
4-2.リモートセンシング
第8回目の講義です.今回と次回に分けて,リモートセンシングについて述べる予定です.今回は,その1ということで,リモートセンシングの基礎を説明します.
実習では,人工衛星画像を実際に処理し,リモートセンシングを行なってみます.
ここではリモートセンシングの概略を解説します.また,GRASSではどのように処理を実現するかについて述べます.
リモートセンシングとは,一般に非接触で対象物に関する情報を収集することです.一般に使われるのは,人工衛星や飛行機などのプラットホーム(センサーを搭載する場の総称)から種々のセンサーを使って情報収集し,地球の観測を行なうものを意味することが多い.また,これに対応して,現地調査することをグランドトルースと言います(実際には,これも非常に重要です).
地球観測には主にセンサーと対象物間の情報伝達媒体として電磁波が用いられ,地表(一部地下を含む)からのそれらの反射・放射を測定します.センサーは大きく2つに分けられます.
★可視光域から熱赤外域までの光学センサー(受動方式)
★マイクロ波領域におけるレーダセンサー(能動方式)
受動方式とは電磁波をセンサーで受けるのみ,能動方式は自らマイクロ波等を発信し,それをセンサーで受けます.利用する目的により,電磁波の特性とセンサーの特性(エネルギー分解能・空間分解能)は使い分けられています.代表的なプラットホームのセンサーと分解能を以下に示します.
|
衛星名 |
回帰日数(日) |
主なセンサ |
地上分解能(約m) |
|
NOAA |
1 |
AVHRR |
1100 |
|
LANDSAT4-5 |
16 |
MSS TM |
83 30 |
|
MOS−1 |
17 |
MESSR VTIR |
50 900,2700 |
|
SPOT |
26 |
HRV/XS HRV/P |
20 10 |
|
JERS−1 |
44 |
OPS SAR |
18×24 18×24 |
なお,センサーと電磁波特性などの詳細に関しては,
☆各センサーによる違い(EOC)
☆解像度による違い(EOC)
☆反射・放射特性の例(EOC)
を参照して下さい.ここでは,JERS-1から得られた画像を合成したものを例として示します.
ADEOSから得られた画像の合成例(クリックすると拡大します;152KB)
リモートセンシングに関しては,
宇宙開発事業団(NASDA;National Space Development Agency of Japan)の
地球観測センター(EOC;Earth Observation Center)や (財)リモート・センシング技術センター(RESTEC)のホームページなどを参照して下さい.とくに
宇宙開発事業団地球観測センターの
リモートセンシング基礎講座リモートセンシング技術センターの
地球まるごとセンシングなどには,リモートセンシングのあれこれが,わかりやすく説明されています.
リモートセンシングの解析は,通常の画像処理で行なわれている解析と基本的には同じです.一般的な解析の手順の例を以下に示します.

リモートセンシングの特徴としては,地理的位置の情報が重要な要素であるということがあげられます.このため,ジオコーディング(Geocoding)という人工衛星から得られる画像と地図座標系を対応付ける技術をもちいた処理を行ないます.ジオコーディング技術により,GIS上で他の情報と合わせて解析を行うことが可能となります.また,放射量補正や多バンド情報によるスペクトル解析などの処理も特徴的です.なお,ここでは,GRASSで処理したLANDSATのTM画像データ(The US government retains ownership of the data. Space Imaging
® and NASDA supported V. Raghavan in acquiring the satellite data at marginal cost.)を用いて例を示します.補正処理
リモートセンシング画像の補正は,放射量補正と幾何学補正に大きく分けられます.放射量補正は画像のもつ値に関する補正で,対象からセンサーまでの間の大気からの放射・散乱やセンサーの特性に起因する歪などを補正します.大気の散乱による歪の補正を大気補正といいます.幾何学補正は,人工衛星の姿勢や対象物およびセンサー内部に起因する歪を補正します.
