2022年度コロキウム


日時・場所 講演者 題目(概要:題目をクリック)
4月8日(金)
16:00〜
E211
中尾 憲一
(大阪公立大学)
Quantum radiation in gravastar formation II; without gravitational collapse

前回のコロキウムでは、black hole ではなく black hole mimicker と呼ばれる ultra-compact object を形成する重力崩壊に伴う量子論的粒子生成についての先行研究を紹介し、black hole mimicker の一つである gravastar (GRAvitational VAcuum condensate STAR) が最終生成物となる場合には、gravastar 内部の de Sitter geometry に関連した Gibbons-Hawking 温度の熱的放射が生成されるという新しい結果を報告した。今回は、Gibbons-Hawking 温度の熱的な放射について理解を深めるために、静的な球殻で囲まれた真空領域が突然正の宇宙定数で満たされ、gravastar が形成される簡素なモデルでの量子論的な粒子生成について解析した結果を紹介する。このモデルは重力崩壊も地平面形成も伴わないが、熱的な放射が生成される。
4月15日(金)
16:00〜
オンライン
工藤 龍也
(弘前大学)
コンパクト天体周りのPhoton Sphereの安定性とその近傍における光線の分類

1919年に,A. Eddington等によって太陽による光の曲がりが観測されて以来,この現象は重力理論の検証や物質探査のための道具として幅広く活用されてきた.2019年には,Event Horizon Telescopeグループによりブラックホール初撮像が報告され,今後は,強重力場における重力理論の検証が主軸となることが予想される.  本講演では,強重力領域の指標であるPhoton Sphere (PS)の安定性別に光線がどのような振る舞いをするか議論する.Unstable PSとMarginally stable PS近傍を通過する光の曲がりは発散することが知られているが,Stable PS近傍を通過する光の曲がりは発散しないことを示す.また,静的球対称時空における最外のPSがStableならば,時空は漸近的に非平坦であることを証明する.
4月22日(金)
16:00〜
E211
佐合 紀親
(大阪公立大学)
ブラックホール疑似天体を周回する粒子の運動と重力波

銀河中心に存在する大質量天体とそれを周回する恒星質量程度のコンパクト星からなる大質量比連星は、宇宙重力波望遠鏡LISAの主要ターゲットの一つである。一般に、大質量比連星からの重力波を予測する際には、中心の大質量天体をブラックホールと仮定 する。しかし、仮に中心天体がブラックホールに似た特異コンパクト天体である場合には、重力波波形にブラックホールの場合とは異なる特徴が現れると予想される。ブラックホールと特異コンパクト天体の違いは近傍のみに現れるとするならば、その違いを重力場方程式の境界条件の違いとして表現できる。本発表では、中心天体表面の境界条件をpure-ingoing条件から変更した場合に、周回するコンパクト天体の軌道進化と重力波波形がどのように変化するのか、また、その変化をLISAで検出できるのかを議論した最近の研究について紹介する。
5月12日(木)
14:30〜
オンライン
波場 直之
(大阪公立大学)
何故、標準模型を超える物理を考えるのか?

素粒子の標準模型をM1向けにまず解説いたします。次に、何故、標準模型を超える物理を考えるのか?をみていきます。私はこれまで標準模型を超える物理についてたくさんの探求をしてきました。その中から3つほどを簡単に紹介したいと思います。
5月20日(金)
16:00〜
E211
中村 康二
(国立天文台)
Gauge-Invariant perturbation theory on the Schwarzschild background spacetime including l=0,1 mode

  We have been developing a higher-order gauge-invariant perturbation theory on a generic background spacetime from 2003 [1]. In 2013, we proposed “zero-mode problem” for linear metric perturbations, which is the problem of the treatments of some special modes in perturbations, is an essential problem in this formulation [2]. In the perturbation theory on the Schwarzschild background spacetime, l=0,1 modes of perturbations correspond to the above “zero-mode” and the gauge-invariant treatments of these modes including their reconstruction of the original metric perturbation is a famous non-trivial problem in perturbation theories on the Schwarzschild background spacetime.
  In [3], we proposed a gauge-invariant treatment of the l=0,1-mode perturbations on the Schwarzschild background spacetime, and the above “zero-mode problem” was resolved for the perturbations on the Schwarzschild background spacetime. As a result, we can extend our gauge-invariant linear perturbation theory on the Schwarzschild background spacetime to any-order perturbations through the arguments in [4]. Then, we reached to a simple derivation of the formal solutions of any-order mass, angular-momentum, and dipole perturbations on the Schwarzschild background spacetime. Further, in the series of the full-papers of this work [6], we showed our derived solutions for l=0,1-mode linear metric perturbations realize two exact solutions.
  This talk is based on our works [6].

