
4-2-3.マルチスペクトルデータと比演算
第9回目の講義です.前回に引き続いて,リモートセンシングについて述べます.今回は,その2ということで,リモートセンシングのおけるマルチスペクトルデータとその簡単な応用例として植生指標について説明します.
実習では,前回と同様に人工衛星画像を実際に処理し,講義で説明した図を作成してみます.
前回の講義では,個々の人工衛星画像の1枚ごとに処理を行なう空間フィルターや複数を光の三原色に割り当ててカラー合成する方法などを説明しました.今回はスペクトル情報を利用した解析方法についてランドサットのTM画像を中心に簡単に説明します.
太陽光などは様々な波長の光(電磁波)に分解できます.例えば,プリズムや分光器による分解や虹などがその例です.ここでいうスペクトルとはこれらの波長ごとに分解された成分のことです.一方,地表の物体は,それぞれの波長を持つ光(電磁波)に対して固有で多様なふるまいをします.このことを利用して,複数の波長で観測した成分を記録した画像(マルチスペクトルデータ)から対象物を認識することが出来ます.我々の目で赤色や青色などのガラスやフィルムを通して同じ物体を見たとしましょう.それぞれの色で見た明るさはそれぞれのスペクトルの記録であり,色々な色で見ることによりマルチスペクトルの情報が得られます.なお,色に関する簡単な説明として,
・光と色の不思議(日本物理学会東北支部)
http://www.laser.phys.tohoku.ac.jp/~yoshi/hikari1.htmlなどがあります.
マルチスペクトルデータを得るセンサーは,例えば,土地の被覆情報や鉱物資源情報などの地球の状態を定量的に把握するための目的とする各主題(テーマ)を持って設計されています.本講座の例で利用しているランドサット(LANDSAT)のTM(Thematic Mapper)は主題地図の作成という意味を持っています.
太陽の放射は,地表の物体で反射,透過および吸収されます.リモートセンシングの光学センサーは基本的に,太陽の光を当てた物体の反射された情報を収集します.マルチスペクトルでは,可視光から赤外線まで,ある一定の波長の幅をもった波長帯(バンド)ごとに地表からの反射を離散化してデジタル情報化しています.
各波長帯は目的とする地表の対象物固有の特徴をうまく捉えられるものを選んでいます.対象物としては,土地や植生,水,岩石資源および温度などがあります.物質によって,どのように反射率が変化するかを示すスペクトルを下図(http://rst.gsfc.nasa.gov/Intro/より引用・加筆)に示します.

物質によりスペクトルが多様であることがわかります.また,目に見える0.38から0.78μm以外の領域(ここでは近赤外の領域)でも,反射率が変化していることがわかります.さらに,植物でも種類が異なるとパターンが似ていますが,反射の割合が異なることがわかります.
TMは米国のLandsat4号(1982),5号(1984),6号(失敗)および7号(1999;ETM+;Enhanced Thematic Mapper, Plus)に搭載されているセンサーです.良く利用されている4号・5号のTMは次ぎの7つのバンドから構成されています.
|
バンド |
波長(μm) |
波長帯域 |
分解能(m) |
|
1 |
0.45 - 0.52 |
青〜緑(可視光) |
30 |
|
2 |
0.52 - 0.60 |
緑(可視光) |
30 |
|
3 |
0.63 - 0.69 |
赤(可視光) |
30 |
|
4 |
0.76 - 0.90 |
近赤外 |
30 |
|
5 |
1.55 - 1.75 |
短波長赤外 |
30 |
|
6 |
10.40 - 12.50 |
熱赤外 |
120 |
|
7 |
2.08 - 2.35 |
短波長赤外 |
30 |
@バンド1;0.45-0.52μm(青〜緑色;可視):水,土地利用,土壌や植物の特徴の分析をサポートする.大気の散乱の影響を受けやすい.
