ヘリウム 〜凍らない液体と動き回る原子の固体〜

ヘリウム

ヘリウム(Helium)は常温常圧で無色、無臭の気体である。周期律表の右上に位置する最も軽い希ガス元素であり、また不活性の単原子ガスとして存在する。

ヘリウム原子は質量が小さい。これは言うことはゼロ点振動のエネルギー

   (1)

が大きいことを意味している。また、希ガスであるから化学活性が非常に弱いという特徴もある。この二つの特徴を同時に表す量として、量子性パラメーター(λ)がある。

液体の種類 Xe Kr Ar N2 Ne H2 4He 3He
量子性パラメーター 0.06 0.1 0.19 0.23 0.59 1.73 2.64 3.05

この量は、「ゼロ点振動のエネルギー」と「原子間相互作用の深さ」の比で決まる。表のように、ヘリウムの二つの同位体原子は他の分子とくらべて大きな量子性をしめす。その、もっとも顕著な例が「不凍液」である。すなわち、ヘリウム4は25気圧、ヘリウム3の場合は34 気圧以下の圧力では絶対零度でも固体にならない。熱力学をまじめに学んだ事のある人なら、ここで大きな疑問が生ずるだろう・・・熱力学の第2法則はいったいどうなるのだろうか?・・・液体のままエントロピー0になっていいのだろうか? この疑問が、超低温物理学の大きな原動力の一つとなっている。

さて、ヘリウムは安定な同位体が二つ存在し、液体を形成すると性質は大きく異なってくる。細かい議論は後で述べることとして、以下に外観を示そう。

He4

ヘリウム4は核スピン0の中性ボーズ粒子であり、存在量は水素に次いで宇宙で2番目に多い。地球の大気中にも存在し、鉱物やミネラルウォーターのなかにも僅かにとけ込んでいる。多くは天然ガスと共に豊富に産出し、またある時はウラン鉱山付近のガス井戸からも産出される。工業的にも応用的にも用途が豊富で、気球や小型飛行船の浮揚用ガスとして用いられたり、液体ヘリウムを超伝導用の低温素材としたり、深海へ潜る際の充填ガスとして用いられている。

それでは、低温においてはどのような事が解っているのだろうか。

まず、以下に、低温における相図を示す。

この様に、通常液体(normal liquid) は温度を下げることによってλ線(lambda line)を越えると超流動状態(superfluid) に転移する。また、液体状態に高い圧力を掛けることによって固化するが、融解圧(固体と液体の相境界線)は低温で傾きが0となるという特徴がある。

He3

He3原子は、核スピン1/2を持つ中性のフェルミ粒子である。天然には極めて微量しか存在せず、実験用に使うようなまとまった量は原子炉をつかってつくられる。核反応式は次の通りである。

Li(6,3) + n(1,0) --> H(3,1) + He(4,2)
H(3,1) --> He(3,2) + e + ν(反電子ニュートリノ)

低温に於ける相図は次のようになっている。

低温における液体3He は、液体4Heと同様、絶対零度でも液体相が存在する。

超流動転移直前まで不純物一つない理想的でしかも相関の強い中性フェルミ流体(Normal Fermi Liquid)を形成している。これを冷却してゆくと超流動相が出現するのだが、高温高圧状態にA相(ABM状態)とよばれる状態と、それ以外の広い領域にB相(BW状態)と呼ばれる二つの超流動相が存在する。さらに、磁場を掛けることによりA相がさらにA1相とA2相(A相と同じ)に分離することが知られている。

次に、融解圧曲線に負の傾きが存在することが重要である。これについては、融解圧温度計の項目で詳しく述べることにする。また、固体相は低温でU2D2相と呼ばれる特異なスピン構造をもつ反強磁性相が存在する事が知られている。


それでは、各項目について詳しく見てゆこう。

超流動ヘリウム4 / 量子液体ヘリウム3 / 固体ヘリウム3 

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