地球科学におけるGRASS GIS入門(第1回)

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開講にあたって

 GIS(Geographical Information System; 地理情報システム)は空間(地域,地理)情報をともなう地球科学の分野において非常に有効なシステムであり,情報の整理・解析において必要不可欠な手法となりつつあります(例えば,Bonham-Carter,1994).また,GISを使用する際に最も準備が大変であったベースマップの情報である地形図のDEM(Digital Elevation Model)やDM(Digital Map)が国土地理院により整備され,かつ非常に安価に入手できるようになったことにより,GISの導入がスムーズに行えるようになってきました.さらに,CPUの高速化やハードディスク,メモリなどの増大にともなうパソコン性能の向上によりGISのハードウェア環境の問題がなくなってきました.これに加えて,無償で入手可能なGISのソフトウェアの充実により,GISは専門家のための巨大で特殊なシステムではなく,机上の個人システムに変化しつつあります.

 本講座では,GISの利用法の基礎から簡単な応用までを解説し,平行して実習も行います.このため,講義の最後に実習のページがありますのでご注意ください.なお,GISには上記のような現状を踏まえて,パソコンでも動作可能であり,しかも無償で入手可能なUSACERL(U.S. Army Construction Engineering Research Laboratories)作成のGRASS(The Geographical Resource Analysis Support System;U.S. Army Corp. of Engineers, 1993)を用います.


1.地理情報システム(GIS:Geographical Information System)

 地理情報システム(地域情報システムと呼ぶこともある)は,資源管理・土地利用計画・ハザードマッピング・構造物建設計画・市場調査など地球科学に関連する多くの分野において非常に有効なものとなりつつあります.一般的にGISは,地理的な情報を管理し,分析・解析をサポートします.

1-1.GISの機能

 「Geographical(地理的)」は,空間上の位置を示し,緯度・経度・高度やxyz座標で指定できる場所を意味します.また,「Information(情報)」は,色塗りされた地図や画像イメージあるいは統計のグラフや表,およびいろいろな役に立つ知識をスクリーン上で対話的に管理・組織化することを意味します.さらに,「System(システム)」はソフトウェアとハードウェアの総合であり,GISの中に異なった機能を行ういくつかの(あるいはたくさんの)構成要素があることも意味します.

 GISの機能は主に次の3つにまとめられます.

1.入出力機能:地図情報を入力し,地図上の情報を面・線・点として数値化し,必要に応じて処理や変換を行なって出力する機能.

2.データベース機能:地図要素と非地図要素を一元管理し,地図要素からも非地図要素からも検索できる機能.

3.解析機能:異なる種類の複数の情報から新しい情報を生成する機能.空間的解析・統計処理・モデリング・シミュレーション機能・画像解析など.

 最近のGISでは図1に示したような,多様なシステムが一体となり,より高度なGISの機能を提供しています.

図1.GISの多様な機能.

 

1-2.GISの利点

 GISは主題地図作成のための分析テクニックや環境や社会問題を解く能力をサポートします.GISは多様な空間データを1つのデータベースとして取り扱えるようにするために,正確に位置合せし登録できるように設計されています.これにより,簡単に空間データを管理し,標準化することが可能です.また,重ねあわせなどの解析処理によって意思決定処理までをサポートすることができる新しい情報に変換することが可能です.さらに,3次元や動画など多様な可視化技術やインターネットなどによる利用が可能になるなど最新の情報化技術が導入されています.

 

1-3.GISのハードウェア

 GISに必要なハードウェアは基本的に普通のコンピュータシステムと同じです.図2に基本的なハードウェア構成を示します.我々が利用しているハードウェアシステムは,IntelのPentiumをCPUに用いたいわゆるパーソナルコンピュータです.この中でパソコンとして一般的でない装置としてデジタイザがあります.デジタイザは,点・線・面などの位置情報を地図から直接入力・編集する作業を容易にするための装置です(これらの操作はマウスでも可能です).また,近年ではGPS(Global Positioning System)などにより,野外で直接位置情報などを入力するための装置等も増えつつあります.

図2.GISのハードウェアシステムの例.

 

1-4.GISの基本的な処理

 GISでは実世界から収集された空間情報をそれぞれのレイヤー(layer;層)に分けてデータ化し,データベースを構築します.例えば図3のような実世界の情報は,多くのレイヤー(道路網,河川・宅地,植生分布,地形など)に分けて,それぞれのデータの特性に合った形式で保存します.

図3.GISでの色々な情報レイヤーの例.

 

 GISでの基本的な処理は,これらのレイヤーの重ね合わせにより目的の図を作成することです.例えば,図4に示したように,ある地域に何かを開発する地域を探すことを考えましょう.開発地域を求めるための条件として,ここでは1.主要道路から1km以内,2.起伏が少ない,3.自然林でない地域の3つを想定します.そのためには,まずそれぞれの条件の対象となる道路地図,地形図(地形標高(DEM;Digital Elevation Model))および植生分布図のレイヤーを準備します.つぎに,各レイヤー内で条件を満足する地域をそれぞれ抽出します.最後に,この3つの地域を重ね合わせることにより,結果として目的の地域の位置を得ます.

図4.GISの基本的な処理(重ね合わせ).

