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数値シミュレーションギャラリー


量子渦糸近似の定式に基づく解析

  • 固体微粒子と量子渦の結合ダイナミクス
  • Maryland大学の実験グループは、水素原子固体を用いて、4Heの熱対向流の流れ場の可視化を行った[1]。この実験では、水素原子固体は2種類に分割できる。1つは、常流体の流れる方向にまっすぐに流れている粒子。もう一つは、量子渦にトラップされて、超流体の流れる方向に揺らめきながら流れている粒子である。我々は実験のダイナミクスを数値計算で再現し、実験と類似した結果を得た。

    [1] M.S. Paoletti, R.B. Fiorito, K.R. Sreenivasan, and D.P. Lathrop J. Phys. Soc. Jpn. 77, 111007 (2008)

  • 渦輪によって誘起される超流動4He中の物体境界付近の量子乱流
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  • 振動グリッドによる量子乱流生成
  • ランカスター大学の実験グループにより、振動グリッドを用いて超流動3He-Bにおける層流・乱流状態の制御を行い、Andreev反射を用いて観測する事に成功したとの報告がなされた[1]。我々は実験を数値シミュレーションで再現する事に成功し、その結果、彼らの絶対零度での乱流観測と一貫する結果を得た。
    [1] D. I. Bradley et al. Phys. Rev. Lett. 95, 035302 (2005)
    更にランカスター大学の実験グループは乱流の減衰を測定して、乱流がKolmogorov則に従う事を間接的に示した[2]。数値シミュレーションでも実験と同様な乱流減衰が確認された。
    [2] D. I. Bradley et al. Phys. Rev. Lett. 96, 035301 (2006)

  • 量子渦糸におけるKelvin波カスケード過程
  • 常流体がほとんどない超低温における超流動乱流の減衰機構に重要な役割を果たすと考えられるKelvin波のカスケード過程を調べるために、以下のシミュレーションが示すモデル計算を基に考察した。ここでは、一本の渦糸を用意し、それを端から一定の振動数でゆすり、単一のモードのKelvin波を連続的に励起する。やがて振幅が大きくなると非線形相互作用の効果で様々なモードが結合し、複雑な非線形振動を示す。我々はこの時、系は一種の定常状態に達し、簡単なエネルギースペクトルに従う事を予言した。

    W.F. Vinen, M. Tsubota, A. Mitani, Phys. Rev. Lett. 91, 135301 (2003)

  • 超流動乱流の速度に依存しない固有条件
  • ヘルシンキ工科大学のクルシウス教授らの実験グループは超流動ヘリウム3を入れた容器を回転させ、その底部から半円状の渦輪を1本入れた時に、温度が高い時には渦糸が回転軸に平行に配列して、渦格子を形成するが、ある温度以下では格子を組まずに乱流状態になる事をNMRの測定により発見した。この乱流は系の温度を変えるという系固有の性質に起因する内から起こる乱流であり、これはこれまでに知られていない全く新しい乱流の発生条件である。我々は渦糸近似の定式の下でこの現象の解析を試み、実験結果をサポートする結果を得た。以下の計算結果は回転座標系において、左が温度が高い時 (T=0.8Tc) 右が温度の低い時 (T=0.4Tc) のシミュレーション結果である(Tcは超流動転移温度)。温度が高い時には一本の渦輪が滑らかに回転軸に平行に成長するのに対し、温度が低い時は渦糸の不安定性によりKelvin波がたってループ状に成長し、数多くの再結合を繰り返して乱流状態に達する様子が見て取れる。

    A.P. Finne, T. Araki, R. Blaauwgeers, V. B. Eltsov, N. B. Kopnin, M. Krusius, L. Skrbek, M. Tsubota & G.E. Volovik, Nature (London) 424, 1022 (2003)

  • 回転する超流動乱流
  • 超流動4He中では、2種類の集団的な渦糸状態が知られている。一つは回転容器中での渦糸格子状態、もう一つはカウンタフローにより成長した超流動乱流である。本研究では渦糸近似を用いた数値計算法により、回転と回転軸方向のカウンターフローを同時に加えたときの渦糸のダイナミクスを計算した。以下のシミュレーションでは初期配置として回転下での渦糸格子から出発し、回転軸方向にカウンターフローを加えた。この速度がある臨界速度を超えると、Kelvin waveが励起され、その振幅が成長する。その結果、渦糸格子が不安定になり、回転軸方向にタングルが分極した、分極タングルと言う新しい状態に転移する。(左が回転振動数Omega=0.00635 Hz カウンターフロー速度Vns=0.08 cm/s、右がOmega=0.03175 Hz Vns=0.08 cm/s)

    M. Tsubota, T. Araki, and C.F. Barenghi, Phys. Rev. Lett. 90, 205301 (2002)

  • 非一様な量子渦タングルの拡散
  • Lancaster大学の実験では振動グリッドにより渦糸タングルを生成し、その後のタングルの減衰を観測している。振動グリッドを用いると渦はグリッド周辺にのみ局在して生成されるため、その後渦タングルが空間的に一様になるには十分に拡散する事が必要である。非一様な渦糸タングルの初期状態を用いて渦のダイナミクスを計算し、拡散の効果を示したのが以下のシミュレーションである。結果、拡散の効果は小さく、Lancasterで観測した渦糸タングルは、グリッド周辺に渦が局在した非一様タングルである事が明らかになった。

    M. Tsubota, T. Araki, and W. F. Vinen, Physica B 329-333, 224 (2003)

  • 超流動乱流のエネルギースペクトル
  • 最近、超流動乱流と粘性流体の乱流との類似性が注目されている。我々は相互摩擦力を無視し、Taylor-Green vortex の配置を持つ初期状態から自由発展して得られる超流動乱流のエネルギースペクトルを議論した(以下のシミュレーション参照)。その結果、平均渦間距離に相当する波数2pi/lで、エネルギースペクトルの波数依存性が変化している事が分かった。k>2pi/lでは、個々の渦糸の近傍の速度場からの寄与が強く、1/kに比例する。一方、k<2pi/lでは、渦糸タングルが一様で等方的になるにつれて、スペクトルは粘性流体の乱流において重要な統計則として知られるKolmogorovの-5/3則に漸近する。

    T. Araki, M. Tsubota, and S. K. Nemirovskii, Phys. Rev. Lett. 89, 145301 (2002)

  • 極低温における量子渦タングルの減衰
  • Lancaster大学の実験グループは常流体成分を無視できるmK温度領域で渦糸タングルの減衰を観測した。この温度領域では相互摩擦力が無視できるため、従来の渦糸タングルの減衰のメカニズムでは説明されない。我々は相互摩擦力を無視した時の渦糸タングルのダイナミクスを議論した。乱流状態は最初に6個の渦輪を用意し、常流体のカウンターフローをz成分にかける事により生成する(左のシミュレーション)。相互摩擦力を無視すると、渦糸同士の再結合後、渦糸状に vortex wave が励起され、渦に不安定なキンク構造が現れる。そのため、その渦自身との再結合が多発し、大きな渦が小さな渦に分裂していくカスケード過程が促進される。この過程は自己相似的に進行し、小さな渦を供給し続ける。やがて渦の大きさが原子間距離のオーダーになると、もはや渦の描像を失う事から、このカスケード過程は渦糸長密度の減衰を導くと考えられる。

    M. Tsubota, T. Araki, and S. K. Nemirovskii, Phys. Rev. B 62,11751 (2000)

    左が相互摩擦力あり、右がなし。
    一本の渦糸と渦輪の衝突。左が相互摩擦力あり、右がなし。