市大授業 2005.11.5

非ユークリッド幾何

担当:橋本 義武

神秘から図形へ

天文学と幾何学とは世界最古の科学であり,古来他の諸学の模範となる永劫不変の真理とされてきた.(なぜか?)

近代に入ると未曾有の革命が天文学を襲う.地動説である. しかしその結果もたらされたのは混沌(カオス)ではなく,ニュートンの力学という,より強固な秩序(コスモス)であった. 彼およびその先駆者たちは,天文学という上からの光を失っても,内なる幾何学の精神をもって暗闇を一歩一歩手探りで進むことができたのだった.

ニュートンは,たとえば惑星の楕円軌道の法則が,微分方程式という,より高次の法則性にさらなる根拠をもつことを明らかにした.この高次の法則性のもとでは,天体もリンゴも対等な存在である.「あの月を取ってくれろと泣く子かな」(一茶). 天体は,手のとどかぬ神秘から,子どもが気ままに地面に絵を描くように(お絵描きの好きな子どもが好きなのは絵なのではない,描くときに彼または彼女が手にしている自由だ),その過去・現在・未来を手中におさめることのできる「図形」へと姿を変えた. こうして天文学と幾何学は統一されたのである.

図形から神秘へ

一方,幾何学はどうだったか.

ユークリッド「原論」(紀元前3世紀ころ)は,5つの公準から厳密な演繹により幾何のもろもろの定理を証明していく,というスタイルで書かれている.そこにおいて証明された命題は,世のいかなる真実よりも真実なものであった.

ところが,その完璧と考えられていたユークリッド幾何にも,古来より2つの問題点が指摘されていた.1つは「第5公準(平行線の公理)」,もう1つは「三大作図問題」である.

19世紀に入って,前者は「非ユークリッド幾何」,後者は「ガロワ理論」という,言わば予想外の結末をむかえる.このうち「非ユークリッド幾何」が今回の授業の主題である. その後両者は「群」の概念を通して複雑に絡みあい,問いが問いを生んで21世紀初頭の現在にいたるのであるが,それについては別の語り部にゆだねることとしよう.

今回の話について

非ユークリッド幾何とは,3角形の内角の和が180度ではない幾何,曲がった空間の幾何である.

今回はまず,球面上の図形の幾何を紹介する.その場合に,直線とは?3角形とは?長さ・角とは?合同とは?三平方の定理・余弦定理・正弦定理などはどう変わるか?などを見ていこうと思う.(なお,これは本来の非ユークリッド幾何ではない.平行線の公理以外にもユークリッド幾何と異なる点があるからだ.)

その後で,本来の非ユークリッド幾何である双曲幾何についても触れたい.


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