超流動ヘリウム4の諸理論

ボーズ凝縮系の秩序変数

ボーズ場の演算子

よくあるように、運動量空間に於ける3次元理想ボーズ粒子の生成・消滅演算子をそれぞれ次のように表すことにする。

以上の関係から、粒子数演算子の統計平均np とボーズ分布関数の関係を求めると次のようになる。

ここで、β=1/kBT で、μは化学ポテンシャルである。

以上のボーズ粒子の生成・消滅演算子をもちいて、ボーズ(波動)場ψを次のように定義する。

これも通常の場の演算子と同じように、次のような交換関係を満たす事が解る。

さて次は、ボーズ凝縮体の存在を見越してボーズ場ψの中で特に運動量 p = 0 の成分ψ0) だけを抜き出す。

    (*)

ψ0 の満たす交換関係は、

すなわち、系の大きさが大きくなる(N/V を一定にしつつ、を無限大にする)と交換関係を満たすC数と見なすことができる。

相関関数

ここで、理想ボーズ粒子系の相関関数なる関数を導入する。

もし、r=r’ならば、相関関数は粒子数密度の演算子の期待値となる。

一様な系では、ρ1はr−r’だけで書き表すことができる事を利用して、相関関数を上記式(*)を利用して書き下すと、次のようになる。

ここで、右辺第1項は「運動量 p =0 である」という事を指定しただけで、位置は全く指定していない。すなわち、第1項が有限の値を持つなら、どんなに離れた2点の間にも相関が存在する事を意味している。したがって、第1項は長距離相関を表している。また、式の形を見ても解るとおり、第1項そのものはp=0の粒子の密度、すなわち凝縮体の密度そのものを表していることがわかる。

一方、第2項はrとr’の距離が(おおよそドブロイ波長程度以上)離れるに従って減衰するため、短距離相関を表している。

相互作用のある場合

以上の話を、相互作用のある場合に拡張すると、相関関数は次のように書ける。

ここでもやはり第1項は長距離相関、第2項は短距離相関を表すものである。さらに、

とおくと、長距離相関部分はΨ*(r’)Ψ(r)のような非対角な形になる。そのため、非対角長距離秩序(ODLRO)と呼ばれる。また、Ψ(r)は一粒子(波動)の消滅演算子の期待値であるから、通常は0になるべき量である。

秩序変数と巨視的波動関数

相互作用のない理想ボーズ系とある場合の相関関数を比べると、|Ψ(r)|^2 が凝縮体の数に比例すべき事が解る。したがって、秩序変数は

とかける。ここで、n は凝縮体の密度で、φは位相である。ここまでの議論では単なる式変形の産物に過ぎないが、秩序変数とその位相がボーズ凝縮系において極めて重要な役割を果たすことが、次の議論から解る。

まず、グランドカノニカルなハミルトニアンをボーズ波動場の演算子で書く。

液体ヘリウムの場合は、相互作用を剛体球近似して

とする。ここから、ψ(r)をハイゼンベルグ表示ψ(r,t)におきかえ、ハイゼンベルグの運動方程式を求めると、

さらに統計平均を取ると、時空変化する秩序変数の満たすべき方程式が得られる。

これを、Gross-Pitaevskii 方程式と呼ぶ。そして、秩序不変数Ψ は波動方程式の性質を持つことが解る。これを、巨視的波動関数と呼び、凝縮体が従う基本的な方程式と見なすことができる。

巨視的波動関数と超流動速度場

秩序変数がシュレディンガー方程式を満たすのであれば、「確率流れ密度j」さらには「超流動速度vs」を求めることができる。

すなわち、超流動速度は巨視的波動関数の位相の勾配に等しく、rot vs = 0 より、超流動流は位相をポテンシャルとするポテンシャル流であると言うことができる。

超流動ヘリウム4中の素励起

超流動転移とボーズ凝縮

ヘリウム4を理想ボーズ粒子としてボーズ凝縮温度

(ただし、Sはスピン(0)、N/Vは数密度、mは質量。)

を算出すると、3.13 K となる。これは、飽和蒸気圧下の超流動転移温度の実測値 2.17 K にちかい。そのことから、超流動とボーズ凝縮は等価なものだと考えられてきた。


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