大阪市立大学理学部数学科
大阪市立大学大学院理学研究科数物系専攻(数学分野)
ニュースレター2021

■密度の高い少人数教育■現代数学の最先端がここにある■

 数学は、すべての科学の基礎であり科学の言葉です。 現代の科学文明は数学なくしては存在しません。 また数学は、何ものにも縛られず、 純粋に人間の知的欲求、美意識から生まれた普遍の文化でもあります。
 当数学教室では、これらを共通の認識として、自由な学問的雰囲気の中、 知ることへの憧れ、考えることの楽しさ、問題解決の喜びを大切にして、 物事の本質を見極め、自由で独創的な発想ができ、 自らが理解したことを正確に分かり易く表現できる人材を育成することを教育目標とし、 次のような学生を求めています。
・数学のアイデアに感動し、さらに深く探りたいと思っている人
・定理や公式の証明あるいはこれらを使った計算を、よりよく理解したいと願っている人
・過去に分からないままだった数学の内容について、疑問を抱き、粘り強く考えたい人
・さまざまな科学のなかで用いられる数理的な方法や捉え方に関心のある人
・数学のなかに現れる言葉(概念) や論理のもつ特有の普遍性や美しさが好きな人



進路状況 (2018年度〜2020年度累計)
学部
■企業:20名 ■公務員:4名 ■教員:9名
西日本鉄道、イオン保険サービス、日立システムズ、鈴与シンワート、SGシステム、 はくばく、シンプレクス、大阪教育研究所、市田、日本テクニクス、 アクトフォー、宇部興産、ソーバル、アズワン、南大阪研究所、関西みらい銀行、臨海
■大学院:25名
京都大学大学院理学研究科、大阪大学大学院理学研究科
大学院
前期博士課程
■企業:10名 ■公務員:0名 ■教員:2名
富士ソフト、キヤノン、三菱UFJ信託銀行、ARアドバンストテクノロジー、りそな銀行、 ハカルプラス、メイテックフィルダーズ、日研トータルソーシング、ヤフー、 NECキャピタルソリューション
■大学院:4名

後期博士課程
■日本学術振興会特別研究員(PD):0名
■数学研究所(研究所員):2名 ■大学教員:3名
日本学術振興会 特別研究員
 大学院博士課程在学者および大学院博士課程修了者等で、すぐれた研究能力を有し、 大学その他の研究機関で研究に専念することを希望する人たちを、 日本学術振興会が「特別研究員」に採用し、研究奨励金を支給しています。 2016年度から2020年度の間に3名(DC1に0名、DC2に3名)が採用されました。
集中講義
●幾何構造論特別講義 I・II
symplectic多様体のHofer-Zehnder容量とその周辺
入江 博(茨城大学)
2021年10月25日(月)〜10月29日(金)
●代数構造論特別講義 I・II
モチーフの円分p進L関数について
落合 理(大阪大学)
2021年11月29日(月)〜12月3日(金)
●解析学特別講義 I・II
非線形消散型波動方程式の初期値問題の
時間大域解
若杉 勇太(広島大学)
2021年12月6日(月)〜12月10日(金)
受賞
・2021年7月27日〜29日の間、韓国の慶北大学をホストとして、 The 12th KOOK-TAPU Joint Seminar on Knots and Related Topicsと同時に開催された The 14th Graduate Student Workshop on Mathematicsにおいて、 日本12、韓国12の計24名の大学院生による数学と応用数学の講演がありました。 本学からは Young Mathematician 賞を、Luis Pedro さんと高溝史周さんが、 Best Presentation 賞を芭瀬田保さん、Habibi Sadaf さん、甲斐大貴さんが受賞しました。
・理学研究科では在学中に特に優れた研究業績をあげた 前期博士課程の大学院生に対して 研究業績優秀賞を授与しています。 数学分野からは2021年3月24日に芭瀬田保さんがこの賞を受賞しました。
・理学部では在学中に特に優れた成績をあげた4年生に対して 学業成績優秀賞を授与しています。 数学科からは2021年3月24日に小林史弥さんがこの賞を受賞しました。
・理学部では2年次前期までに特に優れた成績をあげた2年生に対して 学修奨励賞を授与しています。 数学科からは2020年12月15日開催の大阪市立大学顕彰式典において、 橋本涼介さんがこの賞を受賞しました。
先輩の声
塚本真由 (山口大学創成科学研究科 助教)
略歴:
2018年6月
  大阪市立大学大学院理学研究科
  数物系専攻後期博士課程修了
2018年7月-2019年1月
  大阪市立大学数学研究所
  専任研究員
2019年2月- 現職
 大阪市立大学には、学部、大学院、数学研究所と約10年間お世話になりました。
 私にとって市大で最も思い出深い場所は学術情報総合センター(学情)です。 学情は市大の大きな図書館です。 私は学部生の頃は3階や7階の数学書の棚の近く、 大学院生になってからは地下3階の個室で毎日のように勉強していました。 数学の勉強は本を読むことが大半なので、 充実した蔵書を持つ学情は市大数学科の大きな強みの一つだと思います。
 また、市大数学科には自主ゼミ(学生同士で行う勉強会)や 大学院生が主催する談話会(非専門家向けに行う研究紹介)など 学生が主体的に数学に取り組む雰囲気があります。 さらに学生の研究活動を経済的な面から支援する制度も整っています。 実際に私もシンガポールやイギリスなどへの渡航費用を援助していただき、 講演などを通じて海外の研究者の方と交流する貴重な経験を積むことができました。
 このような充実した環境に加えて、 優しく見守ってくださった先生方やお互いに切磋琢磨できる友人達に恵まれ、 私は市大数学科でとても有意義な時間を過ごすことができました。
 大学生活の過ごし方には様々な選択肢があるかと思いますが、 もし大学の数学が好きだと感じたのなら 周囲の環境を存分に活かし精一杯勉強してみてはいかがでしょうか。

