参考文献:
[1] H. Yoshino, K. Izumi, T. Shiromizu and Y. Tomikawa,
Prog. Theor. Exp. Phys. (2017) 063E01 [arXiv:1704.04673[gr-qc]].
日時:7月26日(金)
講師:安田 晴皇氏(京都大学)
題目:超新星残骸における宇宙線加速
概要:
超新星残骸(Supernova remnant; SNR)は、大質量星が超新星を起こした後に残す高温ガスを主体とした天体である。 SNRは超新星を起こした星の性質や、その星周環境により多種多様な構造を持ち、電波からガンマ線まで多波長で光る。特にガンマ線は、高エネルギー宇宙線と星周物質との相互作用により生成されるため、その観測から宇宙線の情報を抜き出せるため非常に重要な放射である。来年稼働予定のガンマ線望遠鏡Cherenkov Telescope Array (CTA)によって、SNRからのガンマ線観測が飛躍的にに増加し、宇宙線加速機構に迫れることが期待されている。本コロキウムでは、SNRと宇宙線、ガンマ線研究の現状を観測と理論の両面から紹介する。
日時:10月4日(金)
講師:中尾憲一氏(大阪市立大学)
題目:ブラックホール形成の兆候
概要:一般相対論は我々の宇宙にブラックホールが形成されることを予言する。
ブラックホールはその外側に一切の物理的影響を及ぼすことの無い領域なので、その存在を観測的に確認することは不可能である。
我々が観測しうる一般相対論の予言は、重力崩壊を続ける物体とその近傍の時空の幾何学が Kerr時空 のそれに漸近する過程であり、我々の視界でブラックホールが形成されることは無い。
そこでこの講演では、もっともらしいエネルギー条件(weak, strong, dominant energy conditions) を満たす球対称系について、重力崩壊している物体が bounce できる最小半径 Rc = 2M+epsilon (epsilon>0) が存在するかどうかを考察する。
ここで M は Misner-Sharp mass であり、2M は見かけの地平面の半径である。
もし Rc が存在するならば、エネルギー条件を満たしている物体がブラックホールを形成することを原理的に観測によって確認できる。
日時:10月18日(金)
講師: 神原氏(大阪市立大学)
題目:時空の熱力学的側面
概要:19世紀に発展した熱力学は巨視的な立場から熱現象を扱う理論である。
一方、一般相対論は時空の幾何学として重力の法則を与える理論である。
両者はまったく異なる分野の物理学である。
しかし1970年代からBekensteinやHawkingなどによってブラックホールと熱力学の関係が徐々に明らかにされてきた。
さらに1995年には、Jacobsonによって熱力学的議論からEinstein方程式が導かれることが示された。
このように熱力学と一般相対論は無関係でないことが明らかになっている。
今回は一般相対論と熱力学の関係として、一般相対論から熱力学の第一法則を導く試み、および熱力学的議論からアインシュタイン方程式を導く試みを紹介する。
講師: 大倉氏 (大阪市立大学)
題目:円柱対称時空における時間的閉曲線
概要:時間的閉曲線(Closed timelike curve,CTC)とは時間的な曲線でありながら全く同一の時空点に戻ってくるというもので、この曲線に沿って移動することで過去への時間旅行が可能となる。
一般相対性理論はこの時間的閉曲線の存在を示唆している。
時間的閉曲線が存在するような時空を形成する、ということはタイムマシンをつくるということに対応している。
本発表では回転する無限に長い円柱形状のダストによって形成される円柱対称時空というモデルを考えそのような時空において時間的閉曲線が存在することを確認する。
日時:10月25日(金)
講師: 木村匡志氏(立教大学)
題目:Stability analysis of black holes by the S-deformation method
概要:対称性の高いブラックホール時空に対する重力摂動はシュレディンガー方程式と同じ形の方程式を解くことに帰着することが多い.