Aバンド2;0.52-0.60μm(緑色;可視):青色と赤色の間の植物の葉のクロロフィル(葉緑素;植物の光合成に必要な緑色の色素)の反射に対応し,植物の活性を分析する.
Bバンド3;0.63-0.69μm(赤色;可視):活性の高い緑色植物のクロロフィルが吸収する(低反射)の波長帯.植生分析の最も重要なバンドの1つである.水域の区別がしやすい.土壌や地質の境界の図化に役立つ.大気の効果がバンド1,2に比べて少なく,コントラストが高い.
Cバンド4;0.76-0.90μm(近赤外):目では見えない.とくに,植物量(バイオマス)に対応する.また,陸と水域の識別に役立つ.
Dバンド5;1.55-1.75μm(短波長赤外):土壌や植物中の水分量に敏感に対応する.雲・雪および氷を区別できるなど,水文学的な研究で重要である.
Eバンド6;10.40-12.5μm(熱赤外):このバンドは他のバンドが太陽光の地表での反射を受けているのに対して,地表からの放射量を測定している.このため,太陽と関係なく夜間でも撮影できる.地表の温度分布を分析できる.これを用いて地熱の活動調査,熱慣性(暖まりやすさ,冷めやすさのようなもの)による岩石分布図の作成や植物のストレス解析などに利用されている.
Fバンド7;2.08-2.35μm(短波長赤外):岩石や粘土鉱物などの分類に役立つ.熱水変質帯の調査などで利用される.植生や水域は暗く見える.
前回の講義および実習でLandsatのTMの各バンドの画像を表示したと思いますが,各バンドには上述したような意味があります.また,カラー合成では,簡単なバンド間の違いを情報化し,可視化しました.これもスペクトルの応用の1つです.
バンド間演算
これらの複数の波長帯(バンド)の画像を用いて演算し,スペクトル解析に近い処理を行なうことができます.ここでは,その中で最も簡単な比演算(ratioing)を説明します.比演算はバンド間の明るさ(値)の比を計算することです.これにより目的の対象物のスペクトルの特徴に合わせたバンドを選び,その2つの比を計算することにより対象物を抽出します.
前回の実習で行なったように,各TMのバンドを単色で表示した場合でも,山・谷や平野などの形が大まかに理解できたと思います.これは,山や谷などの地形が,太陽の方向に向く斜面どうかにより,光の当たり方が異なり,同じバンドでも明るさが異なるからです.対象物抽出の際に,バンド間の差ではなく,比を用いることにより,この太陽光と地形との効果を取り除くことが出来ます.また,逆に,地形の効果を取り除いた画像に戻すことも出来ます.
まず,下図(Lillesand and Kiefer, 1994より引用・加筆)に示す透明な水,乾燥した裸地(土壌),植物(緑色の葉)の3種類の反射スペクトルの特徴を見てみましょう.

これらは,それぞれの異なる反射曲線を描いています.ここで,TMのバンド3(赤色)とバンド4(近赤外)の波長帯に注目してみましょう.植物では,バンド4はバンド3に比べて大幅に反射率が増加しています.土壌はやや増加する傾向にあり,水は減少しています.ここで,バンド4/バンド3の計算を考えてみると,植物ではその比は1を大きく超える数になり,土壌は1を少し超える値,水は1より小さい値になることがわかります.したがって,バンド4/バンド3の演算を行なうことにより,これらの違いを抽出することが可能となります.
GRASSで処理したLANDSATのTM画像データ(The US government retains ownership of the data. Space Imaging
® and NASDA supported V. Raghavan in acquiring the satellite data at marginal cost.)を用いて例を示します.下図は,バンド3とバンド4の画像です.それぞれ見やすいようにヒストグラム平滑化処理がされています.
TMのバンド3とバンド4の画像(クリックすると拡大します;160KB)
この2つを用いてバンド4/バンド3を計算した結果(以下バンド4/3比画像)を下に示します.