[1] K. Nakamura, Prog. Theor. Phys. 110 (2003), 723; ibid., 113 (2005), 413.
[2] K. Nakamura, Prog. Theor. Exp. Phys. 2013 (2013), 043E02.
[3] K. Nakamura, Class. Quantum Grav. 38 (2021), 145010.
[4] K. Nakamura, Class. Quantum Grav. 31 (2014), 135013.
[5] K. Nakamura, Letters in High Energy Physics, 2021 (2021), 215.
[6] K. Nakamura, arXiv:2110.13508v5 [gr-qc]; arXiv:2110.13512v3 [gr-qc]; arXiv:2110.13519v3 [gr-qc].
5月27日(金)
16:00〜
E211
神谷 好郎
(東京大学)
微視的スケールにおける等価原理の検証にむけて

  量子力学により記述されるような微視的スケールにおいて、重力相互作用はどのように理解されうるのだろうか。

  本コロキウムでは、重力を理解するための手掛かりを探る実験的な試みの一つとして、微視的スケールにおける等価原理の検証実験計画を中心に紹介する。地球重力により束縛された中性子の量子束縛状態をプローブとして用いたもので、このような量子束縛系を用いた実験手法が、重力の量子性や量子論の基本原理の検証実験などへも応用していけるのか、その可能性も議論したい。
6月3日(金)
16:00〜
E211
小川 達也
(大阪公立大学)
ソリトン星としての“グラバスター”

ブラックホールには、特異点問題や情報喪失問題といった未解決問題が存在することが知られている。これらの問題を解決するために提唱されたblack hole mimickerの一つにグラバスターというものが存在する。グラバスター内部は宇宙定数で満たされているとされているが、具体的な形成過程などは明らかにされていない。近年我々は、複素スカラー場・U(1)ゲージ場・複素ヒッグス場の結合系においてノントポロジカルソリトンと呼ばれる、電荷を有した古典解を構成し、内部が宇宙定数で満たされるような解が存在することを明らかにした。本講演ではこのNTS解に重力場を結合させることでグラバスター解が実現できることを示し、その性質について論じる。
6月10日(金)
16:00〜
E211
加藤 亮
(大阪公立大学/熊本大学)
パルサータイミングアレイによる重力波検出

パルサーとは、地球にパルスを放出する中性子星のことである。パルス周期の精度は、原子時計に匹敵する。パルス周期を正確に予想することで、重力波を検出することができる。多数のパルサーを用いて、重力波検出を目指す試みのことをパルサータイミングアレイと呼ぶ。パルサーは、天の川銀河全体に分布することから、パルサータイミングアレイは、銀河スケールの重力波検出器だと考えられる。本発表では、仮想的な重力波のデータを用いて、重力波がどのように検出されるのかについて述べる。また、実際のデータを解析した結果について述べる。
6月17日(金)
16:00〜
E211
杉山 祐紀
(九州大学)
2つの荷電粒子と光子場の相互作用に関する研究 : 量子もつれ生成と光子場の非可換性について

  重力と量子力学の統合(量子重力理論)は未だなされておらず、そもそも重力が量子力学に従うかすら実験的にも確かめらていないという現状である。
  そんな中、近年、ニュートン重力による量子もつれ生成に着目したBMV実験の提案は様々な議論を生んでいる。
  本講演では、このBMV実験の提案で議論されていない動的な場が量子もつれ生成へ果す影響(arXiv:2203.09011[quant-ph])を前半に行う。次に、後半では、ニュートン重力による量子現象と重力場の量子化の間の関係を論じた研究をもとに提案された”パラドックス”に対して、最近行った研究(arXiv:2206.02506[quant-ph])を紹介する2部構成を想定している。
6月24日(金)
16:00〜
E211
松村 央
(九州大学)
Role of matter coherence in entanglement due to gravity

近年、重力の量子性を検証しようとする試みが議論されてきている。そこでターゲットになっているのは、量子的な物質がつくる重力場であり、その重力場を介して生成される量子もつれである。重力による量子もつれは重力の量子性を示す指標として期待され、その検出に向けた理論的・実験的な研究が進んでいる。本講演では、物質の量子的な重ね合わせと重力による量子もつれの関係を量子情報理論に基づき解析する。物質の量子的な重ね合わせをコヒーレンスという量で特徴づけ、重力による量子もつれを量子もつれ写像という概念で見直す。その結果、重力による量子もつれが生成していなくても、物質がコヒーレンスをもっているとき、重力が量子もつれ写像を引き起こすことを示す。これは、物質のコヒーレンスが重力による量子もつれ写像のソースであることを意味する。
7月1日(金)
16:00〜
オンライン
水野 陽介
(上海交通大学)
Event Horizon Telescopeによる天の川銀河中心の巨大ブラックホールSgr A*の直接撮像