本発表ではそのような場合に時空の安定性を示すための簡単な方法を提案し,この方法は時空が安定ならば常に適用可能であることも示す.
また,もし時空が不安定ならその示唆を得ることも出来る.
さらに物理的自由度が複数ある場合への拡張も行う.
参考文献:
M.Kimura, arXiv:1706.01447 [gr-qc].
M.Kimura and T.Tanaka, arXiv:1805.08625 [gr-qc].
M.Kimura, arXiv:1807.05029 [gr-qc].
M.Kimura and T.Tanaka, arXiv:1809.00795 [gr-qc].
日時:11月1日(金)
講師: 松野 皐氏(大阪市立大学)
題目:磁気曲面と佐々木多様体
概要:ケーラー多様体の奇数次元の類似物と言われることもある佐々木多様体には、その構造から自然に磁場(閉2形式)が定まり、佐々木磁場と呼ばれる。
これまでに佐々木磁場中の荷電粒子の運動についていくらかの研究がなされてきた。
そこで発表者は逆に、荷電粒子についてどのような条件が成り立てば佐々木磁場といえるかを考えた。
本講演では、佐々木多様体を含む接触幾何学について説明してから、過去の研究のレビューを少し行い、本研究である佐々木磁場の磁気曲線による特徴づけを行う。
日時:11月8日(金)
講師: 高橋一麻氏(大阪市立大学)
題目:数値計算による重力崩壊過程にある星の撮像
概要:本研究では、ブラックホールへ崩壊する重力崩壊モデルを用いて、遠方に静止している観測者が得るであろう自己重力により崩壊しつつある星の像を数値計算により示すことを目的としている。
具体的には星の表面から放射される光の軌跡を計算し、観測者へ届いた光の赤方偏移とそのスペクトルの時間変化も数値計算によって得る。
これまではOppenheimer-Snyder Collapseに基づき、時間的測地線に沿って崩壊する星について計算し、観測者の得る星の像の縁は全く赤方偏移せず、またスペクトルのピークの振動数はほとんど変化せずに、光子数が減少する事で観測不能となる事を示した。
本発表では、星表面の軌道が測地線に沿う場合に加え、等加速度の場合に対し数値計算を行った結果についてアニメーションを交えながら解説したい。
日時:11月15日
講師:小川達也氏(大阪市立大学)
題目:Soliton Stars in a Spontaneously Broken U(1) Gauge Theory
概要:大域的U(1)対称性を有するスカラー場の理論では、ノントポロジカルソリトンと呼ばれる古典解が存在することが知られている。我々はFriedberg, Lee, and Sirlinによって提案されたモデルを一般化し、複素スカラー場、複素ヒッグス場、U(1)ゲージ場が結合した,対称性が自発的に破れる系においてノントポロジカルソリトンを数値的に構成した。 2つの複素スカラー場は互いに逆符号の電荷を誘起し、 その結果,ソリトン内部の電荷は遮蔽されることがわかる。この電荷の遮蔽効果によってゲージ場による反発力が消されるために、いくらでも大きな質量をもつ安定なソリトン解が存在する。本講演では、このノントポロジカルソリトンモデルがつくる重力場を考慮することによって、ソリトン星を数値的に構成する。ソリトン星の質量には上限が現れ,この上限質量と重力結合定数の間の関係を議論し、本モデルにおけるソリトン星が天体スケールの質量をもち得ることを示す。
参考文献:
H. Ishihara and T. Ogawa, Prog. Theor. Exp. Phys. 2019, 021B01 (2019)
H. Ishihara and T. Ogawa, Phys. Rev. D 99, 056019 (2019)
日時:11月22日(金)
講師: 森澤理之氏(大阪市立大学)
題目:ループ重力と複雑性
概要:ループ重力に現れる幾何構造とそこで行いうる情報処理の性質や複雑性との関連について議論する。
日時:12月6日(金)
講師: 池田大志(Instituto Superior Tecnico, Portugal)
題目:ブラックホール周りのアクシオン雲に働く潮汐力
