
第2回目の講義です.今回は座標系について簡単に説明します.また,GRASSの説明をはじめます.
実習ではGRASSの基本操作を説明します.また,チュートリアルを利用してGRASSを動作させ,立ち上げから,基本的操作,終了までを行います.
我々が取り扱おうとしている各種の情報は地球に3次元的に位置するものです.地球表面は実際には曲面(回転楕円体で近似される)ですが,このままでは地図に代表される2次元の平面には表現できません.そのために実際の3次元空間情報を2次元に投影するという作業が必要となります.この作業はGISでも同じです.もっとも,自分で座標変換を手作業でするのではなくGISで行ないますが,基本的な知識は必要です.GISを利用して何か作業を行おうとすると,自分で基本的な地図等の情報を入手し,レイヤーを構成しなければなりません.そのためには,もとの地図情報等がどのような投影法で描かれているかなどを常に意識しておく必要があります.
地球の形をより正確に表現するために回転楕円体(地球楕円体:earth ellipsoid)が定義されています.これまでに,地球を測量する膨大な研究結果から多くの回転楕円体が定義されています.例えば,Clarke・Bessel・Everest・国際などがあり,それぞれで地球の長半径と短半径が定義されています.回転楕円体は地域に合うものがそれぞれ選択されているために,国によって異なります.日本では一般にBessel(Bessel ellipsoid;1841年にベッセルが定めた.長半径 6377397.155m(赤道半径),短半径 6356078.96284m(極半径),扁平率 1/299.1528)が使われています.

図9.回転楕円体の概略図(a:長半径,b:短半径).
投影法には多くの種類があります.それぞれ長所・欠点があります.例えば,角度は実際と等しいが長さや面積が異なるなどです.これは回転楕円体面(あるいは球面)は決して平面にはならないためです.そのため,角度・距離・面積などをそれぞれ正しく投影する種々の方法が開発されています.投影法はその投影結果の平面図において現実の3次元空間と等しいものを表しているもので区別して,
等角投影法(正角図法ともいう:角度が等しい)
等距離投影法(正距図法ともいう:長さが等しい)
等積投影法(正積図法ともいう:面積が等しい)
の3つに大きく分けられます.ただし,これらにも限界があります.例えば,等距離といっても地図上の全てのものが,正しい距離で表されるものではありません.したがって,地図の縮尺やそれぞれ目的に応じて使い分けなければなりませんし,また,使用する際にはそれらを(ある程度は)理解している必要があります.例として,それぞれの投影法の代表的なものをあげておきます.
等角投影法:メルカトル図法,ユニバーサル横メルカトル図法(UTM),ランベルト正角円錐図法,平射(ステレオ)図法
等距離投影法:トレミー図法,正距方位図法
等積投影法:ランベルト等積円筒図法,サンソン図法,モルワイデ図法,ボンヌ図法
ほとんどの場合,我々が新しく基本地図を作成することはあまりありません.したがって,既存の地図情報にかなり制約されます.ここでは,GISでよく使われているUTMについてのみ説明します.それ以外は,各自で必要に応じて調べてください.下に地図に関する情報をたくさん掲載したホームページを紹介します.
参考1)
.建設省国土地理院の中の「日本の測地座標系」のページ.参考2)
.国土地理院近畿地方測量部の地図と測量に関する色々な話を載せた非常に優秀なホームページ「関西測量と地図のひろば」があります.とくに,この中の「地図と測量に関するQ and A」のコーナーは,色々な観点から地図およびそれらに関連することを解説しています.おもしろいので是非,読んでみてください.
UTM図法(Universal Transverse Mercator's projection;ユニバーサル横メルカトル図法)は,国土地理院の1/25000や1/50000など中縮尺の地形図や人工衛星画像の投影などに使われている代表的な図法です.基本的にガウス−クリューゲル図法(等角横軸円筒図法)を用い,地球を図10のように経度6°ごとに60等分したゾーンに分けて投影しています(緯度は北緯80°〜南緯80°まで利用できます).

図10.UTM図法の概略図.
ゾーンは西経180°から174°をNo.1とし,東まわりに順に番号が付けられています.日本の例を示すと,126°≦東経<132°はゾーンNo.52,132°≦東経<138°はゾーンNo.53,138°≦東経<144°はゾーンNo.54で,福岡はNo.52,大阪はNo.53,東京・札幌はNo.54となります.各ゾーンの中央の経線を中央子午線(ゾーンNo.53では,132°+3°=135°)とし,これと赤道との交点をゾーンの原点とします.座標値は緯線方向(東西方向)の座標値(E,東へ行くほど大きくなる),経線方向(南北方向)の座標値(N,北へ行くほど大きくなる)で(x,y)と表し,単位はmを用います.ただし,負の値がないように,原点の座標値を次のようにシフトしています.
北半球:原点の座標値は(500,000m,0m)
南半球:原点の座標値は(500,000m,10,000,000m)
なお,各ゾーン内での縮尺の誤差は4/10,000以内です.
例えば,東経135°00′00″北緯34°40′00″(明石)は,ゾーンNo.53の中央子午線が通るため
(500000.00000000,3835697.88467374)
東経135°30′00″北緯34°40′00″(大阪市)は,同じくゾーンNo.53で
(545804.82355504,3835811.56768808)
となります.ゾーンを2つにまたがって作業をする必要がある場合は,面積の大きい方のゾーンを基本として考えるのが一般的です.
座標系の選定は,GISを利用する場合の最も重要な作業の1つです.目的に応じた種々の座標系がありますが,設定した座標系はGIS環境を左右し,それに基づいて入出力のパラメータ等が変化するため,充分検討しておく必要があります.ここで例として示したUTM座標系は正角でひずみも小さく,座標の単位がm(メートル)であり,解析時等においても理解しやすいパラメータを利用できるという利点を持ちます.また,リモートセンシングデータ等はUTM座標系での利用を前提に提供されている場合が多いなどの理由から,5万分の1程度の中縮尺の場合は一般的にUTM座標系を用いるのが望ましいと思います.

