三者共通講義

講師 : 村山 斉氏(IPMU)

題目 : 量子から宇宙へ

概要 :  近年ミクロの究極を探る素粒子物理学(量子力学と相対論の世界)と マクロの究極である宇宙の関係がますます密接になって来ている。 例えば、宇宙の95%は原子でない、未知の物で出来ていることがわかった。 そのうち20%の暗黒物質は新しい素粒子、 残りの75%の暗黒エネルギーは真空の量子揺らぎから来るエネルギーが寄与している と考えられている。 一方、宇宙の大規模構造は宇宙初期の量子揺らぎがインフレーションで引き延ばされ、 古典化したものが重力で成長したのだと考えられている。 更に、我々(物質)が宇宙に存在すること自身謎であり、 宇宙初期の量子的効果から物質・反物質の量が僅かにずれ、 物質が生き残った。 この量子物理と宇宙の結びつきについて講義する。

  講義 A (弦理論)

講師 : 大川 祐司氏(東京大)

題目 : 弦の場の理論における解析的手法

概要 :  弦の場の理論は、弦理論の非摂動的定式化に対するひとつのアプローチで、 通称 alpha' 補正と呼ばれる弦の広がりの効果が重要である状況での弦理論の 古典解の解析で特にその威力を発揮しています。 その典型的な例が開弦のタキオン凝縮の問題です。 2005年の11月、Schnablが1986年にWitten が構成した 開弦の場の理論の最初の解析解の構成に成功し、 それを契機として解析的手法が大きく進展しています。 この講義では、Wittenの開弦の場の理論の基礎の説明から始めて、 最近の解析的手法の進展について解説したいと思っています。

  講義 B (現象論)

講師 : 日笠 健一氏(東北大学)

題目 : LHCにおける素粒子物理

概要 :  まもなくCERNのLarge Hadron Collider(LHC)において実験が開始されようとしている。 従来より1桁近く高いエネルギーの実験により,未知の領域がひらかれる。 素粒子物理の現状とLHC における現象論の基礎, ヒッグス粒子の物理,超対称性などの新しい物理について解説する。

  講義 C (場の理論)

講師 : 川野 輝彦氏(東京大)

題目 : Meta-Stable Supersymmetry Breaking

概要 :  超対称性(SUSY)は階層性の問題の一つの有力な解決方法ですが、 電弱スケールを超対称性の破れで説明するためには、 SUSYを力学的な機構を通じて自発的に破るモデルを作ることが 望まれます。しかしながら、このようなモデルを作ることは容易ではなく、 今のところ、限られたものが知られています。ところが、このような議論は、 すべて、理論の最低エネルギー状態の真空がSUSYを破っているモデルに 限られています。一方、理論の最低エネルギーの状態の真空がたとえSUSYを 保つようなモデルでも、理論のもつポテンシャルがその真空以外に極小点を持てば、 その真空では一般にSUSYを破るものになっているはずです。このような真空は 準安定(meta-stable)状態なのではありますが、宇宙年齢よりも十分な長さの 崩壊時間であれば、現象論的なモデルを作るうえで十分なはずです。 特に、最近、Intriligator、Seiberg、Shihが提唱したモデルは、 このようなmeta-stableな真空を実現するモデルで非常に簡単なものであり、 現象論的なモデルづくりに使いやすいものになっており、多くの注目を集めました。 この講義では、このモデルを念頭に最近のmeta-stable vacua を用いた 超対称性の破れの力学について議論します。