地球科学におけるGRASS GIS入門(第6回)

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第6回目の講義です.今回は前回の残りのベクトルプログラムモジュールと応用例の1番目として地質モデルの作成方法です.論理演算的な表現が出てきて,わかりにくいかもしれませんが,頑張ってください.その分,実習が簡単です.実習では講義のほうで示した論理に従って3次元地質モデル(簡単なもの)を作成してみます.


3-5-7.ベクトルプログラムモジュール

----- ベクトルファイルの入力・出力変換 -----

v.in.ascii: GRASSのASCII形式のベクトルファイルをバイナリー形式に変換する.

v.in.arc:世界的に販売されているGISソフトARC/INFOのデータ形式のファイルをGRASSのベクトル形式に変換する.

v.in.dxf:AutoCadのDXF形式のファイルを,GRASSのベクトル形式に変換する.

v.out.ascii:GRASSのバイナリー形式のベクトルファイルをASCII形式に変換する.

v.out.arc:GRASSのベクトルファイルをARC/INFOの「Generate」ファイル形式に変換する.

v.out.dxf:GRASSのASCII形式のベクトルファイルを,ASCII形式のDXF (AutoCad)形式に変換する.

v.to.rast:ベクトル地図レイヤーをラスター形式に変換する.

v.to.sites:ベクトル地図レイヤーからデータを抽出して,サイトファイル形式に変換する.

----- ベクトルレイヤーの設定・再分類等 -----

v.reclass:ベクトル地図レイヤーのカテゴリーの再分類を行う(r.reclassと基本的に同じ機能).

v.support:ベクトル地図レイヤーのためのサポートファイルを作成・編集する.

----- ベクトルレイヤーの合成・演算等 -----

v.area:表示したベクトルファイルに関して,マウスで指定した領域の面積と周囲長を求め表示する.

v.cutter:2つの既存のベクトル地図の交差(ブール代数のANDオーバーレイ)関係に基づいた演算を行い,新しい地図レイヤーを作成する.

v.mkgrid:ベクトル形式の格子を作成する.

----- ベクトルレイヤーの作成・編集等 -----

v.digit:ベクトルデータを画面上で操作するメニュー方式の対話型ベクトル地図レイヤー作成・編集プログラムです.v.digitはベクトルのデジタイズ,エディティング,ラベリング,ウインドウ,およびベクトルデータをラスター形式に変換する機能を持っています.v.digitはデジタイザーやマウスで操作します.

v.proj:ベクトルレイヤーの投影変換を行う.

v.transform:x,y座標で入力したベクトルファイルをUTM座標系に変換する.

v.prune:ベクトルデータファイルのデータに対して,既定の与えられた許容範囲において,正確さを保ちながらも余分なポイントを消す.これにより,必要とするディスクスペースを減らすことができる.

v.clean:ベクトルデータファイルの中で削除マークを付けられた線を全て取り除く.

 

4.応用例

 我々が取り扱おうとしている地球科学に関する何種類かの応用例について説明します.ここでは地球科学情報を数学的にあるいは論理的にどのように扱うかが示されています.地球科学情報とくに地質学に関する情報化は,その情報のもつ特殊性から,非常に一般化が遅れています.従って,ここで示す種々の考え方は,研究中のものもあり,必ずしも一般的でない場合がある事をご了承下さい.

4-1.地質図

 地質情報は空間情報の中で地面の下を支える重要な要素の1つです.とくに,環境・防災・地下利用などの地質に密接に関連した問題の解決には,GISを利用した情報の管理・解析・シミュレーション,およびそれらを基礎にした総合的な判断を行うことが多くなり,地質情報の必要性が高まってきています.地質情報を問題解決に十分反映し,精度の高い議論を可能にするためには,GIS上で地質情報を正しく表現・提供する必要があります.

4-1-1.地質図の特殊性

 地質図とは野外で得られたデータや各種分析結果から地質学の知識をもとにして層序や構造などの関係を推論し,この関係に従い地質体の3次元分布を推定して作成されるものです.地質図や地質断面図は,地質体の性質とその3次元空間分布,および地質体の層序や構造等の関係を総合的に図化したもので,地質図を情報化するには,地質体の性質と3次元空間分布を表す幾何学的情報だけでなく,地質体の相互の関係などを表す関係情報が不可欠です.この関係情報とは地質体の形成年代,形成場・形成過程・形成後の変形,およびそれらの時間的・空間的な連続性などを示します.また,個々の地質体間の関係のみを表すだけでなく,地質体の集合間の関係をも表します.このような地質体の関係情報は単なる地域分割された属性や物理量ではなく,情報の性質が複雑で特殊であるため,GISでは簡単に取り扱えません.

