2023年度コロキウム


日時・場所 講演者 題目(概要:題目をクリック)
4月21日(金)
16:00〜
E211
中尾 憲一
(大阪公立大学)
Landscape seen by an observer freely falling to a black hole

Black Hole の周りに光源が分布していると、明るい背景に暗い円盤状の像が観測されることが理論的に予言されている。この暗い円盤状の像は Black Hole Shadow と呼ばれている。Event Horizon Telescople Collaboration は M87 銀河の中心の Black Hole Shadow と銀河系の中心にある SgrA*の Black Hole Shadow の撮像に成功したと報告し、世界に衝撃を与えたことは記憶に新しい。しかし今後さらに精度の高い観測が望まれている。この暗い像が Black Hole のシルエットであるという誤った説明がしばしば見受けられるが、ブラックホールの物理的な影響が外部の観測者に及ぶことはあり得ない。Black Hole Shadow は重力崩壊している物体のシルエットである。今回は、重力崩壊で形成される球対称 Black Hole の中に自由落下する観測者にとって Black Hole Shadow とその周辺がどのように見えるかを一般相対論に基づいて計算した結果を紹介する。
4月28日(金)
16:00〜
E211
上田 航大
(大阪公立大学)
ブラックホール時空上の有質量ボソン場のダイナミクス解析

 宇宙物理学の最大の謎であるダークマターやダークエネルギーの正体解明や素粒子理論から予測されているAdS/CFT 対応など今後様々な文脈でブラックホール時空上の有質量ボソン場のダイナミクスの解析が重要となるが、一般にブラックホール時空上における有質量ボソン場の方程式は、質量項の存在によりゲージ対称性が破れるため、変数分離および解析が容易なマスター方程式への帰着が非常に難解となる。
 本講演では、静的ブラックホール時空に焦点を当て、有質量のスピン0, 1, 2の自由場について、これまで構築してきた解析的手法について紹介する。はじめ静的ブラックホール時空を含む最も一般的なm+n次元warped product-type計量上における場の方程式の変数分離について扱い、次に具体的な時空として断面曲率が負のpure AdS時空や漸近AdSブラックホール時空における有質量場の安定性解析およびQNMs解析について紹介する。
5月12日(金)
16:00〜
E211
加藤 亮
(大阪公立大学)
パルサータイミングアレイによる重力波源の位置推定

パルサーとは、パルスを放出する中性子星のことである。パルサーを用いた重力波検出器のことを、パルサータイミングアレイと呼ぶ。重力波源から放出された電磁波を調べることで、銀河や宇宙論の検証ができると考えられている。この電磁波を検出するためには、重力波源の位置を正確に知らなければならない。本講演では、パルサーの距離推定の誤差が重力波源の位置推定に与える影響について述べる。
5月19日(金)
16:00〜
E211
インフォーマル
ディスカッション
主な議論内容

“Incompleteness Theorems for Observables in General Relativity”(森澤)arXiv:2305.04818
“A ring-like accretion structure in M87 connecting its black hole and jet”(中尾)Nature 616 (2023) 686
“これからの研究計画”(上田)
“質量が大きい AdS-BH 時空での有質量スカラー場に対する近似”(吉野)
5月26日(金)
16:00〜
E211
石橋 明浩
(近畿大学)
漸近安全な量子重力における量子ブラックホールと熱力学

漸近安全な量子重力理論は,厳密繰り込み群の手法に基づく場の量子論としての量子重力の試みであり,近年になって宇宙論やブラックホール時空への応用研究が進展しています.本発表では,漸近安全な量子重力における量子補正ブラックホールの構成法と諸問題について解説します.特に,重力と共に電磁相互作用の量子効果を取り入れた場合の量子補正ブラックホールと特異点の解消可能性,回転を伴うブラックホールに対する量子補正とブラックホール熱力学との整合性問題,その解決策と量子補正エントロピー公式について解説します.
6月2日(金)
 
 
草深 陽
(東京大学)