人工衛星画像には正しい位置情報がありません.このため,GISの中に取り込むためには位置合わせの作業が必要です.例えば,GRASSではi.pointsというコマンドで,地図と衛星画像の同一地点を目で見ながら(あるいはズームしながら)マウスで指定することにより,位置合わせを行うことが出来ます.i.pointsコマンドでの作業画面の例を下に示します.
i.pointsコマンドによる国土地理院の地図画像とLANDSAT TM画像の位置あわせの例(クリックすると拡大します;95KB)
基本演算
(1)基本統計
データの特性を見るために基本的な統計量を求めることはリモートセンシングの情報に限らず,データの処理では通常行なうべきことです.しかし,標高データなどではそれらが感覚的にわかるのであまり議論しませんでした.しかし,画像情報では直感的にどのようなものか把握しにくいため,データを処理する前に,必ずヒストグラムを作成するとともに,範囲や平均・分散を求めデータの特徴を把握しておくことが必要です.
GRASSで画像のヒストグラムを作成するには,d.histogramコマンドを用います.例えば,下に示した人工衛星画像(左:TMのバンド1)のヒストグラムは次のようになります.
衛星画像とヒストグラム(クリックすると拡大します;25KB)
(2)濃度変換
リモートセンシングで得られた画像を見やすくしたり,物理的な量に変えるために濃度変換という処理がよく行なわれます.例えば,見やすくする処理にはコントラストを強調したり,明るさの分布を全体的に同じにする(例えば,ヒストグラム平滑化)などの処理があります.また,物理量としては,TMのバンド6(熱赤外)を用いた温度への変換などがあります.
[ヒストグラム平滑化]
ヒストグラム平滑化とは,画像の頻度分布(ヒストグラム)が一様になるように,明るさを適当に変換する方法です.この結果,明るいところから暗いところまでほぼ一様に分布する画像に変わります.GRASSではi.grey.scaleコマンドを用います.例として,上の画像をヒストグラム平滑化した結果を示します.先ほどよりかなり見やすくなっています.
バンド1画像のヒストグラム平滑化の例(クリックすると拡大します;44KB)
(3)空間演算
画像処理では,1点(画素,ピクセル)ごとの情報ではなく,そのまわり(近傍)との関係から色々な情報を読み出す処理を多く用います.例えば,となりとの明るさが急に変わるのは,なにかの不連続があり,それが,連続すればなにかの境界であるというように空間的に変化をとらえます.これを数値的に,定量的に行なうのが空間演算処理です.中でもエッジや線の抽出や画像の鮮鋭化などの処理はリニアメント(線状のもの;地球科学的には,活断層などの地表面上の線)の抽出などの際に有効です.また,雑音や目的よりも小さな変化を取り除来たい場合は平滑化などの処理も行ないます.GRASSでこれらの処理を実現するには,r.mapcalcコマンドやr.mfilterコマンドを用います.
[エッジの検出]
空間1次微分:明るさの急な変化をとらえるために画像を差分します.簡単な方法として,画像をf(i,j)とすると,x方向(i方向),y方向(j方向)のとなりとの差を求めます.例えば,x方向の差分fx(i,j)は,
fx(i,j)= f(i+1,j)-f(i,j)
です.また,y方向の差分fy(i,j)は,
fy(i,j)= f(i,j+1)-f(i,j)
です.ただし,このままでは,差分結果がとなりとの中間の位置の値となり,位置がずれてしまうので,それを避けるために,目的の点f(i,j)の両隣の差を用いて,点f(i,j)とすることが一般的です.さらに,それを3×3の8近傍で考えると,x方向の差分fx(i,j)は,
fx(i,j)= {f(i+1,j+1)+f(i+1,j)+f(i+1,j-1)}-{f(i-1,j+1)+f(i-1,j)+f(i-1,j-1)}
で,また,y方向の差分fy(i,j)は,
fy(i,j)= {f(i-1,j-1)+f(i,j-1)+f(i+1,j-1)}-{f(i-1,j+1)+f(i,j+1)+f(i+1,j+1)}
で表すことが出来ます.これに従って,上記のTM画像のバンド1のx方向,y方向の差分を求めた画像を以下に示します. それぞれの方向のエッジが抽出されていることがわかります.
x方向の1次差分(クリックすると拡大します;48KB)
y方向の1次差分(クリックすると拡大します;41KB)
空間2次微分:
第7回講義で示した「エッジの検出」と同じです.2次の偏微分であるラプラシアン(Laplacian)を用います.最初に示した原画像からエッジの検出を行なった例を示します.