学生生活
今村春葵(数学科2回生) 田中良拓(数学科3回生) 高溝史周(大学院後期博士課程3年)
 私が理学部数学科に入って感じた, 高校までとの違いについて述べようと思います。 予め断っておくと,数学という学問に高校数学・大学数学なる別が 本質的に存在するわけではありません。 しかし高校までと大学以降とで何に主眼を置いて 数学と向き合うかが異なるのは事実です (大学では学部学科によってもスタンスが異なります)。 高校では学習指導要領にもある通り, 数学教育を通じて数学の知識のみならず論理力や それを基にした思慮深い市民性の獲得を目指しているようです。 一方理学部数学科では,勿論これらの目的を軽んじるわけではありませんが, 数学そのものの探究に主軸が置かれます。
 数学科に入ると最初に集合論を学ぶことになります。 私見ですがこれは数学科の醍醐味の一つだと思います。 集合自体は数学Tにも登場しますが, 高校で集合を明確に意識することは少ないでしょう。 一方現代の数学では,集合が全ての土台を成していると言っても過言ではありません。 今はまだ想像しがたいかもしれませんが, 数学は様々な概念を抽象化するごとに冴え渡り,壮観な光景が広がり行くのです。
 とは言え私が見て来た数学の世界など高が知れているでしょう。 是非あなた自身の目で観ていただきたいと思います。 平坦な道程ではありませんが,励まし刺激し合える学友が居て, 指南してくださる先生が居て,先人の知恵が蓄積された図書館があります。 数学や人生について悩み,考え抜くのもまた輝かしい青春のその一つだと思います。
 数学科で学ぶ数学についてとこの大学の数学科の特徴、 それから数学科の大学生活の3点について述べていきます。 少しでも読んでいる方の役に立てればと思います。
 まずは数学について。中高で扱ってきた数学はあくまでも“一例”にすぎません。 例えば、「関数」と聞けばxとyの実数同士の対応だと認識するでしょうが、 それが実数である必要はどこにあるのでしょうか。 “なにか”から“別のなにか”への対応もまた関数となりうります(写像ともいいます)。 高校まで学んだことを踏まえてさらに大きく拡張するのが大学数学です。
 次に本学の数学科の特徴について。 理学部数学科は少人数制となっており学生間の関係性が密となり常に協力関係にあります (少なくとも私の同期はそうです)。 わからないことがあればお互いに聞きあい、 また少人数ゆえに先生に質問しやすいです。 先生たちはみんな優しく、いつでも丁寧に解説してくださります。 授業中やその前後、メールで質問することもあるでしょう。 数学を学ぶ環境としてはこの上ないと断言します。
 最後に大学生活について。3回生までは数学知識を蓄える期間で、 4回生になったらゼミに配属し興味のある分野や得意ジャンルを突き詰めていきます。 それゆえ3回生までの間は自分の興味がどこにあるのかを見極める期間ともいえるでしょう。 だからこそどの授業も手が抜けなくて辛く、でも同時に楽しいです。 数学が好きであればきっと乗り越えられるでしょう。 数学が好きであるならば、ぜひ数学科に入りましょう。
 私は塾の専任講師に一時在籍した後、大阪市立大学には博士後期課程で入学しました。 そして数学の研究を通して様々なことを学びました。 その中でも「自分のイメージを数式に書き起こす力」と 「結果を簡潔にまとめる力」については、 高校生に向けた授業や教材づくりとは異なる点が多々あり新鮮に感じられました。
 研究は常に手探りのところから始まるため、研究によって得られる結果や手法は、 異なる分野では類似の結果や手法はあれども基本的には全く新しいものになります。 そのため、研究においては自分が思いついたもの・イメージしたものを 数式で表現することはとても重要になります。 それも数式に書き起こす際には、 他者にとって分かりやすく感じられるよう簡潔にまとめる必要があります。 特に論文作成の段階で簡潔にこれらの重要性を強く感じました。 こうして学位論文の作成までたどりつくことができたのは、 支えて下さった方々と指導教員の熱心な指導あってのものだと考えています。
 気づけばあっという間でしたが、 同時に、多くの学びを得ることができたとても充実した期間でもありました。 博士後期課程への進学は私にとって大きな決断ではありましたが、 現在ではそれに見合う以上の学びを大阪市立大学で得ることができたと感じております。