台風接近のため延期

6月9日(金)
16:00〜
E211
上田 和茂
(神戸大学)
原始宇宙磁場の下での原始重力波の振幅と量子性

将来の原始重力波探査を考える上で、環境による原始重力波の変化を知ることは非常に重要である。 近年のガンマ線観測により、現在の宇宙には10^{-16}ガウスから10^{-9}ガウス程度の大きさで、コヒーレンス長がメガパーセクを超える磁場の存在が示唆されている。磁場の構造のスケールはおおよそ磁場を発する物体の大きさに比例するため、このような大スケールの磁場を生成する機構としては、インフレーションに関わるものが有力であると思われる。もしインフレーション期に背景磁場が存在した場合、重力波と電磁場の間には背景磁場を介した相互作用 (graviton-photon conversion)が生じる。本講演では、上記の相互作用に関する最近の研究(arxiv:2301.13540、2211.05576、2207.05734)について紹介し、原始宇宙磁場による原始重力波の振幅や量子的な性質への影響について議論する。
6月16日(金)
16:00〜
オンライン
仙洞田 雄一
(弘前大学)
輝く暗黒物質としての原始ブラックホール

 2015年に果たされた重力波の初検出は、それと同時に、太陽の数十倍の質量という重さを持つ未知のブラックホール種族の発見でもありました。そのような質量のブラックホールが通常の宇宙物理学的環境の中で形成され、進化する過程についての理論の構築が未完であるように見られる傍ら、初期宇宙で形成される原始ブラックホール(PBH)はそれらの自然な起源の説明となる可能性があります。そのためPBHへの関心は最近になって再興し、宇宙の暗黒物質の候補として、また、初期宇宙のモデル、特にインフレーションの探針として、かつて以上に熱心に研究されるようになっています。こういったPBHのうち、特に小惑星程度の質量より軽いものは、ホーキング効果によって顕著な粒子放射を起こしていると考えられるため、宇宙線観測を通じて探索することが可能であろうという期待が持たれています。今回の発表では、軽量のPBHからのホーキング放射の理論モデルから始め、私たちの一連の理論研究の中で、特にガンマ線やX線の観測データに基づいてPBHの探索を進めてきた部分の成果を取り上げて説明するつもりです。

参考文献
B.J. Carr, K. Kohri, YS & J. Yokoyama
[1] Phys. Rev. D 81, 104019 (2010), arXiv:0912.5297 [astro-ph.CO]
[2] Phys. Rev. D 94, 044029 (2016), arXiv:1604.05349 [astro-ph.CO]
[3] Rep. Prog. Phys. 84, 116902 (2021), arXiv:2002.12778 [astro-ph.CO]
6月23日(金)
16:00〜
E211
小嶌 康史
(広島大学)
J=kB の成分がある天体の磁場構造

天体スケールの構造(特に、方向性)がよりミクロの状態に起因する考えがある。 磁場と電流が平行となるベルトラミ性が関係する(生じる)フォースフリー磁気圏やミクロな乱流ダイナモなどの概念を紹介した後、 ベルトラミ磁場がある場合に通常の磁気流体波動がどのように変更されるかを議論する。古典電磁気学と非相対論の枠組みで、概念的理解を主眼とし、議論が盛り上がることを期待する。
6月30日(金)
16:00〜
学情6Fセミナー室
小川 達也
(大阪公立大学)
量子プログラミング入門

近年、量子コンピュータの開発と、量子コンピュータを用いた計算アルゴリズムが盛んに研究開発されており、いずれ、交通・金融・薬品開発などの現場で活躍することが期待されている。古典コンピュータがビットに対して論理ゲートを作用させ、ビットの値を操作することで計算を実行するのに対し、量子コンピュータでは古典ビットの量子対応である、「量子ビット」に論理ゲートの量子対応である、「量子ゲート」を作用させ量子状態を操作することで計算を実行する。本公演では現在の量子コンピュータはどのような原理で、どのような計算が実行できるのかといった点を紹介する。またそのプログラミングの作成と実行方法についても紹介したい。
7月7日(金)
16:00〜
E211
田中 智
(大阪公立大学)
Geometrical view of the quantum vacuum instability in the symplectic space