図11.UTM座標系での国土地理院の地形図(誇張して示した).
なお,国土地理院発行の地形図等はUTM投影されているものが多いのですが,地形図面の境界はUTMの値ではなく,緯度経度で区切られています.このためにUTM座標系を用いた場合は,これらの地形図の境界とGISでの領域境界とが一致しません(図11).また,国土地理院の50mメッシュなどのDEMも等距離間隔ではなく等緯度経度による分割であるために,UTM座標上で利用する場合は後述する変換作業が必要です.
地理情報システムGRASSについて説明します.GRASSは
Geographic Resources Analysis Support Systemの略で直訳すると「地理的資源解析サポートシステム」になります.GRASSはもともと U.S. Army Construction Engineering Research Laboratories (USA-CERL;米国陸軍技術部隊の建築工学研究所)で開発されたもので,NASA, NOAAなどをはじめとする米国のみならず,世界的に利用されています.現在,GRASSのサポート・開発などの本拠地は2つあり,米国のBaylor UniversityとドイツのUniversity of Hannoverです.残念ながら,最新の情報ではありませんが,Linux JF (Japanese FAQ) Projectの1つとして少し前の
GRASSのMINI-HOWTOを高橋 聡が全訳された貴重なホームページがあります.ここには,GRASSの歴史や色々なことが日本語に訳されていますので,参照して下さい.
GRASSは色々なタイプの利用が可能なように様々な階層的なレベルを持っています.また,それぞれのレベルでは異なったタイプのユーザーインタフェースがサポートされています(図12).
最も利用者に便利になっているのはTcl/tkを用いたtcltkgrassやOSF/Motif(fvwm等でも可)で稼動するXGRASSなどのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を用いたレベルです.しかし,GRASSの一般的な利用者のほとんどはインターフェースとしてコマンドレベルを通してシステムを利用しています.
コマンドレベルでは,利用者はUNIXシェルを通してGRASSツールを利用します.GRASSを起動すると,利用者はキーボードを通して対話型で情報を入れながら操作するか,あるいはコマンドラインから一度に情報を入れて動作させます.
プログラマーレベルにおいては,利用者がC言語でプログラムすれば,GRASSにあるライブラリーを直接呼び出して,GRASSとは異なる独自のプログラムを作成し,利用することができます.
グラフィカルユーザーインターフェースレベルはTcl/tkやOSF/Motifなどの標準ではない限定されたインターフェースを利用するレベルです.このレベルの利用は必要に応じて,様々なコマンドやそれらの値をマウスから操作できます.これはWindowsなどの優れたグラフィカルユーザーインターフェースに慣れた我々にとって非常に便利なものです.現在はTcl/tkが主流のようです.Tcl/tkGRASS(図13)に関しては,後日説明する予定です.
利用者や開発者の努力によって生み出されるGRASSのソフトウェアは常に規格化され,そして常に最新のものに更新されています.また,GRASSは変数の記述,アルゴリズムの説明を付けたプログラムのソースコード(C言語で基本的に作成)を全て公表しています.
このように,他の商用の市販されているGISに比べて,GRASSは低いコスト(基本的に無料)という利点だけではなく,オープンアーキテクチャであるという利点もあります.これにより利用者は必要性にあわせてカスタム化したり,改良したりすることが可能になっています.

図12.GRASSの階層的な利用レベル.

図13.Tcl/tkGRASSの表示例.
座標系
回転楕円体 日本ではBessel
投影法 長所・短所がそれぞれにある
等角投影法
(正角図法ともいう:角度が等しい)等距離投影法
(正距図法ともいう:長さが等しい)等積投影法
(正積図法ともいう:面積が等しい)UTM図法 ユニバーサル横メルカトール図法
経度6°ごとに分割.60のゾーン.単位はm.
北半球:原点の座標値は(500000m,0m)
GRASS
GRASSの利用者レベル
コマンドレベル・プログラミングレベル・Tcl/tkやXGRASSなどのGUIレベルなど
(以上,第2回講義)
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