バンド4/3比画像(クリックすると拡大します;57KB)
このバンド4/3比画像から,水の分布する地域を抽出した画像を下に示します.
バンド4/3比画像から水域の抽出例(クリックすると拡大します;15KB)
この画像で濃い青色の部分は基本的に河川や池など水のある領域に相当します.また,バンド4/3比画像から土壌が覆う部分が多い地域を抽出した画像を下に示します(下左図).また,どのような地域かを確認するために,その中央部を拡大し,地形の傾斜方位図(aspect)を用いて合成した画像を示します(下右図:d.hisを用いた;実習参照).
バンド4/3比画像から土壌の抽出例(クリックすると拡大します;175KB)
最後に,バンド4/3比画像から植生分布の多い地域を抽出した画像を示します.
バンド4/3比画像から植生の抽出例(クリックすると拡大します;84KB)
また,土壌と同様に,中央部で傾斜方位と重ねた画像を示します(下左図:d.hisを用いた;実習参照).さらに,dem(標高データ)を用いて3次元的に表現したものも示します(下右図:d.3dを用いた;実習参照).
植生抽出例と地形との対応(クリックすると拡大します;113KB)
対象物についてそれぞれ固有の反射特性があることがわかりました.ここでは,植物についてさらに深く考えてみよう.下に緑色の葉の可視から短波長赤外域での分光反射スペクトルの例を示します((財)資源観測解析センター,宇宙からの地球観測システムより引用・加筆).

植物は光合成を行なっています.この際,緑色の葉の細胞中のクロロフィル(葉緑素)が重要な役割を果たしています.このクロロフィルは波長0.45μmと0.68μmの可視光線を吸収します.このため,逆にこれらの波長では,反射率が低下します.この2つの波長の中間に少しだけ反射率が高い部分があります.この波長が緑色のため,葉は緑色に見えることになります(下図).また,熱に弱いクロロフィルを守るために,植物の葉は赤外の領域を大きく反射します.とくに近赤外の0.75μmから1.3μmまでは非常に反射率が高く,入射量の約半分を反射します(残りは葉を透過してしまう).したがって,波長0.68μmの吸収から0.75μmの反射部分は反射率が急に変化します.この部分は植物に関する解析に非常に重要でレッドエッジと呼ばれています.なお,水分の不足等で植物がストレスを受けると,レッドエッジが短波長側(図中では左側)へ少しずれることがあり,ブルーシフトと呼ばれています.

このような情報を得るために多くの人工衛星のセンサーでは,緑色と赤と近赤外の波長を区別して捉える様に設計されています.
植物の中でも種類により反射特性が異なります.例えば,一般に常緑の針葉樹よりも落葉樹の葉のほうがより反射率が高い傾向があることがわかっています.
植生指標[Vegetation Index]
これらの植物の葉の特性を利用して植物の有無や量および活性度を示す指標である植生指標が求められます.代表的なものとして正規化植生指標(NDVI;Normalized Difference Vegetation Index)と呼ばれるものがあります.これは,
NDVI=(IR−R)/(IR+R)
のようにバンド間の比(ここでは差)で求められます.ここで,IR は近赤外,R は赤外のバンドの反射率です.これは上述したレッドエッジを挟んだ2つのバンドです.LANDSATのTMデータの場合では,IRがバンド4,Rがバンド3に相当します.つまり,
NDVI(TM)=(BAND4−BAND3)/(BAND4+BAND3)
となります.また,NDVIの値は植物の葉が多いほど高くなります(実際には,土壌の反射やその他の影響を考慮する必要があります).NDVIの例を下に示します.
TMのバンド4と3を用いたNDVI画像(クリックすると拡大します;42KB)
GISによるリモートセンシング(2)
マルチスペクトル ・複数の波長帯による表現
(以上,第9回講義)
第9回 実習のページへ 大阪市立大学広報ホームページ