 

1-5.GISのデータ

 このようなレイヤーをどのように構成するかについて説明します.地理的な情報は基本的に幾何情報と属性情報に分けられます.幾何情報とは,点・線・多角形(ポリゴン)によりあらわされる面などの図形を表す情報で,属性情報とは,それが何であるかを示す属性の情報で,それらをあわせて1つの意味のある情報となります.属性情報は質的(例えば,ある場所においての土地利用や地質の情報)であるものと,量的(例えば,標高や地下水の化学的な濃度)である場合があります.

 幾何情報をGIS上でどのようにデータベース(DataBase)に保存するかにより図5に示すように,

    ラスター(raster)(型)データ,

    ベクトル(vector)(型)データ

の2つに大きく分類することができます.

図5.ラスター型データとベクトル型データ.

 

 昔のGISはそのいずれかしか取り扱えないシステムがありましたが,最近のシステムではこれらの両方を処理することができます.ただし,基本となるデータ形式によりラスター型システムあるいはベクトル型システムと呼ばれることがあります(本講座で用いるGRASSは基本的にラスター型のシステムです).

 

1-5-1.ラスター型データ

 ラスター型データは空間をその上に仮想的に配置した2次元の格子によって細分し,各格子(セル(cell))の属性値をそれぞれのデータとして保存します.国土地理院の50mメッシュ標高や25000分の1地図画像がラスター型データの代表的なものです.

 実際にラスター型データを作成する方法を図6に示します.まず,原図に格子をオーバーレイし(重ね合わせ)します.次に,その格子がどのような属性を持つかを示すセルマップ(cell map)に変換します.セルマップの各格子セルを属性に対応させた数値で示し,格子セルデータファイルを作成します(GRASSでの格子セルデータファイルは,1.格子の位置と分割数および1格子の大きさを示す情報(ヘッダー),2.セルの中身である属性値の「ならび」,および3.属性値の情報(何を意味するか)の3つで構成されます).ラスター型データで注意しなければならないのは,格子の大きさ(格子セルの縦・横の個数)と間隔(分解能)です.とくに,格子の間隔は使用する目的の分解能に合ったものでなければなりません.分解能を高くすれば(格子間隔を小さくすれば)格子の大きさも大きくなり,処理速度や保存するファイルサイズも大きくなります.

図6.ラスター型データの作成原理.

 

1-5-2.ベクトル型データ

 ベクトル型データは空間上の情報を点・線・面の情報に分け,それらを構成する位置座標と属性値をデータとして保存します.位置座標にはそれが点なのか,点と点を結ぶ線なのか,あるいは線と線をつなぐことにより示される面(領域)なのかを示す定義(位相関係で表現)も必要とします.国土地理院の数値地図2500(空間データ基盤)や1万分の1数値地図などがベクトル型データの代表的なものです.

 実際にベクトル型データを作成する方法を図7に示します.まず,原図をデジタイザなどを用いて位置座標の入力を行います(デジタイジングともいう).デジタイザーがない場合は,原図をイメージスキャナ等で画像として入力し,ディスプレイ上でマウスを用いて入力することも可能です.次に,入力した位置座標の定義(点・線・面)およびその属性値を入力し,ベクトルデータファイルを作成します(GRASSのベクトルデータファイルは,1.ベクトルの位置座標と定義,2.代表的なベクトルの位置座標と属性値,および3.属性値の情報(何を意味するか)の3つで構成されます).なお,最近では画像から自動的にベクトル情報を抽出するツールもあります.

図7.ベクトル型データの作成原理.

 

1-5-3.ラスター型とベクトル型の比較

 ラスター型データの利点は,データ構造が単純であり,コンピューター・スクリーン上に地図を示すことが高速に行え,容易にプログラムが開発できることです.また,画像や地形の標高(DEM)などの連続変量を取り扱うことが可能という点です.ラスター型データの欠点は,単位格子の大きさにより精度が決定されること,地図のスケールを変える際に問題が生じることと,データファイルが大きいこと(最近のラスターファイル圧縮技術の進歩により,この問題は若干軽減している)である.

 ベクトル型データの利点は,非常に高精度に位置座標を取り扱うことができることで,いろいろなスケールにも対応が容易であることです.また,境界線などの面積を持たない情報を的確に表現することが可能であるという点です.ベクトル型データの欠点は,データ入力するための作業が煩雑であることと,境界線をもつ情報に利用が限定されることです.


まとめ(1)

GISとは

空間データを特定の目的のために実世界から収集し,保存し,自由に検索し,変換し,解析し,表示するためのシステム.

GISの3つの主機能

 1.入出力機能, 2.データベース機能, 3.解析機能

GISの利点

 ・空間データ管理の容易さ,標準化,スケールの自由.

 ・多彩な解析機能や表示方法(色・透視,2D・3D,動画)

 ・インターネットによる利用(一部可能)

GISでの情報

 地理情報→幾何情報+属性情報

 幾何情報を取り扱う形式:ベクトル型とラスター型

ベクトル型データ

 全体空間を規則的に分割した領域により表現する.

 利点:高精度.

 欠点:入力が煩雑,境界線を持つ情報に利用が限定.

ラスター型データ

 位置を表す点,点と点を結ぶ線,線で囲まれた面を位相関係で表現する.

 利点:連続変量を扱える.

 欠点:単位図形の大きさにより精度が決定.

(以上,第1回講義)


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