超高速レーザーパルスの実験技術の進展に伴い超高強度の電磁場による光と物質の強結合系に対する研究が進んでいます。超高強度電磁場に対する光応答を理解するために、従来の摂動論を超えた非摂動論的な解析が必要となります。現在ヨーロッパで稼働し始めたExtereme Light Infrastructureでは10^23W/cm^2を超えるレーザー光源の開発が進み、新たな光科学の分野が開かれようとしています。なかでも特に興味深いのは、量子真空の構造に関する探究です。量子力学によれば、真空(T=0の基底状態)は古典真空とは異なり、仮想粒子が過渡的に生成消滅を繰り返すダイナミカルな状態です。超高強度電磁場を用いて、真空崩壊、シュウィンガー効果、真空偏極などの量子真空揺らぎとその構造の探究が進んでいます。真空は粒子存在の基盤なので、この真空自体が不安定化し相転移を起こせば、物質の構造自体また粒子の概念自体の転換が必要となります。このコロキュウムでは量子真空不安定化のダイナミクスについて、位相制御されたパラメトリック増幅系という典型的なモデルを用いて調べます。系を支配するハミルトニアンはsu(1,1)群のLie代数で表され、量子相転移への臨界がパラメーター空間における例外面(exceptional surface)として現れることを示します。系の固有モードをシンプレクティック空間における複素ボゴリュボフ変換として求めました。これにより、新しい真空状態への変換は非ユニタリ変換となり、量子真空はrigged Hilbert spaceの超関数として表わせることを説明します。また、量子相転移特異性を検知するための手段としての断熱固有モードに付随するベリー位相が、励起パルスの位相変化によるスクイージング方向の回転として観測できることについて話します。この量子不安定性の機構と動的カシミール効果、超放射転移などの物理系との関連について考察します。
7月14日(金)
16:00〜
学情6Fセミナー室
松尾 賢汰
(大阪公立大学)
Wald解とブラックホールの帯電について

TBA
7月21日(金)
16:00〜
F214
草深 陽
(東京大学)
相対論的ジェットに於ける磁場散逸問題解決に向けて

相対論的ジェットはブラックホールなどのコンパクト天体から光速の99%以上の速度で噴出する細く絞られたアウトフローのことである。銀河の宇宙論的進化に影響を与え得る重要な天体現象であるが、発見から100年以上経った現在でもその生成・加速機構やガンマ線放射機構等多くの理論的課題が残されている。
 本講演では高エネルギー天文学に於ける課題の一つである磁場散逸問題について言及する。ジェットがガンマ線を放射するには、そのエネルギーを熱へと散逸させる必要がある。歴史的には衝撃波による散逸が考えられてきたが、原理的に磁気エネルギーを散逸できない。代替案として磁気リコネクションによる散逸が近年活発に議論されているが、偏光観測の結果と矛盾している可能性が指摘されている。こうした問題の解決策の一つとなり得る「磁気エネルギー転換機構」について紹介する。
7月28日(金)
16:00〜
E211
大西 翔太
山崎 幹太
(大阪公立大学)

夏の学校前発表練習会

7月31日(月)
13:30〜
F205
A. Gopakumar
(TIFR, Mumbai, India)
Murmuring of the fabric of our Universe

Very recent independent and coordinated investigations by the established Pulsar Timing Array collaborations strongly indicate that the universe is humming with gravitational radiation-a very low-frequency rumble that rhythmically stretches and compresses spacetime and the matter embedded in it.

For these International Pulsar Timing Array-endorsed 3P+ efforts, the European and Indian Pulsar Timing Array consortia, namely EPTA and InPTA, pooled together their resources that included combining EPTA's second data release and InPTA's first data release. These efforts allowed us to probe and characterize the contributions of instrumental noise and interstellar propagation effects that are present in the various combinations of our pulsar data sets. The resulting detailed investigations reveal strong evidence for the presence of a stochastic gravitational wave background.

