研究概要

 宇宙の99%以上は、私たちが日常目にする固体、液体、気体とは異なる「物質の第4状態」である「プラズマ」と呼ばれる物質、すなわち原子が正電荷をもつイオンと負電荷をもつ電子に電離した導電性の気体でできている。地表は温度が低いので、特別な場合を除いて、我々の周囲には天然に存在するプラズマはあまり見かけないが、地上50kmあたりからは電離圏と呼ばれるプラズマ領域が存在し、また、地球の磁気圏(地球の磁場が支配するプラズマ領域)は、太陽から吹き付けるほぼ完全電離のプラズマ(太陽風)の中にある。恒星の内部やその外気、ガス状星雲、星間物質はプラズマで満たされている。日常生活から受ける印象とは異なり、宇宙全体でみると大部分の物質はプラズマとして存在している。宇宙のプラズマは、学問的にも広大な未開拓の分野である。

 荷電粒子は電磁場を介して遠く離れた他の粒子にも力を及ぼすことができる。したがって、荷電粒子の集まりであるプラズマの中では、波や不安定性など、集団的な運動が起こりやすくなる。また、多くの場合、高温で希薄であるため、粒子間の衝突が殆ど起こらない。この2つがプラズマの振舞いを複雑で独特なものにしている。ソリトン、カオス、乱流など、様々な非線形現象が起こりやすく、20世紀後半に急激な発展を始めた非線形物理学の花形でもある。

 プラズマ物理学の理論的研究を、宇宙や実験室内で生起するプラズマ過程の大部分に重要な役割を果たしているのは波動や乱流(特に、磁気流体波や磁気流体乱流)であるという観点から、波動や乱流の相互作用及びその非線形的発展、また、それらとプラズマの加熱や加速というマクロなダイナミクスとの関係の理論的解明を中心に行っている。より具体的には、プラズマ中の波動や乱流の非線形的な振る舞いと粒子加速(宇宙線やオーロラ粒子の)、プラズマの加熱(太陽コロナ加熱や太陽風の加熱)、プラズマの加速(太陽風や磁気圏サブストームに伴うプラズマの流れ)、大規模な磁場変動(天体磁場の維持、地磁気の永年変化の西方移動、太陽磁場の大規模変動)などのマクロなダイナミクスとの関係の解明という観点から研究している。

 乱流・カオスについて、特に多自由度力学系に於ける時空カオスについての研究も行っている。時間的リズムや空間的パターンの乱れた状態は乱流相とよばれ、非平衡で不安定な非線形力学系に特徴的な現象であることがわかってきた。この乱流相へいたる素過程が力学系のカオスによって記述されることが明らかになりつつある。この乱流相を調べるために種々の力学模型を作り、計算機を使って数値的に解くことにより、カオスの動力学的な研究を行っている。より具体的には、地球磁場の生成モデルとして研究されてきた円盤ダイナモ系を3円盤系以上に拡張し、中間自由度系や多自由度系でのカオスへ至る道を数値計算を実行することにより研究している。