概要:アクシオンは素粒子物理学からその存在が予言されてる軽いスカラー場であり、宇宙を満たしているダークマターの候補の一つである。
アクシオン場はブラックホールの周りに雲状に局在化でき、超放射機構によって増幅される。
増幅された場は重力波源となるだけでなく、アクシオンと他の粒子との相互作用を通して様々な観測可能な物理現象をもたらす。
一方で、我々の宇宙には連星ブラックホールが存在し、その周りにもアクシオン雲が存在すると期待される。
ブラックホールが連星系をなす場合、その周りのアクシオン雲は潮汐力を感じて変形する。
この変形によってアクシオン雲の時間発展は、単一のブラックホールの周りの時間発展とは異なることが期待できる。
本発表では、現在進行中の研究として、潮汐力を伴うブラックホール周りのアクシオン雲の数値シミュレーションを示し、どのような物理が期待されるかを議論する。
日時:1月10日(金) 16:00〜
場所:F-216 理学部第8講義室
講師:大塚 隆巧氏(お茶の水女子大学)
題目:共変的ラグランジュ形式とその応用
概要:ラグランジュ系の対称性の考察や,ある対称性について不変な解(group invariant solution)を求める際にとても便利で簡単な方法を提供する,共変的なラグランジュ形式を紹介します.
このラグランジュ形式は,幾何学的に書き直されたラグランジュ形式で,有限次元のラグランジュ系は,フィンスラー多様体を用いて記述され,無限次元の場のラグランジュ系は,フィンスラー多様体を高次元的に拡張した面積計量空間(河口多様体)を用いて記述されます [Ootsuka-Yahagi-Ishida-Tanaka, Class. Quantum Grav. 32 (2015) 165016 ].
ハミルトン形式の幾何が,シンプレクティック多様体(あるいは接触多様体)であるという認識は,常識的になりましたが,それと同じ意味で,ラグランジュ形式の幾何が,フィンスラー多様体を含んだ面積計量空間だと言えます.
幾何学的な形式に書き直したハミルトン形式が便利なように,この幾何学的なラグランジュ形式も便利な点が幾つかあり,その中で特に,対称性に関した問題を2つ取り上げます.
ひとつは,系の不変解の構成(symmetry reduction)の方法 [Ootsuka-Yahagi-Abe, in preparation]と,もうひとつは,隠れた対称性による保存量を見つける方法 [Oosuka-Yahagi-Ishida, Class. Quantum Grav. 34 (2017) 095002]を紹介いたします.
どちらの方法も,この共変的なラグランジュ形式を基にして初めて出来るとても簡単な方法です.
日時:1月24日
講師:中司 桂輔氏(立教大学)
題目:Effect of a second compact object on stable circular orbits
概要:2015年に連星ブラックホール起源の重力波が直接検出されたことによって、我々の宇宙にはコンパクト天体連星系が存在することが明らかになった。
一方で、ブラックホールなどのコンパクト天体の周りにおけるテスト粒子の周回軌道はブラックホールシャドウや降着円盤などのコンパクト天体周辺での現象と密接に関連している。
本講演では、コンパクト天体周辺の周回軌道に対して、もう一つのコンパクト天体が及ぼす影響について考察する。
特に、単体コンパクト天体の場合には見られない周回軌道の挙動に触れながら我々の行った研究について紹介する。
参考文献
K. Nakashi and T. Igata, Phys.Rev. D99 (2019) no.12, 124033.
K. Nakashi and T. Igata, Phys.Rev. D100 (2019) no.10, 104006.
日時:1月31日(金)
講師:小笠原康太氏(京都大学)
題目:回転ブラックホール近傍における高エネルギー衝突現象
概要:回転ブラックホール近傍における粒子衝突では,その衝突エネルギーが任意に大きくなれたり,ブラックホールからエネルギーを引き抜いて高エネルギー粒子を作ったりできる.
