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思ったより大変な、ぬけがらの同定と雌雄の識別。
セミのぬけがら調査隊
 「森の植物園」とも言われ、様々な森を再現・展示しているこの植物園ならではのイベントがあります。2009年に小学生向けのサマースクールがスタートしましたが、2年目の2010年からメニューに登場した「セミのぬけがら調査隊」です。その後、「森の教室」や「森の楽校」に引き継がれて今も継続しています。講師は龍谷大学・里山学研究センターの谷垣岳人先生。植物園には様々な森が作られているけれども、森の種類によって、生息しているセミの種類は違うのか?それとも同じなのか?この疑問に答えるために、調査を開始しました。

ところで、なぜ、ぬけがらなの?
 私達が良く知っているセミは幼虫から羽化して、木々にとまって賑やかに鳴く成虫のセミです。なぜ、成虫のセミではなく、ぬけがらを調べるのでしょう?成虫のセミは飛んで木々の間を移動します。ですから、捕まえた場所が生息場所とは限りません。それに対して、ぬけがらは、土の中で何年もかけて成長した幼虫が、地上に出て、羽化した置きみやげです。つまりその森で幼虫として生息していた事がわかります。だから様々な森のセミのぬけがらを調べれば、それぞれの森に生息するセミの種類がわかると予想しました。
 もう一つ、植物園ならではの事情もありました。植物園は研究のための植物園ですから、動植物の採集は原則禁止です。捕虫網も、特別な許可を得た場合以外は、園内に持ち込めません。昆虫少年・少女が捕虫網を持参して来園したときには、事情を説明して、園内散策が終わるまで捕虫網は植物園事務室で預からせていただいています。植物園で実施するイベントといえども、捕虫網は使えません。でも、ぬけがらならば網がなくても集められます。もちろん採集の許可を得てから、です。

明るい森(サクラ山)で採集。
暗い森(常緑樹見本園)で採集。
高くて届かない時は大人に助けてもらう。


いったいどんな風に調べるの?
 異なる種類の森、例えば暗い常緑樹の森と明るい落葉樹の森やサクラ山、あるいは針葉樹の森など、2〜3ヶ所選定します。子どもたちは(もちろん大人も)谷垣先生の「ヨーイ、ドン!」の合図と共に一定の時間(10〜15分程度)、決められた森の中で一生懸命ぬけがらを探し、集めます。森ごとに集めたぬけがらは、実習室にもどって谷垣先生の指導のもと、種類と雌雄を識別し、仕分けをします。仕分けができたら、ぬけがらを数えて表にまとめます。同時に色模造紙にぬけがらをボンドで貼り付けて、実物のグラフを作成します。

主に見つかったぬけがら。
(左より)
アブラゼミ・ツクツクボウシ・ニイニイゼミ

自分が採集したぬけがらを観察。
ぬけがらの同定と雌雄の識別をして仕分け。
色模造紙にエリア別、種類別、雌雄別に
ぬけがらをボンドで貼り付けて
実物を使ったグラフを作成。
完成した実物グラフ。
完成した実物グラフを囲み、議論する参加者。

結果を見てみましょう
 表に11年間の調査の結果を示しましたが、実は針葉樹の森が含まれていません。調査開始から3年目に針葉樹の森を調べましたが、サクラ山の明るい森に比べ、ぬけがらの出現率が大変に低かったので、以後調査の対象からはずしました。針葉樹の森ではどうしてぬけがらの出現率が低かったのでしょう?皆さんはどんな風に推理しますか?
■さて11年間の調査で最も沢山見つかったのはアブラゼミでした。
ニイニイゼミやツクツクボウシに比べると桁違いの多さでした。
■夏の初めの7月下旬から8月5日ころまではサクラ山の明るい森ではアブラゼミの出現が多く、
常緑樹の暗い森ではニイニイゼミが見つかっていました。
■一方、夏の終わりの8月下旬ころになると、
明るい森と暗い森でアブラゼミはほぼ同じくらいだったのに対し、ニイニイゼミは暗い森の方が多かったです。
■ツクツクボウシは夏の終わりに良く見つかっており、発生時期が遅いことがこの調査からもよく分かります。
11年間の調査で1回、1匹だけクマゼミのぬけがらが見つかっています。
都会ではクマゼミが増えていますが、植物園でも今後増えて行くのか、気になる所です。



セミの好きな森は?
 ニイニイゼミは出現数は少なかったですが、暗い常緑樹の森を好むようです。ツクツクボウシは出現時期が遅いものの森の種類にはあまり依存していませんでした。最も出現数の多かったアブラゼミは明るい森を好む傾向があるようですが、暗い森でも夏の終わりには明るい森と同じくらい現れていましたから、森の好みだけでなく、森の種類によって出現時期を変える「何か」があるのかも知れませんね。
 幼虫は地中で長い時間をかけて成長します。その時、木の根から樹液を吸うと言われています。幼虫の好きな森は、幼虫の好きな樹液のある森と言えるかも知れません。様々な森を造成してきた森の植物園は色々なセミが好きな樹液とめぐり会えるチャンスがあると言えそうです。


参考情報
 植物園では2009年から小学生向けのサマースクールを開催してきました。その2年目にあたる2010年から2015年まで「セミのぬけがら調査隊」、2016年からは「森の教室」として開催。
 2013年は宮武賴夫先生(大阪市立自然史博物館・元館長)が、また、2019年は伊藤ふくお先生(NPO法人やまと自然と虫の会理事、生態写真家)が講師をつとめられた他は一貫して龍谷大の谷垣岳人先生が講師を。2020年も継続観察のため、条件をこれまでとほぼ同様にするために、子どもと大人数名の協力を得て、限られたメンバーで調査を行いました。