地球科学におけるGRASS GIS入門(第7回)

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第7回目の講義です.今回は応用例の2番目として地すべり分帯図の簡単な作成方法です.実習では,地形と地すべりのデータをもとに簡単な計算を行って,簡単な統計モデルを考えます.


4-2.斜面の安定評価(地すべり危険地域の分帯)

 日本では地すべりを含む斜面災害がしばしば起こり,災害の範囲や種類,原因に焦点をあてた大規模な研究がさまざまな研究機関や研究者らによって行われてきました.また,これらの研究をもとに,地すべりに関係したハザードマップ(災害予測地図)などが作成されつつあります.

 ここでは,GISを使った地すべり危険地帯の判定の基礎となる考え方と手法について簡単に説明します.なお,地すべりや斜面崩壊をまとめて地すべりという単語で述べます.なお,地すべりや斜面崩壊自身に関する説明は行いません.これに関しては,多くの教科書がありますので,興味のある方は参照して下さい(例えば,藤田 崇(1990)「地すべり-山地災害の地質学-」,共立出版,126p. や Varnes D. J.(1984) Landslide hazard zonation: a review of principles and practice. UNESCO, Paris, pp.63. など).

4-2-1.基礎データ

 地すべりに関する解析を行うための基礎データとしては,現在存在する,あるいは過去に発生した地すべり・崩壊地のデータと斜面の安定評価に関する基本となる地形・地質・気象・水文地質・土地利用・植生分布などが必要です.ここでは説明しませんが,災害の被害予測をするためには,人間とのかかわりのあるこの他の多くの情報(例えば,住宅・道路・構造物など)も当然必要です.これらの情報をGIS上にレイヤー分けして,多面的な解析を行います.

 地すべり・崩壊地のデータ未来の現象を予測するには,現在と過去の現象をもとに考える必要があります.言いかえれば,現在や過去の情報からモデルを作成し,このモデルの延長線上となる未来を予測することが必要です.これは地球科学の基本的原理の1つともいえる考え方です.このため,地すべり等の現在の実体と過去の発生状況とが必要となります.地すべりのデータは,現地調査や空中写真などから判読します.また,できるかぎり地すべり等の発生時期を把握した,時間をもつ情報としてとらえることが理想的です.

 GISでは,これらの情報をもとにベクトル型でその範囲を指定し入力します.また,GRASSでは種々の計算に使いやすいようにラスター型に変換しておくことも必要です.

 地形データ:地形データは高度(標高)を基本とし,これから作成される傾斜(方位・大きさ),起伏量なども必要な情報です.とくに,傾斜の大きさのデータは斜面の安定性に密接に関係するため重要です.また,谷密度や地形が急変する傾斜変換線なども地形から抽出して使用する方法があります.

 GISでは,標高情報であるDEM(数値標高データ;Digital Elevation Model)から傾斜の大きさ・方位・起伏量などが簡単に求められます.また,DEMを解析することにより,谷密度や傾斜変換線なども求められます.なお,解析の対象の大きさなどからDEMの分解能を十分検討しておくことが必要です.このため,一般に利用されている国土地理院の50mメッシュでは不充分で,独自で分解能の高いDEMを作成し利用しなければならないことも多いです.災害の把握を含めた詳細なDEMを人工衛星から作成する計画があります.つぎのホームページを参照して下さい.

http://eos-p71b.hq.nasda.go.jp/alos/alosj.html

 地質データ:地質データの中では岩相と構造などが重要な要素となります.岩相は地質体の物性の基本となるため岩相による区分がされている地質データを用いることが望ましいです.とくに,地すべりが起こりやすい特定の岩相(凝灰岩など)を表現できるデータが必要です.また,『受け盤』や『流れ盤』などの考えを反映させるためには,層理面と地形面の関係を何らかの形で表現する必要もあります.

 GISにおいては岩層などを精度良く入力した地質図が必要です.とくに凝灰岩などは薄くてGIS上で表現しにくい場合なども多いので工夫が必要となる場合があります.また,地質の構造と地形の関係を表すためには,前回説明した3次元地質モデルの考え方が有効となると考えます.

 気象データ・水文地質学的データ:どちらも水(雪)に関する重要なデータで斜面の安定性にとって重要な役割を果たします.これらは,基本的に地表水と地下水などに分けられます.しかし,詳細な地域的な分布をつかむことは難しいので,空中写真やリモートセンシング画像を用いて,水環境の変化に対応する植生の変化を観測して,間接的に用いる場合もあります.なお,十分な降水量等の記録が得られるところでは,降雨の直接の量的な影響を決定するために,また将来についての統計的な予測を得るためにミクロな気候分帯が用いられます.

 植生データ・土地利用データ:斜面の安定性における植生の影響は複雑です.土壌の深度などにも関係します.植生被覆は地域的な斜面の安定性に良い影響と悪い影響と2つの可能性があります(Varnes,1984).例えば,良い影響としては,侵食作用に対する斜面の保護になり.悪い影響としては,木が土壌に及ぼす負荷の増加や,木の根が割れ目を広げるくさびのような働きをすることもあります.GISでは,これらのデータをリモートセンシングの情報から作成することもあります.