本講演では,高エネルギー衝突現象に関する近年の研究を概観した後,これらと関係した私の最近の研究(ブラックホール近傍からの光の脱出確率)について紹介したい.
また,時間が許せば,高エネルギー現象における自己重力効果の解析についても紹介したい.
日時:2月14日(金)
講師:根岸宏行氏(大阪市立大学)
題目:非常に大きなスケール非一様性が宇宙背景放射の大スケールの温度ゆらぎに与える影響
概要:標準宇宙モデルでは宇宙は非常に大きなスケールで粗視化して見ると等方一様であると仮定している。
観測的には宇宙の等方一様性は十分に確かめられていない。
本研究では宇宙に非常に大きなスケールの等方非一様な構造が宇宙に存在した場合に宇宙背景放射の大スケールの温度ゆらぎがどのような影響を受けるかについて発表する。
日時:2月21日
講師:岡林一賢氏(大阪市立大学)
題目:コンパクト天体の形成に伴う粒子生成の普遍性
概要:1970年代にHawkingによって発見された重力崩壊に伴う粒子生成は、EHの存在(BHの形成)を仮定し、真空が変化することで得られることが知られており、プランク分布に従う。
しかし、その仮定は本質ではないことが現在知られており、ホライズンの有無にかかわらずプランク分布に従う粒子生成が起きることが示されている[1]。
その事実を踏まえ、コンパクト天体の形成に伴う粒子生成が計算されており、特に、BH mimickerという古典的にBHと区別できない天体があったときにどのような粒子生成が得られ、観測的に区別できるか探究されている[2,3,4]。
これらの先行研究では、天体の内部がMinkowski時空で、外部がSchwarzschild時空という非現実的な状況でしか現状解析されていないため、より現実的なモデルで解析をする必要があった。
そこで実際に、具体的なモデルを置いて粒子生成がどの程度得られるか解析したところ、非現実的なモデルで得られる結果と同程度粒子生成することがわかった。
本講演では、解析をさらに拡張することにより、この結果が天体内部にある物質の詳細によらない普遍的な性質であることを先行研究も踏まえつつ紹介する。
参考文献
[1]. C. Barcelo, S. Liberati, S. Sonego, and M. Visser, JHEP02(2011)003
[2]. T. Harada, V. Cardoso, and D. Miyata, P.R.D 99, 044039(2019)
[3]. T. Kokubu and T. Harada, P.R.D 100, 084028(2019)
[4]. C. Barcelo, V. Boyanov, R. Carballo-Rubio, and L. Garay, Class. Quantum Grav. 36 165004(2019)
日時:2月28日
講師:安積伸幸氏(大阪市立大学)
題目:連星ブラックホールを表す時空中の光の軌道の解析
近年、重力波の観測により連星ブラックホールの存在が示唆された。
そこで,連星ブラックホールの周りでの測地線を解析し、そこで生じる特徴的な物理現象を探ることで重力波以外での連星ブラックホールの観測に活用できると考えた。
しかし重力波の観測により存在が予想されているような連星ブラックホールが作る時空の厳密解は見つかっておらず、単体のブラックホールと同様の解析が困難である。
最大に電荷を持った多体ブラックホール解である Majumdar-Papapetorou 時空 は、アインシュタイン方程式の静的な厳密解であり、その時空中の測地線の解析も行われている。
そこでMajumdar-Papapetorou 解を基に、ブラックホールの位置がゆっくり回転するような計量を作り、それを用いて光の測地線を解析した。
その結果、MP 時空に存在する、安定な光の円軌道の半径が、微小な周期的変化を見せるこ とがわかった。
またブラックホールの質量と距離が特別な関係になった場合、円軌道からの半径の変化の振幅が大きくなる共鳴現象を見出した。