: 大倉氏 (大阪市立大学)
題目:円柱対称時空における時間的閉曲線
概要:時間的閉曲線(Closed timelike curve,CTC)とは時間的な曲線でありながら全く同一の時空点に戻ってくるというもので、この曲線に沿って移動することで過去への時間旅行が可能となる。 一般相対性理論はこの時間的閉曲線の存在を示唆している。 時間的閉曲線が存在するような時空を形成する、ということはタイムマシンをつくるということに対応している。 本発表では回転する無限に長い円柱形状のダストによって形成される円柱対称時空というモデルを考えそのような時空において時間的閉曲線が存在することを確認する。

日時:10月25日(金)
講師: 木村匡志氏(立教大学)
題目:Stability analysis of black holes by the S-deformation method
概要:対称性の高いブラックホール時空に対する重力摂動はシュレディンガー方程式と同じ形の方程式を解くことに帰着することが多い. 本発表ではそのような場合に時空の安定性を示すための簡単な方法を提案し,この方法は時空が安定ならば常に適用可能であることも示す. また,もし時空が不安定ならその示唆を得ることも出来る. さらに物理的自由度が複数ある場合への拡張も行う.

参考文献:
M.Kimura, arXiv:1706.01447 [gr-qc].
M.Kimura and T.Tanaka, arXiv:1805.08625 [gr-qc].
M.Kimura, arXiv:1807.05029 [gr-qc].
M.Kimura and T.Tanaka, arXiv:1809.00795 [gr-qc].

日時:11月1日(金)
講師: 松野 皐氏(大阪市立大学)
題目:磁気曲面と佐々木多様体
概要:ケーラー多様体の奇数次元の類似物と言われることもある佐々木多様体には、その構造から自然に磁場(閉2形式)が定まり、佐々木磁場と呼ばれる。 これまでに佐々木磁場中の荷電粒子の運動についていくらかの研究がなされてきた。 そこで発表者は逆に、荷電粒子についてどのような条件が成り立てば佐々木磁場といえるかを考えた。 本講演では、佐々木多様体を含む接触幾何学について説明してから、過去の研究のレビューを少し行い、本研究である佐々木磁場の磁気曲線による特徴づけを行う。
日時:11月8日(金)
講師: 高橋一麻氏(大阪市立大学)
題目:数値計算による重力崩壊過程にある星の撮像
概要:本研究では、ブラックホールへ崩壊する重力崩壊モデルを用いて、遠方に静止している観測者が得るであろう自己重力により崩壊しつつある星の像を数値計算により示すことを目的としている。 具体的には星の表面から放射される光の軌跡を計算し、観測者へ届いた光の赤方偏移とそのスペクトルの時間変化も数値計算によって得る。 これまではOppenheimer-Snyder Collapseに基づき、時間的測地線に沿って崩壊する星について計算し、観測者の得る星の像の縁は全く赤方偏移せず、またスペクトルのピークの振動数はほとんど変化せずに、光子数が減少する事で観測不能となる事を示した。 本発表では、星表面の軌道が測地線に沿う場合に加え、等加速度の場合に対し数値計算を行った結果についてアニメーションを交えながら解説したい。
日時:11月15日
講師:小川達也氏(大阪市立大学)
題目:Soliton Stars in a Spontaneously Broken U(1) Gauge Theory
概要:大域的U(1)対称性を有するスカラー場の理論では、ノントポロジカルソリトンと呼ばれる古典解が存在することが知られている。我々はFriedberg, Lee, and Sirlinによって提案されたモデルを一般化し、複素スカラー場、複素ヒッグス場、U(1)ゲージ場が結合した,対称性が自発的に破れる系においてノントポロジカルソリトンを数値的に構成した。 2つの複素スカラー場は互いに逆符号の電荷を誘起し、 その結果,ソリトン内部の電荷は遮蔽されることがわかる。この電荷の遮蔽効果によってゲージ場による反発力が消されるために、いくらでも大きな質量をもつ安定なソリトン解が存在する。本講演では、このノントポロジカルソリトンモデルがつくる重力場を考慮することによって、ソリトン星を数値的に構成する。ソリトン星の質量には上限が現れ,この上限質量と重力結合定数の間の関係を議論し、本モデルにおけるソリトン星が天体スケールの質量をもち得ることを示す。
参考文献:
H. Ishihara and T. Ogawa, Prog. Theor. Exp. Phys. 2019, 021B01 (2019)
H. Ishihara and T. Ogawa, Phys. Rev. D 99, 056019 (2019)