Event Horizon Telescope (EHT) Collaborationは、1.3mmの波長の超長基線電波干渉計によって天の川銀河中心にある巨大ブラックホールSgr A*のごく近傍を観測し、その影の存在を初めて画像での示した。得られた画像は、M87*と同様に、リング状の構造を示し、その直径は約50マイクロ秒角であることが分かった。これは、一般相対論から理論的に予言されたブラックホールシャドウの特徴と一致し、約400万太陽質量のブラックホールが存在する直接的な証拠を与えた。さらに、今回のEHT観測データと、同時期の他波長の観測データを使い、理論シミュレーションモデルと比較することで、時空構造や理論モデルに対する制限が行われた。本講演では、Sgr A*の観測から画像化までのプロセスに加えて、数値シミュレーションを交えた結果の理論的解釈や将来展望について概観する。
7月15日(金)
16:00〜
E211
末藤 健介
【M2修論中間報告】

村上由三
【M2修論中間報告】
曲率特異点を解消したブラックホールの情報損失問題について

  一般相対性理論はブラックホールという興味深い対象を予言したが、ブラックホールには曲率特異点の存在や情報損失が生じるといった問題も孕んでいる。これらは一般相対性理論に量子効果が含まれていないことに起因すると考えられているが、一般相対性理論と量子論を組み合わせた量子重力理論は完成していない。
  本発表では量子重力理論では曲率特異点が解決されるという仮定に基づき、曲率特異点を解消した時空での情報損失問題について論じる。


Kerrブラックホールの摂動

  今回の発表は、「superspinnarの境界条件問題」という修論に向けた中間報告である。
  Superspinnarとは、高速回転するコンパクト天体であり、その外側の時空はover-spinningなKerr時空と一致する。P. Pani, et al.(2010). では、重力場摂動に対するsuperspinnarの安定性を調べると、表面に境界条件(完全反射条件・完全吸収条件)を課した場合、不安定になることが示されている。これに対して、K.Nakao, et al.(2017)では、superspinnarが安定に存在する境界条件が無数にあることが示されている。
  本発表では、superspinnarの安定性を議論するために必要である、Kerr時空の摂動について勉強している内容を説明する。
7月22日(金)
16:00〜
E211
本橋 隼人
(工学院大学)
Theory of quasinormal modes

ブラックホール準固有振動は、連星ブラックホール合体直後に生じるリングダウン重力波や、ブラックホールに粒子が落ちていくときに生じる重力波を特徴付ける減衰振動であり、ブラックホールの質量と角運動量のみで決まるため、動的・強重力系における重力理論検証の観点から最も重要な物理量の一つと考えられている。準固有振動はブラックホール時空の実効ポテンシャルを持つシュレーディンガー方程式に対して外向き進行波の境界条件を課して解くことで求めることができるが、複素数の振動数を持つため、時間一定面では遠方で場が指数関数的に発散するという特徴を持つ。このため二乗可積分関数ではなく、通常の量子力学で用いられる内積を用いた規格直交性、完全性、固有関数展開などの議論が適用できない。一方、外向き進行波の境界条件を課したシュレーディンガー方程式は、開放系の量子力学の問題として知られている。そのような状況は共鳴現象や不安定原子核などで現れるため、古くから研究が行われてきた。本講演では、原子核分野で知られる不安定状態のゼルドビッチ正則化の一般化に対応する有限な内積を、ブラックホール準固有振動に対して考える。これを利用して準固有振動の理論を定式化するとともに、その応用について議論する。
7月29日(金)
16:00〜
E211
田村 悠陽
【M2修論中間報告】

松尾 賢汰
【M1夏学前発表】
RNDS時空中のテスト粒子の解析

  David Kastor さんと Jennie Traschen さんの論文Cosmological multi-black-hole solutionsのレビュー
  Einstein-Maxwell方程式の解析的な解を与え、正の宇宙定数を持つ時空における荷電ブラックホールの集合を考え、Λ>0解の力学的・熱力学的性質やMP解の性質を一般化します。


