研究の概要



研究分野

凝縮系物理学において固体中の電子系は、基礎および応用の両面から研究されてきた伝統のある分野のひとつです。また最近は、半導体や金属の微細加工やナノ・スケールにおける制御・技術の進歩により、以前には困難であった状況での実験や観測が可能になって来ています。このような展開が凝縮系の量子状態に関する新奇な現象や法則の発見につながり、固体電子系の研究は新たな方向にも発展を続けています。

電気伝導や磁性などの電子系の物性は、微視的には電子がフェルミ統計に従い、固体中では巨視的な数の電子がクーロン相互作用を及ぼし合い、さらに格子上のイオンによるポテンシャルが働く状況下で実現される量子力学的な状態によって決定されます。特に、多電子系では平均場近似を超えたクーロン相互作用の高次の効果は、総称して「電子相関」と呼ばれ、今日、物性を理解する上で重要なキーワードのひとつになっています。

電子相関物理学講座では、統計物理学における場の理論的な解析手法やコンピュータを用いた数値的アプロ―チを駆使し、具体的な現象の説明から方法論までを含め、電子相関の強い系の理論研究を行っています。特に、最近は半導体やカーボン・ナノチューブ等で作成された量子ドット系における量子輸送と近藤効果に関する研究を行っています。量子ドット系では、電子の量子力学的な波動性による干渉効果と、粒子性が反映される電子相関の両方が、電気伝導特性に顕著に現れます。さらに、量子ドットと超伝導体との接合系で見られる超伝導位相と磁性、トンネル効果などが相互に関連した現象も、我々の研究対象のひとつです。

また、このような近藤効果に代表される量子不純物系において発展した多体量子論のアプローチや、そこから得られた知見には極めて普遍的な理論構造を持つものが多く、周期性を持った結晶固体電子系の電子相関効果の問題の研究にも拡張、あるいは同様なレベルで適用され、低温におけるバルクの系の量子流体相や様々な秩序相の性質を理解する上でも大きな役割を果しています。このような方向と関連して、銅酸化物やf電子系などの強相関電子系における超伝導発現の機構や金属絶縁体転移に関する研究、および半導体を含む結晶固体電子系のX線分光の理論解析も行ってきています。

近藤効果のキーポイント