地球科学におけるGRASS GIS入門(第2回)

目    次


第2回目の講義です.今回は前回の少し補足的な部分とUTMを中心に座標系について説明します.また,GRASSの基本操作についても概説します.

実習ではチュートリアルを利用してGRASSを動作させ,立ち上げから,基本的操作,終了までを行います.


1-5-4.ベクトル型データのモデル(補足)

 一般に,ベクトル情報をデータ化するときには,図8に示したように,スパゲティモデル(Spaghetti model)トポロジカルモデル(Topological model)の2種類があります.スパゲティモデルでは基本的に全てが同じ形式(例えば,線のみの情報)でトポロジー(位相(幾何学);空間の位相的性質(の幾何学))を設定する必要がありません.スパゲッティモデルは非常に単純な地図を表すときに利用します(第8図a).このモデルでは,例えば,リニアメントマップや地滑りを分布図(多角形のみの図)などに利用可能です.トポロジカルモデルは複雑なパターンを表さなければならない場合に必要です(第8図b).このモデルは,土地利用図や地質図など線と線の交差に意味がある情報をベクトルで表す場合などに用います.

 トポロジカルモデルは,頂点(vertices)と,頂点を結んだ弧(arc)と,弧と弧を結ぶ節(node)から構成されます(第8図b).トポロジカルモデルのコード化は,これらのarcに番号を付けて,そして,多角形するために節(node)を結び付け,領域を定義していきます.それぞれのnodeにxy座標を付加することにより,地図の全要素の空間的な識別をすることが可能となります.これはxy座標を用いた解析のみでなく,ネットワークや,空間集合などのグラフ理論を伴った数学的な利用を容易にします.

図8.ベクトルの2つのモデル.

 

2.座標系

 我々が取り扱おうとしている地球科学に関する各種の情報は回転楕円体で近似される地球に3次元的に位置するものです.地球表面は実際には曲面ですが,このままでは地図に代表される2次元の図面には表現できません.このために実際の3次元空間情報を2次元に投影するという作業が必要となります.

2-1.回転楕円体

 地球の形をより正確に表現するために回転楕円体(地球楕円体:earth ellipsoid)が定義されています.これまでに,地球を測量する膨大な研究結果から多くの回転楕円体が定義されています.例えば,Clarke・Bessel・Everest・国際などがあり,それぞれで地球の長半径と短半径が定義されています.回転楕円体は地域に合うものがそれぞれ選択されているために,国によって異なります.日本では一般にBessel(Bessel ellipsoid ;1841年にベッセルが定めた.長半径 6377397.155m,短半径 6356078.96284m,扁平率 1/299.1528)が使われています.

 

2-2.投影法(図法)

 投影法には多くの種類があります.それぞれ長所・欠点があります.例えば,角度は実際と等しいが長さや面積が異なるというものです.これは回転楕円体面(あるいは球面)は決して平面にはならないためです.そのため,角度・距離・面積などをそれぞれ正しく投影する種々の方法が開発されています.投影法はその投影結果の平面図において現実の3次元空間と等しいものを表しているもので区別して,

  等角投影法(正角図法ともいう:角度が等しい)

  等距離投影法(正距図法ともいう:長さが等しい)

  等積投影法(正積図法ともいう:面積が等しい)

の3つに大きく分けられます.ただし,これらにも限界があります.例えば,等距離といっても地図上の全てのものが,正しい距離で表されるものではありません.したがって,地図の縮尺やそれぞれ目的に応じて使い分けなければなりませんし,また,使用する際にはそれらを(ある程度は)理解している必要があります.例として,それぞれの投影法の代表的なものをあげておきます.

等角投影法:メルカトル図法,ユニバーサル横メルカトル図法(UTM),ランベルト正角円錐図法,平射(ステレオ)図法

等距離投影法:トレミー図法,正距方位図法

等積投影法:ランベルト等積円筒図法,サンソン図法,モルワイデ図法,ボンヌ図法

 我々が新しく基本地図を作成することはあまりありません.したがって,既存の地図情報にかなり制約されます.ここでは,GISでよく使われているUTMについてのみ説明します.それ以外は,各自で必要に応じて調べてください.なお,地図と測量に関する色々な話を載せた非常に優秀なホームページ「関西測量と地図のひろば」(国土地理院近畿地方測量部)があります.とくに,その中の「地図と測量に関するQ and A」のコーナーは,色々な観点から地図およびそれに関連することを解説しています.是非,読んでみてください.

 

2-3.UTM図法

 UTM図法(Universal Transverse Mercator's projection;ユニバーサル横メルカトル図法)は,国土地理院の1/25000や1/50000など中縮尺の地形図や人工衛星画像の投影などに使われている代表的な図法です.基本的にガウス-クリューゲル図法(等角横軸円筒図法)を用い,地球を経度6°ごとに60等分したゾーンに分けて投影しています(緯度は北緯80°〜南緯80°まで利用できます).

図9.UTM図法の概略図.

 

 ゾーンは西経180°から174°をNo.1とし,東まわりに順に番号が付けられています.日本の例を示すと,126°≦東経<132°はゾーンNo.52,132°≦東経<138°はゾーンNo.53,138°≦東経<144°はゾーンNo.54で,福岡はNo.52,大阪はNo.53,東京・札幌はNo.54となります.各ゾーンの中央の経線を中央子午線(ゾーンNo.53では,132°+3°=135°)とし,これと赤道との交点をゾーンの原点とします.座標値は緯線方向(東西方向)の座標値(E,東へ行くほど大きくなる),経線方向(南北方向)の座標値(N,北へ行くほど大きくなる)で(x,y)と表し,単位はmを用います.ただし,負の値がないように,原点の座標値を次のようにシフトしています.