 ここで,植生情報をリモートセンシングから得る方法を簡単に説明します.良く使われる植生指標(Vegetation Index)に正規化植生指標(NDVI;Normalized Difference Vegetation Index)と呼ばれるものがあります.これは,

 NDVI=(IR−R)/(IR+R)

で求められます.ここで,IR は近赤外,R は赤外のバンドの反射率です.LANDSATのTMデータの場合では,IRがバンド4,Rがバンド3に相当します.簡単に言えば,NDVIの値は植物の葉が多いほど高くなります(実際には,土壌の反射やその他の影響を考慮する必要があります).NDVIはGRASSではTMデータ等からr.mapcalcなどを用いて簡単に求められるため,よく利用されます.

4-2-2.統計的方法

  斜面の不安定性を分類するために統計的方法がよく利用されます.しかし,地すべりに関係する要素(斜面の傾斜,地質,斜面の向きなど)は異なった単位やスケールで測定されています.また,定性的な情報も重要です.例えば,斜面の傾斜は,連続的なスケール(等間隔で増加する角度)で測定されていますが,地質体は何々層というように性質(あるいは形成した時代・環境などに関連した情報)を表しています.このような多様な種類のデータの結合・解析には特別なテクニックが必要です.これらに対しては種々のアプローチが行われています.例えば,「数量化理論」などを使う方法が代表的です.

 ここでは,統計的方法の簡単な例として,我々がGRASSで行ったLHI(地すべり危険地指数;Landslide Hazard Index)という考え方を示します.これは,Gupta and Joshi(Gupta R.P, and Joshi B.C., 1994, Landslide hazard zonning using the GIS approach - A case study from the Ramganga catchment, Himalayas, Engineering Geology, v. 28, p. 119-131.)によって主張されたLNRF(Landslide Normal Risk Factor)の考え方を拡張したものです.なお,このLHIの考え方には,まだ問題点もあり,今後検討をしなければなりませんが,地すべりと各種データとの関係を簡単に見ることができるというメリットがあります.

 LHIの考え方は,ある種のデータに対して,各カテゴリがどの程度に地すべりと関係するかを指数として表すものです.計算は簡単で,地すべりとデータを比較して,あるカテゴリの占める面積Aとその中にある地すべり地の数Lから,L/Aを求めます.すべてのカテゴリでこの値を求めて,その平均Zを求めます.各カテゴリのL/AをZで割り,これをLHIとします.高いLHIの値を示すカテゴリの地域では,他のカテゴリの地域より地すべりをより多く起こしており,また,今後とも地すべりを起こす可能性が高いと仮定します.

 さらに,このLHIを値の低いものから順に並べなおして,累積分布を作成してグループ分けをします.例えば,25%未満,25%から60%,60%から75%,75%以上などのように区分して,4つのクラス(非常に低い,低い,普通,高い)にグループ分けし,0〜3の値を割り当てます.これらを線形結合することによって,最終的なLHI値を求めます.これにより,どのような地域でLHIが高いかが求められモデルができます.このモデルをもとに,最終的なLHIの分帯図を作成します.

 

4-2-3.GRASSによる簡単な例

 このLHIの考えをもとに,新潟県小千谷地域で地すべりの統計的検討を行った例を示します.使用したデータは,調査地域にあたる範囲の国土地理院による50mのメッシュのDEM,地質図(柳沢幸夫・小林巌雄・竹内圭史・立石雅昭・茅原一也・加藤碵一(1986),5万分の1地質図幅「小千谷」,地質調査所)および地すべり分布図です.DEMは標高50mごとに区分して,地形標高区分図(図−21)として用いました.地質図や地すべり分布図は,GRASSのv.digit等でデジタイザーを用いて,手で入力し,ベクトルデータとして作成されたものを,v.to.rastを用いてラスターフォーマットに変換し利用しました(図−22,図−23).図−23には,317地点の地すべり地域が示されています.

 図−21 地形標高区分図(19KB)

 図−22 地質分布図(67KB)

 図−23 地すべり分布図(9KB)

さらに,DEMからは地形の傾斜の大きさ(図−24),向き(図−25),起伏量(レリーフ;図−26)の図をそれぞれ作成しました.

 図−24 地形の傾斜の大きさ(39KB)

 図−25 地形の傾斜の向き(75KB)

 図−26 地形の起伏量(レリーフ)図(20KB)

 

 これらのデータをもとにLHIを計算し,LHIの高さで地域わけをした図を次に示します.

 図−27 LHIによる地すべり地域の分帯例(33KB)

 図−27は,地形・地質情報のみから,今までに起こった地すべり地と共通する様な情報を持つ地域を4段階で区分したものです.今までに起こった地すべりの多くが,LHIの高い地域にあることがわかります.なお,これらは統計的な処理方法の考え方の基本を示したものであり,図−27が地すべり危険地帯の地域分けとなるものではありません.


まとめ(7)

応用例

 地すべり地域の分帯.

地形情報:標高・傾斜・起伏量など

地質情報:岩相・構造等

水に関する情報,植生・土地利用に関する情報

(NDVI:リモートセンシング画像から求められる簡単な植生指標)

(以上,第7回講義)


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