ブラックホールまわりの磁場構造

  ブラックホールまわりには降着したガスが高速で回転して高温になったプラズマがあり、そのプラズマが磁場を作っていると考えられています。この磁場を解析することは例えばガンマ線バーストの起源、または巨大ブラックホールの謎を解明する鍵になると推測されます。しかし、磁場の形状は複雑で初期条件や境界条件に大きく依存し他にも多くの問題があります。
  本発表では定常、軸対称でForce-free条件を課したときの磁場構造を決めるグラドーシャフラノフ方程式について調べている内容を説明します。
10月7日(金)
14:00〜
E211
吉野 裕高
(大阪公立大学)
Diosi-Penrose モデルにおける重力誘導デコヒーレンス

標準的なアプローチでは重力は最終的には量子化されるべきものと考えられているが、それとは異なる重力と量子力学の関係を追求するアプローチもある。例えば Feynman はデコヒーレンスの結果として重力が発生する可能性を言及している。このようなあまり主流でないアプローチに Diosi-Penrose モデルがある。このモデルでは時空に内在する重力ポテンシャルの揺らぎがあり、それが量子力学におけるデコヒーレンスを引き起こすと考える。今回はこのモデルの歴史的経緯をざっと概観し、自分の研究としてこのモデルでの波動関数の振る舞いを時間領域で計算する数値コードを書いているので、進捗状況を報告する。このようなアプローチ自体に意味があるか、このようなことを考えると面白いのではないかなどの議論ができればと思っている。
10月14日(金)
14:00〜
E211
松尾 賢汰
(大阪公立大学)
【夏の学校の報告会】
初代星と金属欠乏星について

宇宙が始まって数億年後に最初の恒星であり重元素を全く含んでいない“初代星”が誕生したと考えられています。しかし、現在までの観測では初代星と思われる星は一つも見つかっていません。その原因の一つとして初代星に星間物質(ISM)が降着して重元素を微量に含む”金属欠乏星”に見えているという説があります。そこで、まずはそのような降着が可能なのかを調べるために降着流のモデルを考えて、そのモデルでの流体シミュレーションの結果を考察したものを紹介します。
10月18日(火)
16:30〜
E211
白水 徹也
(名古屋大学)
【集中講義談話会】
時空の正エネルギー定理の威力と魅力

一般相対論において、時空の全エネルギーがゼロ以上であることが証明されている(正エネルギー定理)。これは時空が安定であること、すなわち私たちが住む空間が突然消えてなくなることはないことを保証する。さらに驚くべきことに、この定理は様々な応用が可能で、回転のないブラックホールや定常時空の「形」にも強い制限を与える。このような様々な観点からこの定理の威力と魅力について語りたい。
11月11日(金)
14:00〜
E211
森澤 理之
(大阪公立大学)
Null cohomogeneity-one stringとその周辺

Cohomogeneity-one(c1) stringとは、背景時空のKilling vectorに沿ったNambu-Goto stringである。 Null Killing vectorに沿ったc1 stringの振る舞いおよび関連する事柄について議論する。
11月18日(金)
14:00〜
E211
田島 裕康
(電気通信大学)
対称性・不可逆性・量子性の一般的トレードオフ構造とその応用

対称性・不可逆性・量子性は、それぞれ物理の根幹をなす基本的な概念である。本講演では、これらの間に普遍的に存在するトレードオフ構造を報告する[1,2]。このトレードオフ構造が持つ物理的メッセージは以下二つである。1. 大域的対称性が存在する時、その対称性に対応する保存量を局所的に変化させようとする局所的ダイナミクスは不可逆性を生む。2. しかし、この不可逆性は、量子的なコヒーレンスによって和らげることが出来る。このトレードオフ関係は、幅広い応用を持つ。第一に、このトレードオフは対称性が量子情報処理に与える様々な制限を統一し、拡張することが出来る。例えば測定への制限であるWigner-Araki-Yanase (WAY)定理[3,4]、ユニタリゲートの実装への制限であるunitary WAY定理[5,6]、量子誤り訂正符号に対する制限であるEastin-Knill定理[7,8]を、全てコロラリーとして再現/拡張することが出来る。第二に、このトレードオフは熱力学的不可逆性の基本的な指標であるエントロピー生成と量子コヒーレンスの間の一般的なトレードオフを与える。第三に、この定理は量子ブラックホールのqubitモデルであるHayden-Preskill(HP)モデル[9]に適用することで、ブラックホールからの古典および量子的な情報脱出に対し、エネルギー保存則がどのように影響するかの一般的なバウンドを与える。例えば、mビットの古典情報の内、平均して何ビットが回復不能になるか、などを、HPモデルの範囲の中で厳密に議論することが可能になる。本講演では、上記の結果について一通り説明する。特に、量子重力方向への応用に重点を置いて解説を行う。