日時:11月22日(金)
講師: 森澤理之氏(大阪市立大学)
題目:ループ重力と複雑性
概要:ループ重力に現れる幾何構造とそこで行いうる情報処理の性質や複雑性との関連について議論する。
日時:12月6日(金)
講師: 池田大志(Instituto Superior Tecnico, Portugal)
題目:ブラックホール周りのアクシオン雲に働く潮汐力
概要:アクシオンは素粒子物理学からその存在が予言されてる軽いスカラー場であり、宇宙を満たしているダークマターの候補の一つである。 アクシオン場はブラックホールの周りに雲状に局在化でき、超放射機構によって増幅される。 増幅された場は重力波源となるだけでなく、アクシオンと他の粒子との相互作用を通して様々な観測可能な物理現象をもたらす。 一方で、我々の宇宙には連星ブラックホールが存在し、その周りにもアクシオン雲が存在すると期待される。 ブラックホールが連星系をなす場合、その周りのアクシオン雲は潮汐力を感じて変形する。 この変形によってアクシオン雲の時間発展は、単一のブラックホールの周りの時間発展とは異なることが期待できる。 本発表では、現在進行中の研究として、潮汐力を伴うブラックホール周りのアクシオン雲の数値シミュレーションを示し、どのような物理が期待されるかを議論する。
日時:1月10日(金) 16:00〜
場所:F-216 理学部第8講義室
講師:大塚 隆巧氏(お茶の水女子大学)
題目:共変的ラグランジュ形式とその応用
概要:ラグランジュ系の対称性の考察や,ある対称性について不変な解(group invariant solution)を求める際にとても便利で簡単な方法を提供する,共変的なラグランジュ形式を紹介します. このラグランジュ形式は,幾何学的に書き直されたラグランジュ形式で,有限次元のラグランジュ系は,フィンスラー多様体を用いて記述され,無限次元の場のラグランジュ系は,フィンスラー多様体を高次元的に拡張した面積計量空間(河口多様体)を用いて記述されます [Ootsuka-Yahagi-Ishida-Tanaka, Class. Quantum Grav. 32 (2015) 165016 ]. ハミルトン形式の幾何が,シンプレクティック多様体(あるいは接触多様体)であるという認識は,常識的になりましたが,それと同じ意味で,ラグランジュ形式の幾何が,フィンスラー多様体を含んだ面積計量空間だと言えます. 幾何学的な形式に書き直したハミルトン形式が便利なように,この幾何学的なラグランジュ形式も便利な点が幾つかあり,その中で特に,対称性に関した問題を2つ取り上げます. ひとつは,系の不変解の構成(symmetry reduction)の方法 [Ootsuka-Yahagi-Abe, in preparation]と,もうひとつは,隠れた対称性による保存量を見つける方法 [Oosuka-Yahagi-Ishida, Class. Quantum Grav. 34 (2017) 095002]を紹介いたします. どちらの方法も,この共変的なラグランジュ形式を基にして初めて出来るとても簡単な方法です.
日時:1月24日
講師:中司 桂輔氏(立教大学)
題目:Effect of a second compact object on stable circular orbits
概要:2015年に連星ブラックホール起源の重力波が直接検出されたことによって、我々の宇宙にはコンパクト天体連星系が存在することが明らかになった。 一方で、ブラックホールなどのコンパクト天体の周りにおけるテスト粒子の周回軌道はブラックホールシャドウや降着円盤などのコンパクト天体周辺での現象と密接に関連している。 本講演では、コンパクト天体周辺の周回軌道に対して、もう一つのコンパクト天体が及ぼす影響について考察する。 特に、単体コンパクト天体の場合には見られない周回軌道の挙動に触れながら我々の行った研究について紹介する。