ラプラシアンによるエッジの検出例(クリックすると拡大します;56KB)
[鮮鋭化]
鮮鋭化にも色々あるのですが,ここでは原画像からラプラシアン画像を引く方法(アンシャープマスキング)の例を示します
(詳細は第7回講義を参照して下さい).
原画からラプラシアン引いた鮮鋭化の例(クリックすると拡大します;56KB)
[テンプレートマッチング]
抽出したい形(実際は明るさの分布)と同じ形のテンプレート(例えば,3×3のマトリックス)を用いて,その形と実際の画像との相関を求めて,目的の場所を抽出します.下に横線と縦線の抽出のためのテンプレートの例とそれを用いた結果の画像を示します.

横線のテンプレートの例

縦線のテンプレートの例
横線の抽出結果の例(クリックすると拡大します;33KB)
縦線の抽出結果の例(クリックすると拡大します;34KB)
[平滑化]
これも第7回講義で示した平滑化と同じです.平均・加重平均として示してある方法です.局所平均を用いて平滑化した例を示します.
平滑化の例(クリックすると拡大します;31KB)
画像の表現
原画像や解析結果の画像の表現方法は,1つの画像を表現する方法と複数の画像を合成して表現する方法とにわけられます.1つの画像の表現方法には,画像の値を明るさのみに対応させたグレースケール表示や画像の値を適当に区分して段階的に色分けした擬似カラー表示などがあります.また,複数の画像を合成して表示する方法には,それぞれの画像を光の3原色である赤(Red)・緑(Green)・青(Blue)(RGB)や色相(Hue)・彩度(Saturation)・明度(Intensity)(HIS)に対応させる方法などがあります.
[グレースケール]
今まで示してきた黒〜灰色〜白に変化する画像です.GRASSでは,r.colorsコマンドを用いてgreyを指定します.
[擬似カラー]
画像の値に応じて,色を擬似的に対応させて表現します.GRASSでは,グレイスケールと同様にr.colorsコマンドを用いて色々な組合せから選択します.また,ruleを用いた独自の設定も可能です.例を下に示します.
擬似カラーの例(クリックすると拡大します;58KB)
[カラー合成画像]
多バンドの画像を適当な色に割り当て,合成し表示します.LANDSATのTM画像では,おもに次の3つが良く利用されています.GRASSでは,d.rgbコマンド等を用いて表示します.
・トゥルーカラーは,赤色にバンド3,緑色にバンド2,青色にバンド1を対応させます.これは海の様子や道路・市街地などの人口構造物の識別に利用されます.
トゥルーカラーの例(RGB:321)(クリックすると拡大します;41KB)
・フォールスカラーは,赤色にバンド4,緑色にバンド3,青色にバンド2を対応させます.これは住宅地が青く見え,活性の高い植物がより赤く見えます.
フォールスカラーの例(RGB:432)(クリックすると拡大します;47KB)
・ナチュラルカラーは,赤色にバンド3,緑色にバンド4,青色にバンド2を対応させます.これは山などがより自然の色に近くなります.
ナチュラルカラーの例(RGB:342)(クリックすると拡大します;50KB)
GISによるリモートセンシング
地理的位置の情報が重要な要素 →
ジオコーディング補正処理 ・放射量補正 ・幾何学補正
基本演算
・基本統計(ヒストグラム)・濃度変換(ヒストグラム平滑化)
・空間演算(エッジ抽出,鮮鋭化,テンプレートマッチング,平滑化)
画像の表現
グレースケール,擬似カラー,カラー合成(トゥルーカラー,ナチュラルカラー)
(以上,第8回講義)
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