第11回目の講義です.応用編に戻って,GRASSを用いたリモートセンシングの方法について説明します.
実習の方では,実際にテストデータをダウンロードして,簡単な処理を実習します.
ここではリモートセンシングの概略を説明し,GISでどの様に処理を実現するかについて述べます.
リモートセンシングとは,一般に非接触で対象物に関する情報を収集することです.地球科学分野で一般に使われるのは,人工衛星や飛行機などのプラットホーム(センサーを搭載する場の総称)から種々のセンサーを使って情報収集し,地球の観測を行なうものを意味することが多いです.また,これに対応して,現地調査することをグランドトルースと言います(実際には,これも非常に重要です).
地球観測には主にセンサーと対象物間の情報伝達媒体として電磁波が用いられ,地表(一部地下を含む)からのそれらの反射・放射を測定します.センサーは大きく2つに分けられます.
★可視光域から熱赤外域までの光学センサー(受動方式)
★マイクロ波領域におけるレーダセンサー(能動方式)
利用する目的により,電磁波の特性とセンサーの特性(エネルギー分解能・空間分解能)を使い分けています.代表的なプラットホームのセンサーと分解能を以下に示します.
| 衛星名 |
回帰日数(日) |
主なセンサ |
地上分解能(約m) |
|
NOAA |
0.5 |
AVHHR |
1100 |
|
LANDSAT4-5 |
16 |
MSS TM |
80 30 |
|
MOS−1 |
17 |
MESSER VTIR |
50 900 |
|
SPOT |
26 |
HRV/XS HRV/P |
20 10 |
|
JERS−1 |
44 |
OPS SAR |
18 18 |
なお,センサーと電磁波特性や分解能などの詳細に関しては,下記の(財)リモート・センシング技術センター(RESTEC)のホームページなどを参照して下さい.
各センサーによる分解能の違い(RESTEC) 反射・放射特性の例(RESTEC)例として,JERS-1から得られた画像を合成したものを示します.
JERS-1から得られた画像の合成例(152KB)
リモートセンシングの解析は,通常の画像処理で行なわれている解析と基本的には同じです.一般的な解析の手順の例を以下に示します.

リモートセンシングの特徴としては,地理的位置の情報も重要な要素であるということがあげられます.このため,ジオコーディング(Geocoding)という人工衛星から得られる画像と地図座標系を対応付ける技術をもちいた処理を行ないます.ジオコーディング技術により,GIS上で他の情報と合わせて解析を行うことが可能となります.また,放射量補正や多バンド情報によるスペクトル解析などの処理も特徴的です.なお,ここでは,GRASSでJERS-1のデータ(The original data from JERS-1 are owned jointly by the Ministry of International Trade and industry(MITI) and the National Space Development Agency of Japan(NASDA))を用いて例を示します.
補正処理
リモートセンシング画像の補正は,放射量補正と幾何学補正に大きく分けられます.放射量補正は画像のもつ値に関する補正で,対象からセンサーまでの間の大気からの放射・散乱やセンサーの特性に起因する歪などを補正します.大気の散乱による歪の補正を大気補正といいます.幾何学補正は,人工衛星の姿勢や対象物およびセンサー内部に起因する歪を補正します.
基本演算
(1)基本統計
データの特性を見るために基本的な統計量を求めることはリモートセンシングの情報に限らず,通常行なうべきことです.しかし,標高データなどではそれらが感覚的にわかるのであまり議論されません.しかし,画像情報では直感的にどのようなものか把握しにくいため,データを処理する前に必ずヒストグラムを作成するとともに,範囲や平均・分散を求めデータの統計量を把握しておくことが必要です.
例:画像とヒストグラム
JERS-1のバンド3画像を表示した例と,そのヒストグラムを示します.