I will share the excitement of our InPTA collaboration which is an Indo-Japanese effort that employs niche abilities of India's upgraded Giant Metrewave Radio Telescope (uGMRT). Possible future directions that should be exciting to both astronomers and physicists will be listed.
10月13日(金)
14:00〜
F212
吉野 裕高
(大阪公立大学)
電磁真空時空における歪んだ光子面の形成

本講演では Claudel らが提案した「光子面」について議論する。光子面は Schwarzschild 時空の r=3M (光子球面)の拡張概念で、その任意の点から任意の接する方向に光を飛ばしたときに、光がその面上を伝播しつづけるような時間的超曲面である。この条件は強いので、光子面が存在する状況はかなり制限される。本講演では光子面に関して導かれた唯一性定理を概観したのち、今回おこなった Reissner-Nordström 時空の静的摂動の解析を紹介する。背景時空の光子面の外側で正則な摂動を考えると、質量および電荷の多重極モーメントを加えることに対応する2種類の独立な解がある。これらの2つの摂動の振幅を調節すれば、歪んだ光子面が存在しうることを示す。これは電磁真空時空では光子面の唯一性が成り立たない可能性を示唆する。
参考文献: H.Yoshino, arXiv:2309.14318.
10月20日(金)
14:00〜
F212
山崎 幹太
【夏の学校発表会】

大西 翔太
【夏の学校報告会】
カー時空上におけるプラズマ中の光の伝播とブラックホールシャドウ

ブラックホール周りにおいて、太陽周りのようにプラズマが分布していると考えられ、光路が変化することでブラックホールシャドウの形が変化すると考えられる。そこで、カーブラックホール周りにおける非磁性かつ無圧のプラズマ中の光の伝播について調べることで、ブラックホールシャドウがどのような影響を受けるかを見る。ここでは、ブラックホールシャドウの境界曲線の解析解を導出する。解析解を導出するためにプラズマの電子密度が満たす必要十分条件は、光のハミルトニアン・ヤコビ方程式が変数分離可能であること、すなわちカーター定数が存在することである。この条件を満たすプラズマ中で光が存在する範囲を求めることで、ブラックホールシャドウの境界曲線を導く。また、本発表はPHYSICAL REVIEW D 95, 104003 (2017)のレビューである。

重力波と分光銀河との相互相関を用いた宇宙論パラメータの推定

今回は[PhysRevD.93.083511]をレビューする。重力波観測は2015年のLIGOによる初検出以降発展してきており、それと同時に観測データの解析手法の向上が不可欠な情勢である。重力波はその波源までの光度距離を、波形の解析によって直接的に得られるというメリットがある。ハッブル定数を推定するためには、重力波に伴う電磁波対応天体(EM)から赤方偏移を求める必要があるが、これは必ずしも得られない。今回の論文では、赤方偏移を重力波源と分光銀河との相互相関関数を用いる方法で求め、光度距離と合わせてハッブル定数を推定したということを述べる。また、次世代型検出器の分解能から期待されるハッブル定数の値や誤差についても現状の方法と比較、検討する。
10月27日(金)
14:00〜
F212
松野 研
(大阪公立大学)
量子Oppenheimer-Snyderモデルにおけるブラックホール熱力学と光の湾曲

最近、ループ量子重力において、量子Oppenheimer-Snyder重力崩壊モデルが構成された。崩壊するダスト球の外部計量は、量子補正されたSchwarzschild時空を表している。そこで、このブラックホールの温度、熱容量、エントロピー等における量子重力効果を議論した。さらに、この時空における光子の運動を考えて、一般相対論に対する光の偏向角の補正を議論した。
11月17日(金)
14:00〜
F212
松野 皐
(大阪公立大学)
3次元擬リーマン佐々木多様体上のweak Killingスピノルの幾何学的性質