北半球:原点の座標値は(500,000m,0m)

南半球:原点の座標値は(500,000m,10,000,000m)

また,各ゾーン内での縮尺の誤差は4/10,000以内です.

例えば,東経135°00′00″北緯34°40′00″(明石)は,ゾーンNo.53の中央子午線が通るため

     (500000.00000000,3835697.88467374)

東経135°30′00″北緯34°40′00″(大阪市)は,同じくゾーンNo.53で

     (545804.82355504,3835811.56768808)

となります.なお,ゾーンを2つにまたがって作業をする必要がある場合は,面積の大きい方のゾーンを基本として考えるのが一般的です.

2-4.座標系の選定

 座標系の選定はGISを利用する場合の最も重要な作業の1つです.目的に応じた種々の座標系がありますが,設定した座標系はGIS環境を左右し,それに基づいて入出力のパラメータ等が変化するため,充分検討しておく必要があります.ここで例として示したUTM座標系は正角でひずみも小さく,座標の単位がm(メートル)であり,解析時等においても理解しやすいパラメータを利用できるという利点を持ちます.また,リモートセンシングデータ等はUTM座標系での利用を前提に提供されている場合が多いなどの理由から,5万分の1程度の中縮尺の場合は一般的にUTM座標系を用いるのが望ましいと思います.

図10.UTM座標系での国土地理院の地形図(誇張して示した).

 

 なお,国土地理院発行の地形図等はUTM投影されているものが多いのですが,地形図面の境界はUTMの値ではなく,緯度経度で区切られています.このためにUTM座標系を用いた場合は,これらの地形図の境界とGISでの領域境界とが一致しません(図10).また,国土地理院の50mメッシュなどのDEMも等距離間隔ではなく等緯度経度による分割であるために,UTM座標上で利用する場合は後述する変換作業が必要です.

 

3.GRASSの基本

 GRASSの基本的な操作方法やデータベースの作成,データ構造について説明します(今回は,基本操作のみです).

3-1.GRASSの基本操作

 GRASSの起動,終了,コマンド入力等の基本的な操作を示します.GRASSの操作はマウス(デジタイザーを含む)用いた位置入力等を除き基本的にキーボードから行ないます.X-windowのGUIを用いたxgrassや,TCL/TK環境を用いたTclTkGRASS等もあり,マウスで操作可能なため便利なのですが,基本にしたがってコマンドベースの方を用います(この方がコマンドを良く理解できます).

 GRASSのデータベース構造に関しては次回に説明をする予定ですが,起動時に最小限必要な事項のみ簡単に説明します.GRASSを用いる場合は,データベース(DATABASE)を保存するディレクトリ(GISBASEと呼ばれる場合もある)の指定が必要です.このディレクトリの中にLOCATION(地域名)と呼ばれるディレクトリがあり,LOCATIONの中にMAPSET(地図名)とよばれるディレクトリがあります.LOCATIONは対象地域の地名などを付けるのが一般的です.実際の操作時にデータや情報が格納されるのはMAPSETの中で,作業目的名やプロジェクト名,あるいは使用者名前などを付けたりします.また,LOCATIONの中にはPERMANENTとよばれる基本図などを格納し,利用するために名前が固定されたディレクトリがあります.

 GRASSは通常のUnixのコマンドと同様にxtermの中から,grass4.2と入力することにより起動します(リスト1).また,GRASSの終了はコマンドラインでexitと入力します.

各種コマンドの実行時はリスト2に示したように対話形式で必要事項が表示・要求されるので,キーボードから入力します.コマンドのオプションはコマンド入力時にオプションとしてコマンドの後ろに続けて入力することも可能です.なお,標準的な操作の場合は,デフォルトの値が括弧[ ]に囲まれて表示されるのでリターンを押すだけで選択できるようになっています.例えば,終了時の場合はリスト1に示したようにリターンのみを押すことによりMAPSETやデータファイルの保存を行い終了できるようになっています.required:NOの表示がある時は,必要がなければなにも入力せずにリターンキーを押して次へ進むことができます.逆にrequired:YESの表示がある時は,必ず入力しなければなりません.ファイル名等が不明な場合はlistと入力することで一覧表が表示できることが多いです.

なお,オンラインマニュアルが充実していますので,コマンドあるいはそのオプションがわからない場合は,g.manualを利用(リスト3に実行例を示す)して下さい.

 


まとめ(2)

2種類のベクトルモデル

 ・トポロジカルモデル

座標系

 回転楕円体 日本ではBessel

 投影法 長所・短所がそれぞれにある

  等角投影法(正角図法ともいう:角度が等しい)

  等距離投影法(正距図法ともいう:長さが等しい)

  等積投影法(正積図法ともいう:面積が等しい)

 UTM図法 ユニバーサル横メルカトール図法

  経度6°ごとに分割.60のゾーン.単位はm.

  北半球:原点の座標値は(500000m,0m)

GRASSの基本操作

  DATABASE LOCATION MAPSET PERMANENT

(以上,第2回講義)


第2回 実習のページへ

大阪市立大学インターネット講座'99