 現在,多くのGISで利用されている一般的な地質図は地形表面の地質分布図がほとんどです.これは地質図のもつ情報を十分に反映しないだけではなく,利用に関しても種々の制約があります.地質図は地質体の関係を示したものであるため,縮尺や分解能を変更しても地質体と地質体との関係(地質境界面の関係)が保存されなければなりません.また,地質境界線は地質体間の境界面と地形面との交線を表しているために,地形の形状に対応してその境界線も変化しなければなりませんが,平面の地質図をGISに入力したのではこれらに対して対応できません.

 地質情報および地質解析の特殊性を考慮し,これらの制約の問題を解決するためには,GISの中に地質図を取り入れるのではなく,GISの中でデータ入力から地質図作成までの地質解析を行う必要があります.このためには地質図作成作業がどのようなものであるかを考え,作業やそこで用いる地質学の論理の定式化を行わなければなりません.

4-1-2.地質図作成の定式化

 GIS上で地質図を作成するために,実際の地質図の作成作業の概略を定式化して考えてみましょう.まず,基本的につぎの5つの段階に分けられると思います.

@地質調査:野外調査で露頭データやボーリングデータを得る.さらに,各種分析等を行う.

A層序・構造の確立:得られたデータ・分析結果等をもとに地質学の論理・知識を導入して,層序・構造を確立する.

Bデータの再配分:確立された層序・構造にもとづき,調査結果を再分類する.

C地質境界(面)の推定:再分類した調査結果を満たすように地質境界(面)を推定する.

D地質図の色塗り:境界(面)によって境される空間を層序・構造の関係に従って,色塗りする.

 このような地質図作成作業を実際にGISで行うためには,各段階でのより詳細な定式化が必要となりますが,@からAの作業は,非常にぼうだいな地球科学の知識を要するために,現時点では人間が手作業で行わなければなりません.なお,Aに関しては論理地質学という分野があり,色々な研究が行われつつあります.また,BとCは現在のGRASSにその機能を追加する研究を行っており一部に関しては完成していますが,現時点では,そのまま対応することができません(後日,機会があれば説明します).そこで,ここでは地質境界面が求められているとして話を進めていきます.ここでは,最後のD地質図の色塗りの部分について説明します.

 前述したように,地質図の作図を平面の色塗りで行っても本質的な地質図ではありません.そこで,3次元のモデルとして地質モデルを構築します.これにより,地質図をGISで作成する意味が出てきます.GISで3次元地質モデルを構築する考え方は何通りかありますが,我々は,つぎに示す地質関数gによりGIS(GRASS)上で実現しています.

4-1-3.地質関数g

 3次元地質モデル作成に必要な3次元の地質構造を定式化した例として地質関数gについて説明します.

 地質図を作成する対象地域の3次元空間をΩとし,つぎのような n 個の地質体b 1 b 2 ,・・・b n があるとします.

b 1 b 2 ・・・ b n = Ω ,

b i b j = φ ( i j ).

これにより,3次元空間Ω内の点は地質体b 1 b 2 ,・・・b nのいずれかに含まれることになります.なお,実際には地表上には空気がありますが,ここでは空気も地質体の1つと考えます.

 3次元空間内の任意の点を入力すると地質体名Bb 1,b 2,...,b n を出力する関数を地質関数gとします.

g : Ω B .

 話を簡単にするために,図−15のように地質断面図で考えましょう.3次元空間をそれぞれ2つに区分する2つの境界面 S 1 S 2 により,3つの地質体 b 1, b 2 および b 3 が区分されるとします.境界面・地質体とも添え字の小さいものほど古いとします.この図の場合,古い順から地質体b 1b 2 b 3と形成されたとします.

図-15 境界面と地質体の関係

これらの地質体はそれぞれつぎのように示されます.

b 1 = S 1- S 2-.

b 2 = S 1+ S 2-,

b 3 =    S 2+,

ここで S i+ S i- は面 S i に対して地質学的にそれぞれ上位と下位の空間領域です.例えば,b 2 S 1 の上側(S 1+)かつ S 2の下側(S 2-)を意味します.これらの式は図−16に示したように表形式でも表せます.

図-16 地質構造の論理モデル

表中の+1は境界面の上位(S i+),−1は下位(S i )の領域を示し,0は境界面と無関係を意味します.これらの式および表を地質体と境界面の関係を表す地質構造の論理モデルといいます.

 3次元空間Ωを2分割する各境界面をS 1, S 2, ... , S i, ..., S n-1としたときに,それらで分割される最小領域を,S 1, S 2, ... , S i, ..., S n-1により生成されるminset といいます.m d 1 d 2...di...dn-1 minset とすると,つぎのように表せます.

m d 1 d 2... di... dn-1 = h 1(d 1)h 2(d 2) ....h i (di )....h n-1 (dn-1 )

ここで,

h i (di ) = { S i+ :di = 1 のとき, あるいは, S i- di = 0 のとき,

です.図−15の場合,以下の4つの minset となります.

m 00 = S 1- S 2- ,

m 01 = S 1- S 2+,

m 10 = S 1+ S 2-,

m 11 = S 1+ S 2+.