Einstein重力と古典的なスピノルの成す系であるEinstein-Dirac系の厳密解の構成は興味ある問題である。Friedrichらによりweak Killing (wK)スピノルというKillingスピノルのある種の一般化が提案されており、擬リーマン多様体(M,g)上にwK-スピノルψが存在するならば、(M,g,ψ)はEinstein-Driac系を成すことが示されている。一般にEinstein-Driac系(M,g,ψ)が与えられたときψはwK-スピノルであるとは限らないが、(M,g)が3次元のときは逆も成り立つ。よって3次元時空のEinstein-Dirac系の厳密解はwK-スピノルの存在と同値である。我々は3次元の佐々木時空におけるwK-スピノルの幾何学的、物理的性質を調べ、全ての厳密解を構成した。また特殊な電磁場とwK-スピノルを使いEinstein-Dirac-Maxwell系の厳密解も構成した。本公演ではwK-スピノルの一般論を紹介してから、3次元佐々木時空におけるwK-スピノルの幾何学を論じる。
文献: Matsuno, Satsuki, and Fumihiro Ueno. "On Sasakian quasi-Killing spinors in three-dimensions." arXiv preprint arXiv:2308.10432 (2023).
11月24日(金)
14:00〜
オンライン
木村 元
(芝浦工業大学)
一般確率論に基づく量子論及び情報理論への応用

量子論の成功に疑いを挟む人はおそらくいないだろうが,物理学の理論としては実に奇妙である.

解釈の問題はさておき,実験によって確立された物理学の原理や基本法則に依存するのではなく,Hilbert空間やC*代数といった抽象的な数学的構造を先験的に仮定し,そこから物理の法則を演繹している点で,非常に冗長な構造を持っているからである.

これが量子論を直感的に理解しにくい一因となっている.

近年では,操作主義的に最も一般的な一般確率論を舞台にして量子論を再構築する試みが盛んに行われている.特に,量子情報理論の発展に伴い,情報理論的な原理を模索する研究が進展している.注目を集めているのが「情報因果律」と呼ばれる原理であり,これにより量子相関限界の一部(チレルソン限界)が見事に説明された.また,一般確率論に基づく情報理論の展開も目覚ましいものである.確率量子論という特定の物理法則に依存しない一般情報理論を構築することにより,情報処理の本質や物理原理との関連を理解することが可能である.例えば,量子論の正しさを仮定せずに,安全な鍵配送を論じることができる装置非依存な鍵配送はその一例である.本講演は,これらの進展を講演者らの研究も交えて紹介するチュートリアル講演となる.
12月08日(金)
14:00〜
F212
佐藤-澤田 聡子
(大阪公立大学)
超高分解能撮像観測で明らかにする巨大ブラックホールの活動

近年の電波干渉計や超長基線干渉計を用いた高角分解能観測によって、活動銀河核のブラックホール近傍の環境が明らかになってきました。これらの観測により、ブラックホールへの物質降着やジェット噴出といったブラックホールの活動的な姿が描かれはじめています。本講演では、最近の観測結果とそれらの解釈を紹介し、さらに今後の展望もお話します。
12月15日(金)
14:00〜
F212
末藤 健介
(大阪公立大学)
正則ブラックホールとその時空構造

近年,ブラックホール情報損失問題の解決方法の一つとして,特異点を持たないブラックホール(正則ブラックホール)が注目を集めている.ブラックホール蒸発の終段階ではホライズンスケールが小さくなり,特異点の有無が蒸発に影響を及ぼすと考えられるからである.実際,特異点のあるブラックホールと異なり,正則ブラックホールは蒸発しきらない可能性が指摘されており,蒸発終段階の様子が異なる.
本講演では正則ブラックホールの導入から始め,蒸発しきらない正則ブラックホールの時空構造に焦点を当てて発表していく.
12月22日(金)
14:00〜
F212
天羽 将也
(京大基研)

延期

01月05日(金)
14:00〜
F212
松尾 賢汰
(大阪公立大学)
定常軸対称なブラックホール磁気圏における荷電粒子の運動(修論直前報告会)

宇宙ジェットのエネルギー源として、ブラックホールの回転エネルギーを磁場を使って引き抜くBlandford-Znajek過程(BZ過程)が考えられている。一般的にブラックホールまわりの磁場を求めることは困難だが、定常軸対称なフォースフリー磁気圏は、Grad-Shavranov 方程式で決められることが知られている。Grad-Shavranov方程式は数値的に解くのも簡単ではない楕円型の準線型方程式であるが、BrandfordとZnajek によって摂動解(BZ解)が与えられている。そこで、まずBZ解の0次の解であるモノポール磁気圏においての荷電粒子の運動を調べる。このとき、BHの上を浮かぶような荷電粒子の安定な円軌道について考察していく。
01月12日(金)
14:00〜
F212
森澤 理之
(大阪公立大学)
接触構造をもつヌル超曲面を葉とする葉層構造をもつ時空について