参考文献
K. Nakashi and T. Igata, Phys.Rev. D99 (2019) no.12, 124033.
 K. Nakashi and T. Igata, Phys.Rev. D100 (2019) no.10, 104006.
日時:1月31日(金)
講師:小笠原康太氏(京都大学)
題目:回転ブラックホール近傍における高エネルギー衝突現象
概要:回転ブラックホール近傍における粒子衝突では,その衝突エネルギーが任意に大きくなれたり,ブラックホールからエネルギーを引き抜いて高エネルギー粒子を作ったりできる. 本講演では,高エネルギー衝突現象に関する近年の研究を概観した後,これらと関係した私の最近の研究(ブラックホール近傍からの光の脱出確率)について紹介したい. また,時間が許せば,高エネルギー現象における自己重力効果の解析についても紹介したい.
日時:2月14日(金)
講師:根岸宏行氏(大阪市立大学)
題目:非常に大きなスケール非一様性が宇宙背景放射の大スケールの温度ゆらぎに与える影響
概要:標準宇宙モデルでは宇宙は非常に大きなスケールで粗視化して見ると等方一様であると仮定している。 観測的には宇宙の等方一様性は十分に確かめられていない。 本研究では宇宙に非常に大きなスケールの等方非一様な構造が宇宙に存在した場合に宇宙背景放射の大スケールの温度ゆらぎがどのような影響を受けるかについて発表する。
日時:2月21日
講師:岡林一賢氏(大阪市立大学)
題目:コンパクト天体の形成に伴う粒子生成の普遍性
概要:1970年代にHawkingによって発見された重力崩壊に伴う粒子生成は、EHの存在(BHの形成)を仮定し、真空が変化することで得られることが知られており、プランク分布に従う。 しかし、その仮定は本質ではないことが現在知られており、ホライズンの有無にかかわらずプランク分布に従う粒子生成が起きることが示されている[1]。 その事実を踏まえ、コンパクト天体の形成に伴う粒子生成が計算されており、特に、BH mimickerという古典的にBHと区別できない天体があったときにどのような粒子生成が得られ、観測的に区別できるか探究されている[2,3,4]。 これらの先行研究では、天体の内部がMinkowski時空で、外部がSchwarzschild時空という非現実的な状況でしか現状解析されていないため、より現実的なモデルで解析をする必要があった。 そこで実際に、具体的なモデルを置いて粒子生成がどの程度得られるか解析したところ、非現実的なモデルで得られる結果と同程度粒子生成することがわかった。 本講演では、解析をさらに拡張することにより、この結果が天体内部にある物質の詳細によらない普遍的な性質であることを先行研究も踏まえつつ紹介する。
参考文献
[1]. C. Barcelo, S. Liberati, S. Sonego, and M. Visser, JHEP02(2011)003
[2]. T. Harada, V. Cardoso, and D. Miyata, P.R.D 99, 044039(2019)
[3]. T. Kokubu and T. Harada, P.R.D 100, 084028(2019)
[4]. C. Barcelo, V. Boyanov, R. Carballo-Rubio, and L. Garay, Class. Quantum Grav. 36 165004(2019)
日時:2月28日
講師:安積伸幸氏(大阪市立大学)
題目:連星ブラックホールを表す時空中の光の軌道の解析
近年、重力波の観測により連星ブラックホールの存在が示唆された。 そこで,連星ブラックホールの周りでの測地線を解析し、そこで生じる特徴的な物理現象を探ることで重力波以外での連星ブラックホールの観測に活用できると考えた。 しかし重力波の観測により存在が予想されているような連星ブラックホールが作る時空の厳密解は見つかっておらず、単体のブラックホールと同様の解析が困難である。 最大に電荷を持った多体ブラックホール解である Majumdar-Papapetorou 時空 は、アインシュタイン方程式の静的な厳密解であり、その時空中の測地線の解析も行われている。 そこでMajumdar-Papapetorou 解を基に、ブラックホールの位置がゆっくり回転するような計量を作り、それを用いて光の測地線を解析した。 その結果、MP 時空に存在する、安定な光の円軌道の半径が、微小な周期的変化を見せるこ とがわかった。 またブラックホールの質量と距離が特別な関係になった場合、円軌道からの半径の変化の振幅が大きくなる共鳴現象を見出した。

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