[1] H. Tajima and K. Saito, arXiv:2103.01876 (2021)
[2] H. Tajima, R. Takagi, Y. Kuramochi, arXiv:2206.11086 (2022)
[3] E. P. Wigner, Zeitschrift fur Physik 133, 101–108 (1952).
[4] H. Araki and M. M. Yanase, Phys. Rev. 120, 622–626 (1960).
[5] M. Ozawa, Conservative Quantum Computing, Phys. Rev. Lett. 89, 057902 (2002)
[6] H. Tajima, N. Shiraishi and K. Saito, Phys. Rev. Lett. 121 110403 (2018)
[7] B. Eastin and E. Knill, Phys. Rev. Lett. 102, 110502 (2009).
[8] P. Faist, S. Nezami, V. V. Albert, G. Salton, F. Pastawski, P. Hayden, and J. Preskill, Phys. Rev. X 10, 041018 (2020).
[9] P. Hayden and J. Preskill, J. High Energy Phys. 2007, 120 (2007).
11月25日(金)
14:00〜
学情6Fセミナールーム
末藤 健介
(大阪公立大学)
【修論直前発表】
曲率特異点を解消したブラックホールの時空構造と情報損失問題について

一般相対性理論から予言されるブラックホールには情報損失問題や曲率特異点の存在といった未解決の問題がある。量子重力理論では、この2つの問題は解決されていると考えられているが、量子重力理論がどのような理論になるか人類は未だわかっていない。しかし、古典的な計量は有効的に重力を記述できると考え、重力崩壊により”ブラックホール”が形成され、蒸発していく過程において、中心の曲率特異点が解消された時空では情報損失問題が生じない時空構造になることが、近年HaywardやFrolovらの研究により明らかになった。
本発表ではReissner-Nordström ブラックホールの曲率特異点を解消した時空を導き、蒸発に際して情報損失問題が生じない時空構造になっていることを説明する。
12月2日(金)
14:00〜
E211
野澤 真人
(大阪工業大学)
Characterization of the Kerr metric

一般相対性理論における最も基本的なブラックホールとして、Kerr解が挙げられる。Kerr解は、軸対称・定常という対称性の他に、曲率で表されるような代数的な対称性も持ち合わせており、数理的観点からも興味深い性質を示す。本公演では、Kerr解の対称性と密接に結びついた障害テンソルについて紹介し、発散恒等式や唯一性定理への応用を議論する。
12月9日(金)
14:00〜
F212
村上 由三
(大阪公立大学)
【修論直前発表】
Superspinerの境界条件

今回の発表は、「superspinerの境界条件問題」という修論に向けた報告である。
Superspinerとは、高速回転するコンパクト天体であり、その外側の時空はover-spinningなKerr時空と一致する。したがって、ssuperspinerの安定性を議論するためには、Kerr時空の摂動方程式である、Tuekolsky方程式を解く必要がある。
本発表では主に、Tuekolsky方程式からHeun方程式への変換について、先行研究のレビューを行う。
12月16日(金)
14:00〜
E211
José M M Senovilla
(University of the Basque Country)
Ultra-massive spacetimes and their universal properties

In spacetimes with a positive cosmological constant the area of (spatially) stable marginally trapped surfaces (MTS) has a finite bound. I will prove that any such spacetime containing stable MTSs with area approaching the bound acquire universal properties generically. In particular, they possess `holographic screens’ (i.e. marginally trapped tubes) foliated by MTS of spherical topology, composed of a dynamical horizon portion and a timelike membrane portion that meet at a preferred sphere S with constant Gaussian curvature and the maximal area. All holographic screens change signature precisely at S, and all of them develop towards the past with increasing area without limitation. A future singularity, which must be quasi-universal, also develops. Examples and implication of this result will be discussed.
1月6日(金)
14:00〜
E211
松野皐
(元大阪市立大)
Exact solutions to Einstein-Dirac-Maxwell theories with Sasakian quasi Killing spinors

