1.はじめに

  光合成という言葉を聞くと生物(植物)をイメージされる方が多いと思います.理科の教科書には小学校の頃から登場し,地球上の全ての生命活動が太陽エネルギーによって支えられていることが説明されています.光合成はつぎのような化学反応式で表されますが,この反応式は光合成全体における物質のトータルバランスを示しているにすぎません.実際の光合成は化学の大工場ともいうべきシステムで,その中にはタンパク質(酵素)によって進行する数多くの行程が含まれ,様々な物質の変換が行われています.この反応式に現れているのは,その工場に入っていく原材料と,工場から出荷される製品と言えます.

  ここ20年ほどの間にX線結晶構造解析の技術が格段に進歩し,その化学工場の内部の仕組みを実際に目にすることができるようになってきました.(最近のインターネット講座で詳しく紹介されています).特に光合成の最大の特色である「光エネルギーを使った化学合成のしくみ」についてはようやくその謎が解明されたと言えます.今回の講議では,太陽光を化学エネルギーに変換する光合成のメカニズムとそれを模倣した(化学的)人工光合成へのとりくみについて紹介します.

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