JERS-1のバンド3画像とヒストグラム(71KB)
(2)濃度変換
リモートセンシングで得られた画像を見やすくしたり,物理的な量に変えるために濃度変換という処理がよく行なわれます.例えば,見やすくする処理にはコントラストを強調したり,明るさの分布を全体的に同じにする(例えば,ヒストグラム平滑化)などの処理があります.また,物理量としては,TMのバンド6(熱赤外)を用いた温度への変換などがあります.
例:ヒストグラム平滑化
ヒストグラム平滑化とは画像の頻度分布(ヒストグラム)が一様になるように,明るさを適当に変換する方法です.この結果,明るいところから暗いところまでほぼ一様に分布する画像に変わります.上記の画像をヒストグラム平滑化した結果を示します.先ほどよりかなり見やすくなっています.
バンド3画像のヒストグラム平滑化の例(79KB)
(3)空間演算
画像処理では,1点(画素,ピクセル)ごとの情報ではなく,そのまわり(近傍)との関係から色々な情報を読み出す処理を多く用います.例えば,となりとの明るさが急に変わるのは,なにかの不連続があり,それが,連続すればなにかの境界であるというように空間的に変化をとらえます.これを数値的に,定量的に行なうのが空間演算処理です.中でもエッジや線の抽出や画像の鮮鋭化などの処理はリニアメントの抽出などの際に有効です.また,雑音や目的よりも小さな変化を取り除来たい場合は平滑化などの処理も行ないます.
以下に示す3つの例の説明は,すでに本講座の
第5回実習で,地形データを用いて説明していますのでそれを参照して下さい.例:エッジの検出
第5回実習で示した「エッジの検出」と同じです.2次の偏微分であるラプラシアン(Laplacian)を用いた方法です.最初に示した原画像からエッジの検出を行なった例を示します.
ラプラシアンによるエッジの検出例(104KB)
例:鮮鋭化
第5回実習では「先鋭化」と書いてしまいましたが,こちらの漢字の方が正しい.原画像からラプラシアン画像を引く方法をアンシャープマスキングといいます.その例を示します.
原画からラプラシアン引いた鮮鋭化の例(102KB)
例:平滑化
第5回実習で示した平滑化と同じです.平均・加重平均として示してある方法です.局所平均を用いて平滑化した例を示します.
平滑化の例(68KB)
(4)バンド間演算
一般的にリモートセンシングでは,同じ位置を異なる複数の波長で捉えた情報が利用できます.これを用いて,スペクトル解析に近い処理を行ないうために,バンド間の比演算や多変量解析などの手法が用いられます.
例:比演算
比演算の例として,植生指標が代表的です.この説明は,第7回講座で行ないましたが,再度示します.植生指標(Vegetation Index)に正規化植生指標(NDVI;Normalized Difference Vegetation Index)と呼ばれるものがあります.これは,
NDVI=(IR−R)/(IR+R)
のようにバンド間の比(ここでは差)で求められます.ここで,IR は近赤外,R は赤外のバンドの反射率です.LANDSATのTMデータの場合では,IRがバンド4,Rがバンド3に相当します.NDVIの値は植物の葉が多いほど高くなります(実際には,土壌の反射やその他の影響を考慮する必要があります).NDVIの例を下に示します.
NDVIの例(79KB)
例:主成分分析
多変量解析の例として,主成分分析を行ない,分類を行なった例を下に示します(説明は省略します).
主成分分析の例(93KB)
画像の表現
原画像や解析結果の画像の表現方法は,1つの画像を表現する方法と複数の画像を合成して表現する方法とにわけられます.1つの画像の表現方法には,画像の値を明るさのみに対応させたグレースケール表示や画像の値を適当に区分して段階的に色分けした擬似カラー表示などがあります.また,複数の画像を合成して表示する方法には,それぞれの画像を光の3原色である赤(Red)・緑(Green)・青(Blue)(RGB)や色相(Hue)・彩度(Saturation)・明度(Intensity)(HIS)に対応させる方法などがあります.
例:グレースケール
今まで示してきた黒〜灰色〜白に変化する画像です.例は省略.
例:擬似カラー
画像の値に応じて,色を擬似的に対応させて表現します.例を下に示します.
擬似カラーの例(87KB)
例:フォールスカラー画像
多バンドの画像を適当な色に割り当てて合成し表示した画像のことを言います.LANDSATのTM画像で山が赤く表示されているものは,赤にバンド4,緑にバンド3,青にバンド2を対応させています.この方法の中で,より自然に山が緑に見える様にするには,TMの場合は,赤にバンド5,緑にバンド4,青にバンド1を対応させます.JERS-1での例を下に示します.

フォールスカラーの例(210KB)
GISによるリモートセンシング.
地理的位置の情報が重要な要素 →
ジオコーディング補正処理
放射量補正と幾何学補正基本演算
・基本統計 ・濃度変換 ・空間演算 ・バンド間演算画像の表現
グレースケール,擬似カラー,フォールスカラー(以上,第11回講義)