 発表者と石原秀樹氏は[1][2]において、大域的な磁場を持つ宇宙モデルとして、荷電ダスト流体と電磁場が重力源となるEinstein系の厳密解を構成した。ダスト流体は複合物質であるためより基本的な場による類似した性質を持つ古典解を構成できる可能性は高いと考えられた。本研究において、発表者と上野上野文寛氏はダスト流体の代わりに電磁場と結合したchiral spinorとそれが生成する磁場を物質としたEinstein-Dirac-Maxwell系の厳密解を構成した。
 本研究で考察するEinstein-Dirac-Maxwell系は以下である。(M,g)を4次元時空とし、U(1)-gauge場をA、そのfield strengthをF=dAとする。さらに2種類のchiral spinorをψ^±とする。このとき、作用は
S=∫_M(R−1/4||F||²+〈ψ^+,(D−m_+)ψ^+〉+〈ψ^-,(D−m_-)ψ^-)dv
で与えられる。ここでDはDirac作用素、〈,〉はspin不変内積、m_±>0はψ^±の質量である。さらに、我々は静的佐々木時空(空間部分が3次元佐々木多様体)上で、接触磁場と佐々木-擬Killingスピノル(Killingスピノルの佐々木多様体における一般化)を使い、先の系の厳密解を構成する。3次元佐々木多様体にはS^3型、Nil型、SL(2,R)型の3種類があり、それぞれに対して解が存在したが、S^3型以外はスピノル場のエネルギー密度が負となるExoticな状態であった。また本研究によって佐々木-擬Killingスピノルが相対論においても有用であることが分かった。本講演ではspin幾何の基礎事項をレヴューしてから、E-D-M系の解を構成し、物理的性質などを議論したい。
[1] Ishihara, Hideki, and Satsuki Matsuno. "Solutions to the Einstein-Maxwell-Current System with Sasakian maifolds." arXiv preprint arXiv:2012.02432 (2020).
[2] Ishihara, Hideki, and Satsuki Matsuno. "Inhomogeneous generalization of Einstein’s static universe with Sasakian space." Progress of Theoretical and Experimental Physics 2022.2 (2022): 023E01.
1月13日(金)
14:00〜
E211
松野 研
(大阪公立大学)
一般化された不確定性原理に基づく4次元Einstein-Gauss-Bonnetブラックホールからのスカラー粒子のホーキング放射

 荷電スカラー粒子のトンネリングによる4次元帯電Einstein-Gauss-Bonnetブラックホール[1]からのホーキング放射を調べた。最小の測定可能な長さを表す一般化された不確定性原理[2]によって予測される現象論的な量子重力効果を含めて議論した。その結果、一般相対性理論に対するホーキング温度の補正を導出した。この補正は、放出された粒子のエネルギー、Gauss-Bonnet結合定数、ブラックホールの電荷、およびブラックホール時空における最小長の存在に関連していた。また、修正された温度の極限を取ることにより、4次元ブラックホール時空におけるいくつかの既知のホーキング温度を得た。さらに、一般化された不確定性原理が、放射によるホーキング温度の上昇を遅らせて、ブラックホールの蒸発後にプランク質量程度の熱力学的に安定な残骸が得られる可能性があることがわかった。
[1] P.G.S. Fernandes, ``Charged black holes in AdS spaces in 4D Einstein Gauss-Bonnet gravity,'' Phys. Lett. B 805, 135468 (2020) [arXiv:2003.05491 [gr-qc]].
[2] A. Kempf, G. Mangano and R.B. Mann, ``Hilbert space representation of the minimal length uncertainty relation,'' Phys. Rev. D 52, 1108-1118 (1995) [arXiv:hep-th/9412167 [hep-th]].
1月20日(金)
14:00〜
E211
高橋 卓弥
(京都大学)
Axion cloud evaporation during inspiral of black hole binaries

 アクシオンのような超軽量ボソンはsuperradiant instabilityによって回転するブラックホール(BH)の周りに凝縮体(アクシオン雲)を形成する。重力波やBHの質量・スピンの観測から雲の存在を検出するためには連星BHに付随する雲の進化を考慮することが重要である。アクシオン雲は水素原子のようなエネルギースペクトルを持ち、ある準位間のエネルギー差と連星の軌道振動数が一致した時、共鳴的な遷移が起こる。本研究[1]では、まずこの共鳴における潮汐場の高次の多重極モーメントの寄与を調べた。その結果、連星の軌道運動への反作用を含めても、アクシオンは少しずつ高い準位に遷移されることがわかった。その後、それらのアクシオンはさらに非束縛状態へと励起され、等質量比程度の連星系ではインスパイラルの早い段階で雲は蒸発してしまうことを示す。
[1] T. Takahashi, H. Omiya, and T. Tanaka, PTEP 2022, 043E01 (2022), arXiv:2112.05774 [gr-qc].
1月27日(金)
14:00〜
E211
郭 優佳
(名古屋大学)
調和振動子ポテンシャル中の粒子を用いた重力の量子性の検証