Einstein静的宇宙やGödel時空は、2次元空間を底空間とし空間的/時間的なファイバーをもつファイバーバンドルとしての空間的/時間的な超曲面を時間/空間方向に積み上げた構造をもっている。

本研究では光的なファイバーをもつファイバーバンドルを光的に積み上げた構造の時空を考える。

また、必然的に縮退した計量をもつヌル超曲面を扱うことになるが、その際の基本的な事項についても触れる。
01月19日(金)
14:00〜
F212
松尾 善典
(近畿大学)
蒸発するブラックホールの地平面について

ブラックホールの最も重要な構造である事象の地平面は、定常ブラックホールでは局所的な時空の構造と関係づけることができるが、時間変化するブラックホールでは局所的な構造との関係は明らかではない。特に、量子論の効果を取り入れると、ブラックホールはHawking輻射を放出して最終的に蒸発することが知られており、古典的な定常解とは大きく異なる構造を持つ。本講演では、Hawking輻射などの物質場の量子論の効果を取り入れた半古典重力におけるブラックホールについて解説する。半古典重力における定常ブラックホールは事象の地平面を持たない。蒸発するブラックホールの解はこの定常解にHawking輻射の効果を取り入れることで構築できるが、蒸発の際にブラックホールの内部が外部と分離することで事象の地平面が現れる。このことは蒸発するブラックホールにおける事象の地平面が古典的なブラックホール解の事象の地平面とは全く異なる起源を持つことを示唆している。
01月26日(金)
14:00〜
F212
天羽 将也
(京大基研)
定常AdSブラックホールの面積の上限予想

[1]に基づいて漸近的反ド・ジッター時空のブラックホールの熱力学をレビューし、[2]に沿ってブラックホールの基本料の間の一般的な不等式予想を提唱する。本不等式は、逆等周不等式(Reverse Isoperimetric Inequality)[3]と呼ばれる面積と熱力学体積の間の関係式を、より強い主張へと精査した不等式(Refined Reverse Isoperimetric Inequality、RRII)であり、質量、角運動量、熱力学体積を用いて面積の上限を与える。特に、角運動量が0の時空においては、RRIIは逆等周不等式に帰着する。この様子は、漸近的平坦時空において面積に上限を与えるPenrose不等式が、角運動量の寄与によって精査されることと類似している。RRII予想の具体的な主張は、任意のブラックホールの面積は、質量と角運動量と熱力学体積が等しいKerr-AdS時空のブラックホール面積以下である、というものである。この予想について、様々なブラックホール解について検証を行い、その全てにおいてこの予想が正しいことを確かめる。また、漸近的平坦時空においても、同様の予想を紹介する。

[1] Kastor, Ray, Traschen, Class.Quant.Grav. 26, 195011, [arXiv: 0904.2765] (2009).
[2] Amo, Frassino, Hennigar, Phys. Rev. Lett. 131, 241401, [arXiv: 2307.03011] (2023).
[3] Cvetic, Gibbons, Kubiznak, Pope, Phys. Rev. D 84, 024037, [arXiv: 2307.03011] (2011).
02月02日(金)
14:00〜
F212
遠藤 洋太
(大阪公立大)
Kerr ブラックホール周りの薄いディスク上を流れる荷電電流が作る真空磁気圏

観測技術の発達により、ブラックホール(BH)やその周囲の現象が判明しつつある。特に、宇宙ジェットや降着円盤など磁気流体と関連があると予想される現象は多い。一方、理論的には磁気流体力学(MHD)を用いて、宇宙ジェットなどの諸現象の説明を試みている。しかし、曲がった場でMHDの基礎方程式が非線形偏微分方程式となるため、解析的に解くのが難しい。そこでファーストステップとして磁気流体を無視した真空磁気圏を考える。
Kerr BH周りの真空のMaxwell方程式がNewman & Penrose の手法を用いることで変数分離可能であることを利用し、この方程式の解が先行研究とは異なる関数の重ね合わせで表せることを示した。また境界条件として、赤道面で内端を持つ薄いディスク状の電荷・電流分布を仮定しcharged disk current が作る定常な真空磁気圏を明らかにした。
02月16日(金)
14:00〜
F212
石原 秀樹
(大阪公立大)
相対論的「渦なし渦」の真空コア