◆学位論文公聴会
 後期博士課程(主として3年次)の大学院生などによる学位論文公聴会が不定期に行われます。 2021年度は2022年2月3日(木)に行われました。 上の写真はそのときのものです。
行事の紹介(1)
◆進学就職説明会
 毎年秋に学部生、大学院生向けに進学就職説明会が行われます。 (2021年度は2021年11月18日(木)に行われました。)
◆修士論文発表会
 毎年、前期博士課程2年次の大学院生たちによる修士論文発表会が行われます。 (2021年度は2022年2月4日(金)に行われました。)
◆卒業研究発表会
 毎年、学部4回生による卒業研究発表会が行われます。 (2021年度は2022年2月10日(木)に行われました。)
◆数学院生談話会
 大学院生の大学院生による大学院生のための談話会が行われています。 これを通して大学院生同士の分野を超えた交流を深めています。

行事の紹介(2)
市大授業
 理学部5学科(数学、物理、化学、生物、地球)から各1名の教員が、 関連分野や研究についての最先端の話題を高校生向けにアレンジし、 実演等を交えた授業を提供しています。 毎年春に開催され、内容はもとより、大学の施設や雰囲気を同時に味わうことができます。 2021年度は4月29日にオンライン開催しました。

(写真は2020年度)
オープンキャンパス
 オープンキャンパスは例年夏休み期間中に行なわれます。 大学の数学科の生の雰囲気を味わう良い機会です。 2021年度は8月10日から8月23日にまで 大阪公立大学(仮称)WEBオープンキャンパスとして実施、 8月12日、8月20日の2日間にわたって Zoomによるオンライン相談会も行われました。

(写真は2020年度)
高等学校・大阪市立大学連携数学協議会(連数協)
 数学科教員が所属する大阪市立大学数学研究所は、 高大連携の新しい試みとして2005年4月に 「高等学校・大阪市立大学連携数学協議会(略称、連数協)」を立ち上げ、 数学入門セミナー、ワークショップ、シンポジウム等を行なってきました。 2021年度は11月20日に第17回連数協シンポジウムを 対面とZoomによりハイブリッド開催しました。
理学研究科FD研修会(数学研究所共催)
新たな大学院教育の展開のためのFD研修会 ― イノベーション と 数学 ―
 理学研究科では例年、 大学教員の教育能力の向上を趣旨とし、 分野横断的に FD 研修会を開催しています。 一方 COVID-19 の流行に伴い、 2021年度も本学において多くの授業が遠隔での実施を余儀なくされました。 そこで FD 研修会も、 2022年3月11日にハイブリッド形式で開催しました。 イノベーションと数学と銘打った本研修会は、 来るべき時代の技術革新において、 数学の果たすべき役割を模索する良い機会となりました。
教員一覧 (2022年3月現在)
教授 秋吉 宏尚
双曲幾何と3次元多様体論
准教授 阿部 健
偏微分方程式論
教授 伊師 英之
リー群の表現論、非可換調和解析
教授 大仁田 義裕
微分幾何学、調和写像論
教授 尾角 正人
可積分系と表現論
准教授 加藤 信
大域解析学(多様体の幾何解析)
准教授
(卓越研究員)
神田 遼
環論, 非可換代数幾何学
准教授
(卓越研究員)
小池 貴之
複素幾何学、多変数函数論
准教授 佐野 昂迪
L関数の特殊値と岩澤理論
教授 砂川 秀明
双曲型および分散型の非線形偏微分方程式
教授 高橋 太
変分法、非線形偏微分方程式論
教授 田丸 博士
等質空間の微分幾何学
教授 橋本 光靖
可換環論と不変式論
准教授 M野 佐知子
複素解析、多変数関数論
教授 古澤 昌秋
保型表現と保型L函数
准教授 宮地 兵衛
Hecke環の表現論と圏化
准教授 山名 俊介
モジュラー形式とL関数
准教授 吉田 雅通
エルゴード理論、力学系に基づく作用素環論


大阪市立大学
大学院理学研究科 数物系専攻 (数学分野)

住所:〒558-8585 大阪市住吉区杉本3丁目3番138号
電話番号:06-6605-2518  FAX:06-6605-2515
URL:http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/math/index.html

※2022年4月1日より大阪公立大学大学院理学研究科数学専攻となります。