 近年、BMV実験をはじめとして、重力の量子的な性質を実験室で検証する試みが提案されている。これらの検証実験の目的は、重力源が量子的な重ね合わせ状態にある時に、それに付随する重力場も量子的な重ね合わせ状態になるかどうかを明らかにすることである。
本講演では、弱い重力下において調和振動子ポテンシャル中に閉じ込めた量子時計の干渉実験を考える。ここで、量子時計とは内部自由度としてエネルギー準位系をもつ粒子である。その結果、干渉縞のデコヒーレンスが回復しないという性質が重力の量子的な性質を反映することを明らかにする。さらに、重力とクーロン力の量子性の違いを弱い等価原理の観点から議論する。
本研究は前田新也氏、南部保貞氏、大澤悠生氏と共同で行った[arXiv: 2207.11848]に基づく。
2月10日(金)
14:00〜
オンライン
山本 一博
(九州大学)
重力の量子性 ー Leggett-Garg不等式のアプローチを中心として ー

九州大学で取り組んでいる重力の量子性に関する研究について、中でもLeggett-Garg不等式の破れに着目した研究を中心にお話させていただきます。量子科学技術の発展を応用して重力の量子性の検証を目指した研究が注目を集めています。この重力の量子性検証研究においては重力が量子もつれを作るかどうかが一つの着眼点となっているのですが、ここでは少し視点を変えてLeggett-Garg不等式に着目します。Leggett-Garg不等式は巨視的量子系の実在性の破れという性質を検証する方法として考案され、近年色々な系に応用されています。我々の研究で擬確率分布関数を用いて重力が量子力学的な性質を持つことにより現れる二時刻Leggett-Garg不等式の破れを明らかにしました。Leggett-Garg不等式の破れを用いた巨視的振動子の量子力学的性質の検証など今後の応用も含めてお話しさせていただきたいと考えています。
2月17日(金)
14:00〜
E211
遠藤 洋太
(大阪公立大学)
Kerr ブラックホール周りのdisk current が作る真空磁気圏について

 観測技術の発達により、ブラックホール(BH)やその周囲の現象が判明しつつある。特に、宇宙ジェットや降着円盤など磁気流体と関連があると予想される現象は多い。
一方、理論的な議論では、磁気流体力学(MHD)を用いて、宇宙ジェットなどの諸現象の説明を試みている。しかし、MHDの基礎方程式が非線形となるため、解くのが難しい。そこで研究のファーストステップとして、磁気流体を無視し、真空での磁気圏を考える。先行研究ではTomimatsu and Takahashi [1]によって、Schwarzschild BH周りのdisk current が作る定常な真空磁気圏の解析解が導出されている。また、Petterson [2]によってKerr時空中でのMaxwell 方程式がTeukolsky 方程式になることを利用して、Kerr BH周りのloop current が作る真空磁気圏が導出されている。
本講演では[1,2]をレビューし、Kerr BH周りのdisk current が作る定常な真空磁気圏について現状を報告する。

[1] A. Tomimatsu and M. Takahashi, Astrophys. J. 552, 710 (2001)
[2] J. A. Petterson, Phys. Rev. D 12, 2218 (1975)
3月17日(金)
16:10〜
E211
石原 秀樹
(大阪公立大学)
プラズマ中のねじれた磁場に沿って伝播するアルベン波

 3次元球面がねじれた1次元球面をファイバーとする2次元球面上のファイバー束で表せることを動機として,一様なベルトラミ磁場を構成し,それに沿って伝播するアルヴェン波を解析した.線形化されたアルヴェン波の波動方程式を得,右手左手対称性の破れた円偏光波の解が許されることを示し,分散関係より片手モードが禁止されるカットオフ振動数の存在を明らかにした.また,右手・左手モードを重ね合わせることにより,偏光面が波の進行に沿って回転する波動解を得た. 最後に,ベルトラミ磁場に沿って伝播するアルヴェン波は,エネルギーとともに,角運動量も輸送することを明らかにした.
3月29日(水)
16:00〜
E211
Albert Escrivà
(名古屋大学)
Numerical simulations of vacuum bubbles and its consequences on the PBH scenario

There are several mechanisms for producing PBHs apart from the collapse of adiabatic fluctuations, for instance, from false vacuum bubbles, which can be generated if the inflaton becomes trapped during inflation. These localized bubbles will eventually end up forming black holes, also called baby Universes. In this work, we have numerically simulated the formation of such kind of vacuum bubbles. In particular, we have studied its dynamics, quantified the thresholds needed for its formation, studied its size and estimated the resulting PBH mass. Our results show that: i)The abundance of such PBHs dominates over those coming from the collapse of adiabatic fluctuations in the case of large-non gaussianities. ii) The mass distribution of the two channels of PBH production (collapse of adiabatic fluctuations--false vacuum bubbles) is different. iii) An analytical estimate previously used in the literature to predict the threshold for forming such bubbles seems inaccurate for large-non gaussianities, which leads to the conclusion that PBHs coming from false vacuum bubbles are more easily formed than previously found.