非相対論的流体力学では,圧縮性完全流体の軸対称定常渦が速度場のrotをもたない(渦なし渦)とすると,有限の太さをもった真空領域が形成されることが知られている.相対論的な流体力学の初歩をたどりながら,基礎方程式が相対論的に拡張されたとき,真空渦がどうなるかを考察する.この話は,工学部の松岡千博教授との議論に基づいている.


2023年度ランチセミナー


日時 紹介論文 論文番号 紹介者
4/28 Message in a bottle: energy extraction from bouncing geometries arXiv:2304.08520 吉野
Two boson stars in equilibrium Phys. Rev. D 106 (2022) 124039. 吉野
5/26 Two boson stars in equilibrium Phys. Rev. D106 (2022) 124039. 小川
Q-balls, Integrability and Duality arXiv:0809.3895. 小川
On the Hoop conjecture and the weak cosmic censorship conjecture for the axisymmetric Einstein-Vlasov system arXiv:2305.04360. 中尾
Hunt for light primordial black hole dark matter with ultrahigh-frequency gravitational waves Phys. Rev. D106 (2022) 103520. 吉野
6/30 Hamilton-Jacobi and Schrodinger Separable Solutions of Einstein’s Equations Commun. Math. Phys. 10 (1968) 280. 末藤
Magnetars and the Chiral Plasma Instabilities arXiv:1402.4760. 吉野
7/28 Peculiar velocity effects on the Hubble constant from time-delay cosmography Phys. Rev. D107 (2023) 123528 中尾
Separating the superradiant emission from the Hawking radiation from a rotating black hole Phys. Lett. B843 (2023) 138056 吉野
10/27 The correspondence between rotating black holes and fundamental strings arXiv:2307.03573 吉野
12/08 A quantum engine in the BEC–BCS crossover Nature 621 (2023) 723–727 松尾
JGRG32 報告 JGRG32 web site 吉野
12/22 Validation of the 10Be Ground-State Molecular Structure Using 10Be(p,pα)6He Triple Differential Reaction Cross-Section Measurements Phys. Rev. Lett. 131 (2023) 212501 森澤
Observation of a correlated free four-neutron system Nature volume 606, pages678–682 (2022) 森澤
Othello is Solved arXiv:2310.19387 [cs.AI] 森澤
Iterative extraction of overtones from black hole ringdown arXiv:2311.12762 [gr-qc] 中尾
Close-limit analysis for head-on collision of two black holes in higher dimensions: Brill-Lindquist initial data arXiv:gr-qc/0508063 吉野
01/26 研究会「素粒子・宇宙・重力と量子センシング」 報告 Web site 吉野
(Information) Paradox Regained? A Brief Comment on Maudlin on Black Hole Information Loss Foundation Phys. 48 (2018) 611 末藤
03/01 研究会 “General Relativity and Beyond” 報告 Web site 松野研
Rotating Curved Spacetime Signatures from a Giant Quantum Vortex arXiv:2308.10773 松野研
A Postquantum Theory of Classical Gravity? Phys. Rev. X 13 (2023) 041040 遠藤


2023年度若手ゼミで読む論文・テキスト


S. Mastrogiovanni, C. Karathanasis, J. Gair, G. Ashton, S. Rinaldi, H.-Y. Huang, G. Dálya,
"Cosmology with Gravitational Waves: A Review,"(大西)

The LIGO Scientific Collaboration and The Virgo Collaboration et al.
"A gravitational-wave standard siren measurement of the Hubble constant,"(大西)

V. Perlick, O. Y. Tsupko,
"Light propagation in a plasma on Kerr spacetime: Separation of the Hamilton-Jacobi equation and calculation of the shadow,"(山崎)


2022年度以前のコロキウム・セミナー