4.光合成を化学する

  光合成反応は光合成膜に存在するタンパク質の中で行われています.タンパク質の重要な役割の一つは,光合成に必要な部品(分子)を規則正しく並べるはたらきです.ではこれらの分子を同じように並べれば光合成を人工的に再現できるのでしょうか?第7回の講議でも解説されているように,化学的にタンパク質の機能を再現することによって,より詳しい反応メカニズムを明らかにすることができます.

  化学の分野でも光合成に対するアプローチが積極的になされています.化学合成によって,生物が使っていない分子を作りだし,それを用いて反応のメカニズムを解明したり,生物よりもっと性能のよいものをつくり出したりすることが期待されています.

(1)スペシャルペア
  スペシャルペアはクロロフィル単量体と比べて大きく異なる性質をもちます.スペシャルペアを模倣した色素2量体がいくつか報告されています.

(2)光電子移動
  光電子移動は,化学的にも非常に興味がもたれていることから,理論・実験の両方において数多くの研究報告があります.これらを通して分かったことは,電子移動反応が酸化還元電位・エネルギー状態・分子間距離・媒体(溶媒など)の性質・温度など多くの因子によって大きく影響を受けるということです.
  電荷分離状態をつくり出すことは比較的容易にできますが,電子はすぐに再結合してしまうため,超寿命の電荷分離状態をつくり出すためには,光合成反応中心と同様にたくさんの分子を配列させる必要がある事が分かりました.分子の改良を重ねるうちに,電子をうまく運ぶためには並べる分子の酸化還元電位や分子間の距離を精密にコントロールすることが重要だと分かってきました.光合成では効率良く電子が流れるように分子の配置が最適化され,ほとんどロスなく電荷分離を達成していますが,人工分子ではなかなか簡単にはうまくいきません.人工系では光合成では使われていない分子も組み込むことができます.最近では,フラーレン(C60)分子を電子受容体として用い,電荷分離状態の寿命をのばすことに成功してた例も報告されています.


図4 多段階光電子移動を実現したモデル分子の例

(3)水の酸化酵素
  水を酸化して酸素を発生させる部分を担当しているマンガンクラスターはタンパク質を精製する過程で壊れやすいために構造解析でもまだ詳しく分かっていないところです.最近ようやくその姿を見せ始めたところです.どのように水を酸化しているのかが解明されれば,水から酸素や水素をとり出すための応用にもつながりそうです.

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