超流動ヘリウム4

超流動とは何か?

超流動転移とは、冷却により液体の粘性が突如消失する現象である。

よく似た言葉に「超伝導」という言葉がある。これは、電子の流れる際に感じる抵抗、すなわち電気抵抗がない状態である。これに対応して、超流動では、液体ヘリウム4が流体力学的な抵抗なく流れるという事ができる。(あるいは、「超伝導とは電子の超流動である」ともいえる。)

超流動は、液体ヘリウム4と液体ヘリウム3においてのみ見つかっているが、二つは物理学的に全く異なる起源を持つ。ここでは液体ヘリウム4の超流動についてのみ概説する。

(中性子星における中性子の超流動や、固体ヘリウム4の超流動、ヘリウム3希薄液の超流動など、興味深い報告・理論計算があるが未だ確定してはいない)

超流動転移「λ転移」で起こる様々なこと

「λ転移」という名前の起源

液体ヘリウム4を飽和蒸気圧曲線にそって減圧冷却し、同時に比熱測定を行ったところ、下のグラフに示すような異常が観測された。

ちょうどギリシャ文字の「λ」の形に似ていることから、この異常の起こる温度をTλと名付けられた。Tλはその後の精密な温度測定により2.17・・・Kであることが解っている。非常に鋭いピークで、電子の超伝導で知られている「比熱の飛び」とは桁違いに大きな変化である。比熱の頂点は非常に高く、もしかすると発散しているかもしれない。Tλからのズレが僅かに七桁半目までという極めて高い精度で計られた結果によると、頂点がカスプ状の有限の値をとるらしいということが予想されるが、しかし、測定精度の限界とくに重力の効果が無視できない強さになって現れてくるため、確定しているわけではない。

このように、歴史的にはまず比熱のλ型異常が見つかった。しかし、比熱の異常だけで「超流動」が発見されたと見なすべきではないだろう。

二つの粘性測定

(1)回転粘性計

円筒容器と、その中に収まる円柱を同心上に設置し、円筒容器と円柱の間に流体を満たす。内側の円柱を回転させると、流体の粘性に応じたトルクが外側の円筒容器に生ずる筈である。

この原理をもとに粘性を計測すると、上のグラフのようになった。すなわち、Tλにおいて鋭い減少を示し、低温では極小をもつ。・・・しかし、この結果を見ても粘性が消失しているわけではない。

(2)ポアズイユ流を利用した実験

非常に細い隙間(直径a 長さ )にある流体に圧力差ΔPを掛けると、隙間を流れる平均の流速Vは流体の粘性に逆比例する。

この原理をもとに粘性を計測すると、上のグラフのようになった。すなわち、Tλで粘性は消失する。そして、それより低温では圧力差にほとんど依存しない流れが観測された。これこそ、超流動の発見である。

なお、超流動転移温度Tλより高温の常流動相をHe(I)、低温の超流動相をHe(II)とよぶ。

永久流

超伝導の永久電流に対応して、超流動でも流れが永久に続く現象が観測できる。

液体ヘリウムが入った容器を「ある回転数」以上で高速回転させながら冷却し、Tλ以下になったところで容器の回転をとめる。その後、容器は止まっているのにも関わらず、液体には有限の各運動量が残る。このとき、中に生じている流れ(速度場vs)は長時間持続するため、永久流と呼ばれている。

二流体モデルの登場

前節(1)(2)の実験結果は、Tλ以下の温度において矛盾しているように見える。しかし、これは二流体モデルという現象論を導入することに見事によって解決できる。二流体とは、超流動成分と常流動成分である。そして、「全流れj」は密度ρと速度vをもって次のように書き表せる。

(1)
(2)

ただし、s および n はそれぞれ超流体・常流体成分を表し、
添え字のないjとρは全体を表す。

(1)の回転粘性計では、液体全体の粘性を計る。これは、常流動成分の粘性ρnを計っていたことになる。一方、(2)のポアズイユ流では、あまりに管が細かったため、管の中には最初から超流動成分しかなく、粘性といっても超流動成分のみの粘性を計っていたことになるのである。だから、この二つの実験に矛盾はない。

第二音波・第四音波

ひとたび二流体モデルが正しい現象論であることを認めると、純粋に熱力学と流体力学(とくにナビエ−ストークスの方程式)を当てはめるだけで、第二音波と第四音波という超流動が存在するときにの現れる特異な波の存在を予言できる。第二音波とは温度が振動する波であり、第四音波とは超流動成分のみが振動する圧力波である。詳しいことは第四音波共鳴実験の項目に譲るとして、ここでは式のみ紹介する。

ここで、C1は通常の音波の音速(第一音速)、C2,C4が第二・第四音速、S・T・Cvはそれぞれエントロピーと温度と定積比熱である。式を見て解るように、もし超流動でなければρs=0なのでC2=C4=0となる。

飽和蒸気圧下における音速の測定値は次のようになっている。

J.Maynard Phys.Rev.B 14,3868(1976)

また、第四音波を用いると以下の式のように超流動密度を直接計測できる。

これをもとに、二流体の密度をそれぞれ計算すると、次のようなグラフを書くことができる。

Tλ以下でいきなり全成分が超流動に成るわけではない、という事にも注目すべきであろう。

熱対向流・超熱伝導

A・B二つの容器を、比較的太い管で繋ぎ、超流動ヘリウム4で満たす。Aにはヒーターが設置されているとする。Bの温度をTとし、Aの温度はヒーターが焚かれている分だけ上がり、T+ΔTになっているとする。この様な状況では、何が起こるだろうか?

二流体モデルの式(1)において、この系では全流れjはないから、

という超流動流れ場を得る。この流れ場は、常流動の流れ場vnとは反対向きである。これを、熱対向流という。そして超流動ヘリウム4の場合、この流れは極めて効率よく熱を運ぶ(超熱伝導)ことが知られている。効率がよいからこそ、(普通は減衰拡散することしかできない)温度が波として伝播できるのである(→第二音波)。

沸騰の消失

今、冷凍器の中に4.2Kの液体ヘリウムを満たし、容器ごと液体ヘリウムを減圧排気してゆくことを考える。液体ヘリウムは蒸気圧曲線に従う形で冷却されてゆく。このとき、液体ヘリウム液面は激しく沸騰していることが肉眼で確認できる。これは、熱伝導が悪いために液体内部の温度が非一様になり、局所的に飽和蒸気圧が高くなったところで蒸発(気化)が起こり、泡ができているのである。

しかし排気を継続して温度がTλになると、沸騰が突然おさまり、鏡のように平坦な液面に変わる。また、この状態で液中に置かれたヒーターを加熱(一番右の図)してもなお、沸騰する様子はない。ヒーターが赤熱する(約1000K!)までパワーを掛けてもヒーター表面にだけ僅かに気泡ができ、密度の揺らぎによるモヤモヤが見えるが、しかし泡は発生しない。これは、超熱伝導によって液体の温度が究極的に一様になり、熱があっという間に液面に到達し、液面のみで蒸発が起こるためである。

噴水効果

フィルムフロー


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