希釈冷凍器

数百mK 〜数mK の温度環境を作り出すには、希釈冷凍器を用いる。これはヘリウム3・ヘリウム4混合溶液の性質を用いた連続型の冷凍器である。物理的・熱力学的解説は後回しにして、まずは全体像を解説しよう。

全体図は以下の通りである。

冷凍器は、ヘリウム4系とヘリウム3系の2系統に分かれる。

ヘリウム4系

上の図で、緑の矢印で書かれているのがヘリウム4系であり、1Kポット(凝縮器:コンデンサー)と排気ポンプから成る。1Kポット中の液体ヘリウム4をポンプで排気することにより冷却能力を得る。通常はインピーダンス(あるいは流量調整弁)を介して外部(魔法瓶)から直接4.2Kの液体ヘリウム4を取り込むことにより、連続的な運転が可能となっている。最低温度はおよそ1Kである。

1Kポットはコンデンサーという名の通り、希釈冷凍器を循環するヘリウム3を液化する役割を担う。

ヘリウム3系

希釈冷凍器の本体は、様々な部品から成る。ここではまず、ヘリウム3に関する最も主要な部分3つを解説する。

Pump(循環ポンプ)

ヘリウム3を循環するためのポンプである。通常のポンプとは違い、ヘリウム3が外気へ逃げないような構造になっている。希釈冷凍器の冷却能力はヘリウム3の循環量に大きく依存するため、目標とする冷却能力によっては2段(ブースターポンプ)、3段(ブースターポンプx2)式にすることがある。

Mixer(混合器)・Mixing Chamber

希釈冷凍器の心臓部にして、もっとも温度が低い場所(約5mK)。相分離した液体ヘリウム3・4混合液の界面が存在する。上半分はC相と呼ばれるヘリウム3濃厚相であり、1Kポット(コンデンサー)から絶えずヘリウム3が供給されている。下半分がD相とよばれるヘリウム3希薄相(濃度約6%で、残りが超流動ヘリウム4)であり、次に述べる Still と繋がっている。

Mixer において、ヘリウム3はC相(エントロピー大)からD相(エントロピー殆どなし)へ強制的に移動させられる。このときに生ずるエントロピー差が冷却能力を生んでいる。

Still(分溜器)

Mixer のD相にあるヘリウム3だけを選択的に蒸発(分溜)させる部分。Still の温度をある特定のの温度(0.8K以下)に保たれる。これは、ヘリウム4の蒸気圧は0だが、ヘリウム3の蒸気圧は有限に保たれる(蒸気圧曲線参照)現象を利用するためである。

もっとくわしく

現実の希釈冷凍器をもっと詳しく描くとは、下の図のように非常に沢山の部分から成っている。

LN2 Trap 液体窒素中を通り、3Heポンプから3He ガスと同時に排出される油蒸気を排除する吸着ポンプの一種。
He Trap LN2 Trap でも取りきれなかった汚ガスを取るためのトラップ。だめ押し。
Vacuum Can 液体ヘリウム中にある断熱真空層。冷凍器の低温部分は、すべてこの中にある。
Main-Z 主インピーダンス。3He の流れに対する抵抗をつけ、1K Pot 温度での圧力を維持し、液化させる。
Still Heater/
Film Burner
Still Heater は、Still 温度を一定に保ち、蒸気圧をコントロールするためのヒーター。
Film Burner は、Still 中の超流動ヘリウム4が、容器壁をフィルムフローによってはい上がってくるのを、妨げる働きがある。
HX-1/HX-2 (HX-1)連続型、(HX-2)ステップ型熱交換器。アルファベットの名称は仮に付けただけで、正式名称ではない。 いずれも、Mixer から来る冷たい液体ヘリウムを利用して、Mixer に入る液体ヘリウム流を冷やす役目を持つ。 100mK クラスの希釈冷凍器では、HX-2 が省略されている。
Sub-Z 副インピーダンス。Mixer へ向かう液体ヘリウム流が気化することを防ぐ。
主インピーダンスにくらべてかなり弱く、必要ない(HX1で十分な)場合もある。
Radiation Shiled 真空中でも、黒体輻射による熱伝導が生ずる。この熱伝導率は温度の4乗に比例するため、4.2K とMixer の温度の間で、金属の光遮蔽板(筒)を入れる事がある。断熱消磁する場合は、さらにMixer Shield を増設する。
Helium Recovery Dewar 内の蒸発ヘリウムおよび、1Kポットで排気されたヘリウムガスを回収する装置。
Dewar 液体ヘリウムをためるための魔法瓶。

では、次にヘリウム3・4混合液の物性について見てみよう。


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