第四音波共鳴法

ここでは、超流動ヘリウム中に存在できる音波と、その測定から導き出される物理量について解説する。

超流動と3つの音波

第一音波

液体ヘリウム中には、通常の音波(断熱音波;圧縮波・密度の粗密波)が存在できる。その音速(1)は、圧力(P)あるいは密度(ρ)と、断熱圧縮率(κ)だけで決まる。

    (1)

ここで、添え字の()は断熱条件を示している。具体的な音速を図1と図2に示した。ヘリウム4の第一音波の音速は超流動転移温度Tλにおいて、小さなカスプ状の異常を示す事が解る。図2はヘリウム3の第一音速であるが、こちらもやはり小さなカスプ状の異常が確認されている(横軸は各圧力における相転移温度(Tc)で規格化してある)。

 

図1:飽和蒸気圧下のヘリウム4における3つの音速の温度依存性

図2:ヘリウム3における第一音速の温度依存性(低温研による実測値)

第二音波

液体ヘリウム中には、温度あるいはエントロピーの波が存在する事が知られている。すなわち、ヒーターを振動的あるいはパルス的に発熱させると、離れたところに設置された温度計が示す温度が振動するのである。先述の第一音波においては超流動成分と常流動成分が同相で振動するが、第二音波では二つの成分は互いに逆相で振動する。そのため、全体としての流れ(あるいは圧力振動)は存在しない。

音速(2)をエントロピー()と温度()、比熱(Cv)で書き表すと次のようになる。

    (2)

ここで、ρs,ρn はそれぞれ二流体モデルにおける超流動密度と常流動密度である。

ヘリウム4における第二音速は図1に示されているとおりである。超流動転移温度以下で現れ、第一音速にくらべて一桁小さい値を取る。1K以下の低温では、式(2)の分母のρnが限りなく小さくなるために発散する事が期待されるが、現実には測定が困難であるために確定していない。

第四音波

液体ヘリウムの常流動成分には粘性がある。そのため、小さな隙間に閉じこめると、振動しにくくなることは容易に想像できるだろう。そして、ついにある長さ「粘性侵入長δ」以下の大きさの隙間に閉じこめられると、常流動成分が完全に動けなくなる(この粘性侵入長は、1kHz程度の振動に対しては、液体ヘリウム3では1μm、ヘリウム4では0.1μm程度である)。この様な狭い隙間では、超流動成分のみが振動することのできる特殊な波が存在できる。これを、第四音波という。

第四音波の音速は以下のようになる。

   (3)

ただし、第二音速は第一音速に比べて十分大きいので、第一項は無視できる。したがって、次のような実験的に非常に重要な式を得ることができる。

(4)

すなわち、第四音波と第一音波の音速を求めることにより、超流動密度そのものを求めることができるのである。

実際の第四音速は図1に示したとおりである。超流動転移温度から有限の音速が生じ、絶対零度で第一音速と一致する。

なお、第三音波という名前の音波も存在するが、これは薄膜状超流動ヘリウムでのみ起こる現象であるので、ここでは述べない。

音波共鳴法

音波が存在する場合には、幾何学的な条件をかすことによって定常波を立てることができる。今、長さの円筒容器の片方に波を発生させる振動子を設置し、もう一方の端に振動を検知する素子を置くとしよう。

振動子の振動数が、音速が以下のような関係にあるとき、共鳴が起き、振動電圧変換素子に最大電圧が生ずる。

(5)

ただし、mは振動モード数と呼ばれる自然数であり、円筒容器の中に存在する「節(圧力振幅極小の位置)」の数であり、共鳴容器にはm/2周期分のCOS波が入ることになる。

実際には、振動子(入力信号)の周波数を変えながら、振動電圧変換素子の出力電圧をベクトル検波(Inphase(X):入力信号と同じ位相の振動強度、Out-of-phase(Y):入力信号に90度遅れた位相の振動強度)する。

上の図は、共鳴曲線の実際の測定例である。amplitude は inphase と out-of-phase の二乗和の平方根である(この共鳴モードは m = 1 であり、入力と出力は180度ずれているため、Inphase 信号は負として計測されている)。

この測定結果より、共鳴の中心周波数 f を知ることができ、あらかじめ解っている容器の長さから音速を知ることができるわけである。

以上の方法は、第一音波と第四音波に共通の測定技法である。第一音波と第四音波それぞれの音速を計ると式(4)から超流動密度を求めることができる。