これ以前の情報は大阪市立大学宇宙物理・重力研究室のページを見てください。


2022年度インフォーマルセミナー


日時・場所 講演者 題目(概要:題目をクリック)
3月3日(金)
16:00〜
B105
工藤 龍也
(弘前大学)
静的円筒対称時空における光線の振る舞い

 円筒対称時空は,軸対称なコンパクト天体のモデル化への中間段階として,重力波や宇宙ひも,天体ジェットなどの様々な物理的状況を理論的に調べるために利用されてきた.
 一方,静的球対称時空におけるphoton sphere (PS)は,ブラックホールシャドウの大きさと強重力場における光の曲がり角を計算する際に重要な役割を果たす.また,PSは数理的に興味深い超曲面であり,その一般化概念も数多く提案されている.しかし,完全には一般化されていないので,静的球対称性より低い対称性を持つ時空で,このような超曲面の性質を調べ,一般化へのヒントを探ることは重要である.
 本発表では,静的円筒対称時空を考え,PSに対応する超曲面としてphoton cylinder(PC)を定義し,その幾何的性質を議論する.また,その超曲面を3次元Euclid空間に埋め込むことによって,視覚化を試みる.具体例として一般相対論の解であるLevi-Civita時空やMelvin宇宙,Conformal Weyl gravityのblack hole解を用いて議論する.


2022年度ランチセミナー


日時 紹介論文 論文番号 紹介者
4/22 Signatures of the quantum nature of gravity in the differential motion of two masses arXiv:2104.04414 吉野
5/27 First Sagittarius A* Event Horizon Telescope Results. I. The Shadow of the Supermassive Black Hole in the Center of the Milky Way ApJ. L. 930 (2022) L12 吉野
Are there echoes of gravitational waves? arXiv:2205.10921 中尾
Quasinormal Modes and Strong Cosmic Censorship PRL120 (2018) 031103 中尾
6/24 Analogue Penrose process in rotating acoustic black Hole arXiv:2205.01454 小川
Dynamically Stable Ergostars Exist: General Relativistic Models and Simulations PRL123 (2019) 231103 吉野
Variance of the Hellings-Downs Correlation arXiv:2205.05637 加藤
7/29 Axion cloud evaporation during inspiral of black hole binaries -- the effects of backreaction and radiation arXiv:2112.05774 吉野
10/21 Black Hole Entropy is Noether Charge PRD48 (1993) 3427. 末藤
Thermodynamics of Spacetime: The Einstein Equation of State PRL75 (1995) 1260. 末藤
Thermodynamical interpretation of the geometrical variables associated with null surfaces PRD92 (2015) 104011. 末藤
Quantum neural network autoencoder and classifier applied to an industrial case study Quantum Mach. Intell. 4 (2022) 13 . 森澤
11/25 Critical Gravitational Inspiral of Two Massless Particles arXiv:2209.15014. 吉野
Unconscious determinants of free decisions in the human brain Nature Neuroscience 11 (2008) 543 中尾
1/27 A connection between regular black holes and horizonless ultracompact stars arXiv:2211.05817. 遠藤
Particle motions around regular black holes arXiv:2301.10465. 吉野
Evolution of Charged Evaporating Black Holes Phys. Rev. D41 (1990) 1142. 吉野
Can a false vacuum bubble remove the singularity inside a black hole? Eur. Phys. J. C80 (2020) 713 吉野
2/24 Dynamical Instability of Self-Gravitating Membranes PRL 130 (2023) 011402. 中尾
Semiclassical gravity phenomenology under the causal-conditional quantum measurement prescription PRD 107 (2023) 024004. 吉野


2022年度若手ゼミで読む論文・テキスト


宮本 健郎 "プラズマ物理入門" (岩波書店)

D. MacDonald, K. S. Thorne,
"Black-hole electrodynamics: an absolute-space/universal-time formulation,"

J. F. Mahlmann, P. Cerdá-Durán, M. A. Aloy,
"Numerically solving the relativistic Grad-Shafranov equation in Kerr spacetimes: Numerical techniques,"