講義7: コンウェイ多項式とスケイン多項式

理学部:河内明夫教授



 絡み目 L のザイフェルト行列 V に対し, 絡み目 L のアレクサン ダー多項式 A(L;t)は行列式 det(tV’−V)で与えられることは前回 の講義で述べた. ただし V’ は V の転置行列を表す. 今回はまず 

C(L;t)=det(tV−t^{-1}V’)

とおいた多項式について考える. ザイフェルト行列 V のサイズを n とす るとき,

C(L;t)=(−t)^{-n}A(L;t^2)

と表せる. 従って, C(L;t)は −t の巾乗を無視すれば, アレクサン ダー多項式 A(L;t^2)と同じ絡み目不変量といえる. さらに, t^2 を tに書き換える変数変換を行えば, A(L;t^2)は A(L;t)と同じも のである. この多項式がアレクサンダー多項式と異なる重要な点は, C(L;t)は t の巾乗のあいまいさなしに絡み目 L の型により一意に 決定されるということである. 何故そうなるかといえば, 行および列の拡大・ 縮小でこの多項式が変わらないからである. さらに, 次の定理がなりたつ:

定理: 多項式 C(L;t)は次の式をみたす:

(CI) C(O;t)=1

(CII) C(L_+;煤j−C(L_-;t)=(t−t^{-1})C(L_0;t)

ただし, O は自明結び目を表し, また L_+, L_-, L_0 は図7−1に示さ れた部分以外は全く同じような絡み目図式を表すものとする.

この定理の重要な点は, これらの等式をみたすような絡み目多項式 C(L;t)はただ1通りに定まり, しかもこれらの等式を使えばどのような 絡み目 L に対しても計算がかならずできる(複雑になるが)という点であ る.

図7−1

この定理の証明は, L_+, L_-, L_0 に図7−1に示された部分以外は同じ であるようなザイフェルト曲面を張り(図7−2参照), それらのザイフェル ト行列を実際計算することによりなされる. C(L;t)をConway により正規化されたアレクサンダ−多項式と呼ぶ.

図7−2

さらに, z=t−t^{-1} とおけば, C(L;t)はzの負べきを持たないよ うな多項式となることがわかる. これをコンウェイ 多項式と呼び, ▽(L;z)と表す. (CI)と(CII)は次のように表される:

(▽I) ▽(O;z)=1

(▽II) ▽(L_+;z)−▽(L_-;z)=z▽(L_0;z)

例えば, 図7−3に(▽II)を適用すればわかるように, 2成分以上の自明絡 み目 L に対して

▽(L;z)=0

となることがわかる.

図7−3

ホップの絡み目 L とその鏡像 L^* に対しては, 図7−4に(▽II)を 適用することによって,

▽(L;z)=z, ▽(L^*;z)=−z

となることがわかる.

図7−4

三葉結び目 K とその鏡像 K^* に対しては 図7−5に(▽II)を適用する ことによって,

▽(K;z)=▽(K^*;z)=1+z^2

となることがわかる.

図7−5

: 図7−6 の 8の字結び目 K_8 のコンウェイ多項式は 

▽(K_8;z)=1−z^2

となることを示せ.

図7−6

さて講義4で議論したジョーンズ多項式 V(L;A)はつぎの等式

(JI)と(JII)で特徴づけられることを思い起こそう:

(JI) V(O;A)=1

(JII) A^4V(L_+;A)−A^{-4}V(L_-;A)

=(A^{-2}−A^2)V(L_0;A)

注意深い人達は(▽I)(▽II)と (JI)(JII)の類似点に着目すること で,これらを統一的に記述するような多項式不変量が存在するに違いないと考 えた.(実際には, 当時多くの結び目研究者がそのように考えたと思われる.)

P.Freyd, D.Yetter, J.Hoste, W.B.R.Lickorish, K.Millett, A.Ocneanu とい う米英の数学者6名がその多項式の存在を論文として最初に出版したので,

その多項式は彼らのイニシャルを取り, HOMFLY(ホンフリー)多項式 と呼ばれている. しかしながら, ポーランドの数学者 J. Przytycki と P. Traczyk も同じ頃同様な論文を書いていたので フリプモス(FLYPMOTH) 多項式と呼ぶ人たちもいる.  他にも, ねじれアレクサンダー(twisted Alexander)多項式, 2 変数ジョーンズ多項式, リンプトーフ(LYMPHTOFU)多項式とも呼ば れている. (特にこの最後の多項式の命名は数学者兼詩人である L. ルドルフ によるものであり, 発音的には一級品と思われている. ここに現れる U は誰 かのイニシャルではなく発見したが名乗りでなかった unknown persons をさ すとのことである.)我々は絡み目の組(L_+, L_-, L_0)が スケイン 関係を満たすと呼ばれていることを考慮して, スケイン多項式と 呼ぶことにしている. いま議論している多項式とは, 次に述べられる多項式の ことである:



定理: 次の二つの式(PI),(PII)をみたすaとzの(一般に負 巾も許すような)絡み目の多項式不変量P(L;a, z)が一意的に存在する:

(PI) P(O)=1

(PII) a^{-1}P(L_+)−aP(L_-)=zP(L_0)

この多項式不変量 P(L;a, z)の存在の証明は, 絡み目図式からの直接 証明, ヘッケ環の表現論を使う証明, ジョーンズ多項式のようにステート(し かし異なるステート)を使う証明(つまり統計力学的な証明), ヤン・バクス ター方程式の可解モデルを利用する証明などたくさん知られている.

(1)L が n 成分自明絡み目のとき,  

P(L;a, z)=[(a^{-1}−a)z^{-1}]^{n-1}

を示せ.

(2)これを利用して, 上で述べた三葉結び目 K(とその鏡像 K^*)およ び8の字結び目 K_8 のスケイン多項式を求めよ.

ジョーンズ多項式やコンウェイ多項式がスケイン多項式の特別なものであるこ とは定義式から明らかだろう. さらに, スケイン多項式は, スケイン関係を等 式で結ぶような絡み目の多項式不変量のうちで最も一般的なものである(言い 換えるとこれ以上一般化はできない)こともわかる.

 当然, スケイン多項式はすべての結び目を分類するかという疑問が生じるが, これは否定される. 次の同じスケイン多項式をもつような無限に多くの結び目 族は私の同僚である金信泰造氏(大阪市立大学理学部助教授)によって最初に 与えられた.

T. Kanenobu, Infinitely many knots with the same polynomial invariant, Proceedings of American Mathematical Society 97(1986),158-162.

この例の特別な場合をここで議論してみよう.

:p を任意の整数として, 図7−7の結び目 k(p) を考える.

図7−7

まず, k(p) と k(-p) は同型な結び目で, もろて型結び目であることに 注意しよう.

演習:これを示せ.

p を 0, 1, 2, 3, ・・・ とおくとき, k(p)は互いに同型でないような結び 目の族となる(この証明はかなり数学的な基礎がないと難しいだろう).

P(k(p);a, z)は p の如何にかかわらず

P(k(p);a, z)=[(a^{-2}−1+a^2)−z^2]^2

となる.

演習:これを示せ. (ヒント:k(0) は8の字結び目2個の連結和で 従って, 上のようになる. というのは 

P(K_1#K_2)=P(K_1)・P(K_2)

となるからである. このとき, p個連続して交叉点が連なっている二つの場所 で順にスケイン関係式を使っていけば, 最後に

P(k(p))=P(k(0))

となることがわかる. )

秋の海犬と私語して僧の行く 静魚

インターネット講座'97のページ

広報ホームページ