一方,地質体に対する minset は,つぎのように求められます.

b 1 = m 00 .

b 2 = m 10 ,

b 3 = m 01 m 11 ,

また,それぞれの minset は,1つの地質体に含まれます.

m 00 b 1 .

m 01 b 3 ,

m 10 b 2 ,

m 11 b 3 ,

この minset と地質体の関係は,minset M から地質体 B への関数 g1 で表せます.

g1: M B.

この関数 g1 は,図−17に示したminset と地質体の対応関係を表した関係コード表で表現できます.

図-17 関係コード表

 空間Ω内の点 P (x, y, z) に対して,点P (x, y, z)が各境界面 S i+ および S i-のどちらにあるかを求め,値 di =1またはdi =0とすることにより,minset m d 1 d 2...di...dn-1を求めることができます.空間Ω内のすべての点とminset Mとの関係は関数 g2 で表せます.

g2: Ω M.

この2つの関数 g1: M B および g2: Ω M の合成が点 P ( x, y, z )の地質体を定義する規則となります.

g ( x, y, z )=g1 ( g2 ( x, y, z )).

この地質関数 g : Ω B は,3次元空間Ω内のすべての点における地質体を定義する関数となります.

 

4-1-4.GRASSによる3次元地質モデル

 この地質関数g を用いてGRASSで3次元地質モデルを構成し,地質図を作成する方法を述べます.必要なものは

・境界面

・関数 g2 :規則とその実現方法

・関数 g1 :関係コード表とその実現方法

です.境界面はすでにあるという前提ですので,残りの2つに関して説明します.

 関数 g2 の規則は地質構造や境界面形状に関係なく,境界面の枚数に関する情報のみから機械的に作成できます.例えば,図-18のように,2つの境界面があったとします.

図-18 地質関数

ある地点P ( x, y, z )でのminset は,その位置がS 1面のどちらにあるか,およびS 2面のどちら側にあるかにより判断します.各面に対して地点P ( x, y, z )が下にあるならば0,上にあるならば1とし,順番にその値をならべて2進数表現します.この値をその地点でのminset とします.図−18の地点P は,minset=01ということになります.さらに面の数が多い場合はその分だけ同様の作業を行います.関数 g2 はkこの規則により計算で行えます.GRASSではr.mapcalcで行います(実習を参照して下さい).

 関係コード表は前述したような境界面と地質体の関係を表す論理モデルをもとに作成します.具体的には,minset と地質体の番号の対応表を作成します.この表を用いて再分類機能により関数g1 を実現し,関数g2で求めたminset を地質体の番号に変換します.GRASSではr.reclassで行います(実習を参照して下さい).

 これらの準備により3次元地質モデルが仮想的に構成できた事になります.つぎは可視化です.可視化したい面の標高情報をラスター形式で作成します.この面を,関数 g2に入力し,各ピクセルでのminsetを求め,minsetの値からなるラスターを作成します(r.mapcalcを実行).つぎにこのラスターを,関数 g2に入力し,各ピクセルのminsetを地質体の番号に変換し,地質体番号からなるラスターを作成します(r.reclassを実行).これを各種表示機能を用いて可視化します.

4-1-5.GRASSによる3次元地質モデルの例

 野外調査データをもとにして行った一般的な例ではありませんが,前述の地質作成法をさらに応用して, 2次元の地質図幅から3次元地質モデルを作成した例を示します.対象とした地域は新潟県小千谷市東部地域(南北9.7km×東西8.5km)です.3次元地質モデルの表示例として,地表面の地質図を地形の陰影および地形の形状を用いて3次元投影した例を図−19に示します.また,一定の標高で3次元地質モデルを水平に切断した水平断面図を図−20に示します.

図−19 3次元地質モデルの表示例(1)

図−20 3次元地質モデルの表示例(2)

 


まとめ(6)

GRASSのファンクション(7)

 ベクトルプログラムモジュール

ファイルの入力・出力変換

v.in.arc v.in.ascii v.in.dxf v.out.arc

v.out.ascii v.out.dxf v.to.rast v.to.sites

設定・再分類等

v.reclass v.support

合成・演算等

v.area v.cutter v.mkgrid

作成・編集等

v.digit v.proj v.transform v.prune v.clean

応用例

 地質図の作成:定式化が必要となる.

地質関数g:任意の地点の地質体を定義する関数

地質構造の論理モデル:地質体と境界面の関係を表す論理モデル

minset:境界面により区分される最小分割領域 

(以上,第6回講義)


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