TpkD の耐熱性機構


 高度好熱菌 Thermus thermophilus HB8 は至適生育温度が約75°Cの真正細菌であり、タンパク質の耐熱性の高さが研究上の利点の一つである。しかし、なかには耐熱性が低いものもあり、翻 訳後修飾で働く protein kinase TpkD もその一つである。興味深いことに、精製した TpkD は ATP 存在下で二次構造が約30°Cも安定化されることが分かった(下図)。リガンドによってタンパク質の安定性がこれほど上昇する例は少なく、他に類を見ない ものであ る。そこで、その安定化機構の解明を試みた。まず、ATP添加によるTpkDの構造変化を二次・三次・四次構造について分光学的手法を用いて解析したとこ ろ、三次構造でのみ変化が見られた。次に、 尿素変性によってTpkDの変性過程を解析した。その結果、二次構造と三次構造は同時に変性しており、ATP非存在下でのみ変性中間体が出現することが分 かった。さらに詳細に解析するため、TpkDに3つあるTrp残基を置換した変異体についても同様の実験を行った。これらの結果と、TpkDのアミノ酸配 列をもとに予測した立体構造モデルから、ATPによるTpkDの安定化は、疎水性コアの構造変化が深く関わっていることが示唆された。

・Fujino et al. (2021) FEBS Lett., 595(2), 264-274
    https://doi.org/10.1002/1873-3468.13996




図 リガンド存在下における TpkD の熱安定性
(A) TpkD の遠紫外部 CD スペクトル (25℃)。5 mM MgCl2、1 mM ATP 存在下でもスペクトルの形は変わらない。
(B) リガンド非存在下、5 mM MgCl2 存在下、1 mM ATP 存在下、およびその両方の存在下における 5 μM TpkD の CD 値 ([θ]222の相対値) の温度変化。Mg-ATP 存在下でのみ,30℃ 近くも変性温度が上昇した。
(C) 5 mM MgCl2 存在下で ATP 濃度を 0−1 mM の範囲で変化させたときの TpkD の変性中点温度 (Tm)。
(D) さまざまなアデニンヌクレオチド存在下における TpkD の CD 値の温度変化。


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